【遺言の検認|検認義務・手続の流れ・遺言作成時の注意】

1 自筆証書遺言/秘密証書遺言は『検認』が必要
2 遺言の『確認』手続|一般危急時/船舶危難者遺言のみ
3 検認義務違反×ペナルティ|過料や相続権喪失など
4 検認手続×流れ|相続人全員に立会要請|検認期日の通知
5 検認手続×確認事項・目的|遺言の内容確認→偽造・変造防止
6 検認手続×遺言の有効性判断|影響を与える例
7 検認済証明が必要な場面|典型例=預貯金払戻・不動産登記
8 自筆証書遺言を作る場合,『検認』に配慮しておくと良い
9 『検認』件数から,自筆証書遺言の作成が増えていることが分かる

1 自筆証書遺言/秘密証書遺言は『検認』が必要

公正証書以外の遺言(主に自筆証書遺言)は,保管について公的なシステムがあるわけではありません。
例えば,被相続人(故人)が亡くなった後に,遺言が発見されるということはよくあります。
また,近親者が遺言を保管していたという場合もあります。
そこで裁判所で遺言を開封して確かめる手続があります。

<遺言×『検認』義務>

あ 検認|対象となる遺言

ア 自筆証書遺言イ 秘密証書遺言

い 検認『不要』である遺言

公正証書遺言
※民法1004条2項

う 検認手続×申立人

次の者は検認を申し立てる義務がある
ア 遺言の保管者イ 遺言を発見した相続人

え 管轄裁判所

検認手続を申し立てる裁判所
=遺言者の最後の住所地or相続開始地の家庭裁判所

2 遺言の『確認』手続|一般危急時/船舶危難者遺言のみ

『検認』と似ている手続として『確認』の申立があります。
『検認』と誤解・混同が多いので注意が必要です。

<遺言×『確認』手続>

あ 確認|対象となる遺言

ア 一般危急時遺言イ 船舶遭難者遺言

い 確認×申立時期

『遺言作成日』から20日以内

う 確認×申立人

次のいずれかの者
ア 証人の1人イ 利害関係人

え 家庭裁判所の審理

遺言が『遺言者の真意』であるかどうかを判断する

お 『検認』との違い

『検認』とは異なる手続である
『遺言者の死後』に申し立てるとは限らない
※民法976条4項,5項,979条3項,4項

3 検認義務違反×ペナルティ|過料や相続権喪失など

現実に,封印された遺言を発見した方が,検認する前に開封してしまうということがあります。
意図的であることも,単に『ルールを知らなかった』ということもあります。
さらに,開封して遺言内容を見て,『自分に不利』と分かると,『なかったことに』してしまいたくもなりましょう。
このような違反については,民法上ペナルティが規定されています。

<検認義務違反×ペナルティ>

あ 違反して遺言執行・開封(※1)

過料5万円以下
※民法1005条

い 故意に遺言を隠匿,破棄

相続権を失う
詳しくはこちら|相続人の範囲|法定相続人・廃除・欠格|廃除の活用例

<『開封』の意味(上記※1)>

『封筒の綴じた部分に押印があるもの』(=『封印』)が対象である
単に『糊付けして綴じて押印していないもの』は対象外である

4 検認手続×流れ|相続人全員に立会要請|検認期日の通知

検認の手続の内容は,遺言の開封内容の確認です。

<検認手続×流れ>

あ 検認の申立

遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てます。

い 検認期日の通知

家庭裁判所は,相続人全員に,『遺言書検認の期日』を通知(送付)します。
この通知を受けた相続人が『検認期日に立ち会う』かどうかは自由です。
また,この通知が届いても,『相続する財産がある』とは限りません。

う 検認の実施(後記『4』)

検認期日に,相続人が立ち会っている中で,裁判官が開封や内容確認など手続を行ないます。
その結果は,『検認調書』として記録されます。

え 検認済証明+遺言書の返還

家庭裁判所は,遺言書の末尾に検認済の記載+押印を行ないます。
そして,押印済の遺言書原本を申立人に返還します。

お 検認済通知書送付

家庭裁判所は,検認に立ち会わなかった相続人(申立人,受遺者)に『検認済通知書』を送付します。

5 検認手続×確認事項・目的|遺言の内容確認→偽造・変造防止

検認手続で審査・確認されることは,外形・形式的なものです。
裁判所が,遺言の内容自体の審査・判断を行うわけではありません。

<検認手続×確認事項・目的>

あ 確認事項

ア 遺言(書面)の形状イ 加除訂正の状態ウ 日付・署名など遺言の内容

い 検認(確認)することの効果(目的)

ア 遺言の偽造・変造を防止するイ 遺言の存在を相続人などの関係者に知らせる

う 審査対象ではない事項

ア 遺言者が真意であったかどうかイ 遺言が所定の形式に違反しているかどうか ※いずれも『有効/無効』の判断と直結しています。

6 検認手続×遺言の有効性判断|影響を与える例

前記のとおり,検認手続では,遺言の『有効/無効』については審査・判断しません。
検認手続の時に,特に裁判所から指摘されないで,スムーズに終わった,という場合でも『遺言が有効』と言えるわけではないのです。
非常に誤解されやすいところです。注意が必要です。

しかし,現実には検認手続は有効性判断に大きく影響すると言えます。

<検認手続×遺言の有効性判断|影響を与える例>

あ 検認をせずに相続人の1人が開封して保管していた

偽造した疑いが生じる

い 相続人全員で開封したが,一部の者はじっくりと見る時間がなかった

開封後に変造したという疑いが生じる

う 検認したが,相続開始(死亡)から長期間経過後であった

偽造した疑いが生じる

もともと検認の目的は遺言の偽造・変造を防ぐというものです。
これは,裏返すと『偽造・変造という疑いを持たれない』『偽造・変造という主張をされることを回避する』ということになります。
いずれにしても,『偽造・変造』はストレートに『遺言を無効とする』ものです。
結局,検認手続は遺言の有効性判断に影響している,ということになります。

7 検認済証明が必要な場面|典型例=預貯金払戻・不動産登記

検認手続は,偽造・変造を防ぐという目的以外に,形式的に必要とされることもあります。

<検認済証書が必要な場面|典型例>

あ 遺産の預貯金を相続人・受遺者が払い戻す時
い 遺産の不動産について登記手続を行う時

※不動産登記法25条5号
※登記先例;平成7年12月4日民三第4344号民事局第三課長通知

これらの場面では,一般的に,検認済の遺言の提示,が必要にされています。

8 自筆証書遺言を作る場合,『検認』に配慮しておくと良い

以上は,相続開始(死亡)後の手続に関する説明でした。
これらを踏まえて,遺言作成時から注意を払っておくと,無用な争いを防ぐことができます。

(1)封筒に『検認必要』というコメントを書くと良い

上述のとおり,遺言者の死後,相続人が知らずに開封してしまうという実例が多いです。
これによって,過料などのペナルティや『偽造と主張される』リスクが生じます。
そこで,封筒自体に注意を記載しておくと良いです。

<遺言の封筒への注意事項記載例>

開封しないで家庭裁判所の検認を申し立てること

(2)公正証書遺言を活用すると万全

公正証書遺言だけは検認手続が不要です(封印しないことが前提です)。
当然,検認義務違反のペナルティなどが相続人に適用されることも避けられます。
例えば,不動産を承継した相続人の1人が単独で登記を行うことが可能となります。

検認が不要なので,他の相続人に知られないまま登記の移転を完了できます。
預貯金の払戻についても同様です。
もちろん『不正を隠す』ではなく,『正当な行為を無意味に遅滞させられるを防ぐ』という意味です。

また,公正証書原本を公証役場で保管していますので,(検認とは関係なく)『偽造・変造の疑い』のトラブルも生じません。

9 『検認』件数から,自筆証書遺言の作成が増えていることが分かる

自筆証書遺言の作成は,公的な手続がありません。
全国で作成されている実数・統計はありません。
この点,家庭裁判所での『検認』の件数から増減についての傾向を把握することはできます。

<遺言の検認の件数|司法統計>

新受件数 倍率
1955年 640
1965年 971 1.51
1975年 1870 2.92
1985年 3301 5.15
1995年 9065 12.60
2005年 1万2347 19.29
2012年 1万6014 25.02

参考として,2013年の公正証書遺言の作成された数は9万6020通です。

<参考情報>

『月報司法書士2014年9月号』日本司法書士会連合会p4〜
日本経済新聞電子版平成26年4月5日

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