1 昭和女子大学事件(心裡留保)
2 学校法人徳心学園(横浜高校)事件(錯誤)
3 昭和電線電纜事件(錯誤)
4 石見交通事件(強迫)

1 昭和女子大学事件(心裡留保)

退職の意思表示(退職届提出)の後で,これが無効となることもあります。判断基準は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|退職の強要と意思表示(退職届)の無効(全体・判断基準・紛争予防)
本記事では,退職の意思表示を無効と認めた裁判例を紹介します。使われた法律構成(法律の規定)ごとに分けて紹介します。
なお,法律構成によって現実的・実質的な違いはないです。
まずは『心裡留保』として無効となったケースです。

<昭和女子大学事件(心裡留保)>

あ 事案

学長が大学教員に次のように指示した
『勤務継続の意思があるならそれなりの文書を用意せよ』
教員は退職に追い込まれると誤解した
教員は大学に退職届を提出した

い 裁判所の判断(評価)

教員は実際には退職する意思を有していなかった
=退職届の提出は教員の真意に基づくものではない
大学側もこの事情を知っていた

う 裁判所の判断(結論)

退職の意思表示は心裡留保により無効である
※民法93条
※東京地裁平成4年2月6日;昭和女子大学事件

2 学校法人徳心学園(横浜高校)事件(錯誤)

錯誤により退職の意思表示が無効となったケースです。

<学校法人徳心学園(横浜高校)事件(錯誤)>

あ 事案

校務主任が従業員に『懲戒解雇になる』と説明した
従業員はこれを信じて退職願を提出した

い 裁判所の判断

懲戒解雇に相当する事情はなかった
『要素の錯誤』に該当する
→退職の合意は無効である
※民法95条
※横浜地裁平成7年11月8日

3 昭和電線電纜事件(錯誤)

錯誤無効により退職の意思表示が無効となった別のケースです。

<昭和電線電纜事件(錯誤)>

あ 事案

会社が従業員に退職を勧奨した
従業員は『解雇処分』になることが確実だと思った
退職勧奨を承諾した
従業員は『退職手続申請書』を会社に提出した
自己都合退職を理由としたものであった

い 裁判所の判断

解雇事由は存在しなかった
解雇処分がなされる理由はなかった
従業員の退職承諾は『動機の錯誤・要素の錯誤』があった
→退職の合意は無効である
※民法95条
※横浜地裁川崎支部平成16年5月28日

4 石見交通事件(強迫)

退職の意思表示について,強迫による取消を認めたケースです。

<石見交通事件(強迫)>

あ 事案

従業員の祖母が会社に抗議した
会社が従業員に退職を強要した
後から従業員は退職の取消を主張した

い 裁判所の判断

解雇についての正当な理由はない
『強迫による意思表示』に該当する
→意思表示の撤回を認める
※民法96条
※松江地裁益田支部昭和44年11月18日