【退職金|従業員/役員で支給義務の有無が違う】

1 従業員退職金は規定によって請求できる
2 成績不良・懈怠の従業員の退職金
3 退職金の消滅時効は従業員5年,役員10年
4 役員退職金は取締役会等の裁量が認められている規定が多い
5 役員,従業員を兼ねている『兼務取締役』は,職務内容で判断する

1 従業員退職金は規定によって請求できる

(1)呼称はいろいろあるが内容は同じ

退職金については,退職慰労金とか退職手当という名称とされることもあります。
退職の際に雇用主から従業員に支払われる金銭という意味では同じです。
労働基準法では退職手当という呼称が用いられています。

(2)退職金役員従業員で異なる

退職金には役員のものと従業員(労働者)のものがあり,法的扱いが異なります。
最初に従業員の退職金について説明します。

(3)退職金の規定方式

退職金は,就業規則や賃金規程,退職慰労金規程,などとして定めてあることが通常です。

<実務上よくある退職金規定方法>

あ 就業規則+退職金規程

就業規則には,『退職慰労金については別途定める退職慰労金規程による』と記載
退職金慰労規定において,具体的な退職金算定方法などを記載

い 労働協定

労働協定において退職金算定方法が定めらることもあります。

<退職金算出要素の例>

・在職年数
・退職時の給与(基本給)
・退職時の役職
・退職の理由

(4)規定上,退職金支給の裁量がない場合は,支給義務がある

退職慰労金規程や労働協定で,退職金の支給の有無,金額について雇用主の裁量があるかどうかが重要です。
機械的・客観的な算定式で決められている場合は,雇用主としての裁量はありません。
つまり,退職金は請求権として認められる(請求できる)ことになります。
逆に,退職金支給の有無,金額が雇用主の裁量とされていれば,当然,支給は義務ではない,ということになります。
最近では,退職金の支給自体が制度として採用されていない会社も増えつつあります。

2 成績不良・懈怠の従業員の退職金

就業規則等の明文のルールで,懲戒解雇の場合には退職金を不支給とする等の規定があれば,この規定は有効です。
懲戒解雇の事例については,退職金は発生しません。

しかし,このような規定がないのであれば,会社は退職金の支払義務を免れないことになります。
なお,懈怠・成績不良などの事情があっても,懲戒未満,という場合は,ルールに基づかないで退職金をカットすることはできません。
要するに賃金の一種として,一般的な給与残業代などと同じ扱いになるのです。

3 退職金の消滅時効は従業員5年,役員10年

(1)従業員退職金の消滅時効

消滅時効については,一般の賃金に関しては2年,退職手当だけは5年,と規定されています(労働基準法115条)。
起算点は,規定上の支給日となります。

退職金規程などのルールで支給日が決められているはずです。
消滅時効が完成するのは,その支給日から5年,ということになります。

(2)役員退職金の消滅時効

役員の退職金については,労働法の適用はありません。
そこで,一般の商事時効として5年とされる見解もあります。
しかし,多くの裁判例では,民法上の10年(167条1項)が適用されています。

4 役員退職金は取締役会等の裁量が認められている規定が多い

役員の退職金でも同じでしょうか。
取締役の退職金は,「株主総会で決める」ことが原則となっています。

(1)会社と役員の関係は委任契約

まず,取締役・監査役といった役員は一般に従業員ではありません。
取締役は株主から経営を任せられている存在です。
法律上委任契約とされます(会社法330条)。
雇用ではないのです。
ですから,直接は労働法の適用を受けません。

(2)役員退職金は株主総会または定款で決める

また,取締役については,依頼を受けた取締役が自分自身の取り分を決めるのを自由にすると不正が生じる,という発想があります。
お手盛りの危険防止と言われる理屈です。
そのため,会社法上,取締役の報酬を決めるプロセスには株主が直接関与することとされています(会社法361条)。
監査役は,経営陣,つまり取締役を文字どおり取り締まる,つまり監視する役目を負っています。
監視される取締役に自身(監査役)の報酬を決定する権限がある,というのは監視の目を緩めることにつながります。
そこで,監査役の報酬についても,株主が決定に関与することとされています(会社法387条)。
報酬には,退職金(退職慰労金)が当然含まれます。
退職金の決定についての具体的方法としては,個別的に株主総会で金額を決議することも可能です。

(3)役員退職金の具体的算定は取締役会に委任されることが多い

実際には,定款や株主総会で特定の退職する取締役の退職金額まで決定することは少ないです。

<実務上よくある役員退職金決定方式>

定款には『役員退職慰労金規程に定める』と規定する
『役員退職慰労金規程』において,役員退職金の算定方式の概要を規定する
・勤続年数,役職に応じた『上限額』など
具体的な金額決定は,『役員退職慰労金規程』の定める範囲内で取締役会が決定する

5 役員,従業員を兼ねている『兼務取締役』は,職務内容で判断する

現実には,役員,従業員の立場が併存する,ということが多いです。
あまり言いませんが,名ばかり役員というような立場です。
実態が従業員であれば,一般の(従業員の)退職慰労金規程や労使協定に基づいた退職金が請求できることになります。
次のような事情により判断することになります。

<役員,従業員の判別要素の例>

次のような事情を総合的に考慮します。
・勤務実態
・業務の裁量の幅=責任の大きさ
・報酬額(収入)

条文

[労働基準法]
(時効)
第百十五条  この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

[会社法]
(株式会社と役員等との関係)
第三百三十条  株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

(取締役の報酬等)
第三百六十一条  取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一  報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二  報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三  報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
2  前項第二号又は第三号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。
(監査役の報酬等)
第三百八十七条  監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
2  監査役が二人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、前項の報酬等の範囲内において、監査役の協議によって定める。
3  監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることができる。

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