【内縁の夫婦の一方が亡くなると共有の住居は使用貸借関係となることがある】

1 内縁の夫婦の一方の死亡の際の共有不動産の使用貸借関係

内縁の夫婦が資金を出し合って住居を購入するケースでは、通常夫婦の共有としています。このような状態で夫(または妻)が死亡すると、夫の相続人内縁の妻の共有という状態になります。夫の相続人が妻に対して明渡や金銭の請求をした場合の扱いが問題となります。本記事ではこれを説明します。
なお、住居が共有ではなく、夫の単独所有であって、夫が亡くなったというケースについては法的扱いが大きく異なります。こちらのケースについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|内縁の夫婦の死別における不動産所有権のない内縁者の居住の保護

2 不動産を共有する内縁の夫婦の一方の死亡の事案内容

判例となった事案の内容を整理します。

不動産を共有する内縁の夫婦の一方の死亡の事案内容(※1)

あ 不動産の権利関係

男性A・女性Bは内縁関係にあった
A・Bは不動産(土地・建物)を2分の1ずつの持分で共有していた
A・Bは不動産を、居住と楽器指導盤の製造販売業のために共同で使用していた

い 相続開始

約13年後、Aが亡くなった
A持分をAの相続人Cが承継した

う 相続後の権利関係

住居はC・Bの共有となった
住居はBが単独で占有している

え 損害金請求

CはBに対し、不動産の賃料相当額の2分の1の損害金を請求した
※最判平成10年2月26日

3 共有物を使用する共有者に対する明渡・金銭請求(原則論・概要)

この事案について、裁判所の判断の説明に入る前に、このパターン、つまり共有不動産を共有者の1人が使用(居住)しているの原則的な法的扱いを整理しておきます。
まず、明渡請求は認められません。つまり、退去する必要はないということです。
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・金銭の請求(基本)
実際に平成10年判例の事案でも、C(原告)は明渡を請求していません。
ただし、金銭の請求は原則として認められます。共有者ということは100%を所有しているわけではないので、不動産を100%使用するのであれば超過して使用しているといえるのです。超過部分については家賃に相当する金銭を支払う必要がある、ということです。
詳しくはこちら|単独で使用する共有者に対する償還請求(民法249条2項)
以上のことは原則論です。平成10年判例の事案では、この原則論とは違う判断をしています。以下説明します。

4 不動産を共有する内縁の夫婦の一方の死亡の際の法的扱い

平成10年判例の内容の説明に戻ります。
まず、被告(内縁の妻)は、(明渡は当然として)金銭の支払も必要ない、という主張をしました。結果的に裁判所は、このとおりに判断しました。要するに無償で使ってもよいという約束があったという判断です。正確にいえば、Aの生前に、AとB(共有者)の間で、共有物の使用方法に関する合意があった(その後、Cがこの合意を承継した)、という判断です。

不動産を共有する内縁の夫婦の一方の死亡の際の法的扱い

あ 判決文引用(内縁の夫婦間の合意の認定)

内縁の夫婦がその共有する不動産居住又は共同事業のために共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、両者の間において、その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である。
※最判平成10年2月26日

い 判決文の読み取り(法的性質)

・・・このような場合には、一方が死亡した後に他方が共有物を単独使用する旨の共有物の使用収益に関する合意の成立を認めることが当事者の意思に合致するものというべきであろう。
本判決は、共有不動産を共同で使用する内縁の夫婦の場合に、当事者の通常の意思に合致することを根拠として、特段の事情のない限り、一方が死亡した後に他方が単独使用する旨の合意の成立が推認されるとしたものである。

う 共同相続の平成8年判例との関係

本判決は、共同相続の事案に関する・・・平成八年判決(後記※2)の考え方を共有不動産を共同で使用する内縁の夫婦の場合に応用したものということができる。
※山下郁夫稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成10年度』法曹会2001年p191

え 判決の結論

Bは退去する義務はない
BはCに使用対価を支払う義務はない
※最判平成10年2月26日

5 同居する親子のうち親が死亡した後の共有不動産の扱い(参考)

参考として類似する事例の概要を紹介します。内縁の夫婦ではなく親子の間に、使用貸借契約を認めたという判例です。無償で居住できるという結果は前述の内縁の事例と同じです。

同居する親子のうち親が死亡した後の共有不動産の扱い(参考)(※2)

あ 事案

親Aと子Bが建物に同居していた
Aが亡くなった
相続人=子はB・Cであった
建物はB・Cが共有する状態となった

い 裁判所の判断(概要)

一定期間はBが無償で単独使用できる
※最高裁平成8年12月17日
詳しくはこちら|被相続人と同居していた相続人に対する他の共有者の明渡・金銭請求(平成8年判例)

6 内縁の夫婦の一方の死亡と同居親子のうち親の死亡の比較

上記の参考事例と内縁の夫婦の事案内容と法的判断は似ています。共通点・違いを整理します。

内縁の夫婦の一方の死亡と同居親子のうち親の死亡の比較

あ 比較

内縁・親子の事例を比較する(前記※1)(前記※2
次のような共通点・違いがある

い 共通点

ア 相続後・共有状態 居住者が共有持分を有する状態となった
イ 無償使用 居住者は無償で単独使用することが認められた

う 違い|相続前の状況

ア 内縁の事例(前記※1 相続前に妻が共有持分を有していた
イ 親子の事例(前記※2 相続前に子は共有持分を有していなかった

え 違い|裁判所の判断

ア 内縁の事例(前記※1 無償での使用の『期限』は設定されなかった
イ 親子の事例(前記※2 無償での使用の『期限』が設定された

7 内縁の夫婦の一方の死亡の後の共有物分割

内縁の夫婦の死別のケースに戻ります。
裁判所は無償の居住を認め、救済しました。

内縁の夫婦の一方の死亡の後の共有物分割

あ 前提事情=共有状態

建物が次の者の共有となった
ア 元内縁の妻Bイ 内縁の夫Aの相続人C

い リスク=共有物分割

Cは共有物分割を請求できる
Bから請求することも可能である

8 夫婦間の共有物分割(概要)

前記の事例においてBは救済されましたが、共有者Cが共有物分割請求を行うことによって、Bは居住できなくなる可能性があります。
前記の判例は、使用貸借を認めましたが、共有物分割請求を否定しているわけではありません。共有物分割では、いろいろな結果がありえますが、Cが居住できなくなる結果となることもあります。共有物分割については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物分割の手続の全体像(機能・手続の種類など)

本記事では、内縁の夫婦の一方が亡くなった時に共有の住居に使用貸借の関係を認める扱いについて説明しました。
実際には個別的な事情によって結論は違ってきます。
実際に内縁の夫婦が共有する(していた)住居に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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