【離婚・内縁解消→所有者死亡|財産分与の有無|財産分与の解釈で決まる】

1 離婚→夫婦共有財産の所有者が死亡|法解釈の問題|事例
2 相続時に『財産分与義務』あり/なし→違いが生じる
3 財産分与請求権の発生タイミング|確認説・形成説・折衷説
4 死亡タイミング×見解→『財産分与』の有無|まとめ
5 『内縁解消』も財産分与が適用される→『離婚』と同様の扱いになる

1 離婚→夫婦共有財産の所有者が死亡|法解釈の問題|事例

離婚後に元夫婦の一方が亡くなると,財産の行方について問題が生じます。
法解釈の説明の前に,前提となる事例を示しておきます。

<離婚→夫婦共有財産の所有者が死亡|事例>

あ 事案

AとBは夫婦だった
AとBは離婚した
その後,Aが死亡した
夫婦で築いた財産の大部分はAの所有となっていた

い 法解釈の問題

次の2つの行方が考えられる
ア Bが『財産分与』として財産を取得するイ Aの相続人に財産が相続=承継される

この事情を前提に,以下説明を進めます。

2 相続時に『財産分与義務』あり/なし→違いが生じる

離婚時には,一般論として『財産分与の請求』が認められます(民法768条)。
権利・義務に分けて考えます。
『Bの財産分与請求権,Aの財産分与義務』として説明します。
Aが亡くなった時点で『財産分与義務』があるかないかで結論に違いが生じます。

<相続時に『財産分与義務』あり/なし→違いが生じる>

あ 『財産分与義務』あり

相続時に『財産分与義務』が存在している
→Aの相続人が『財産分与義務』を承継する
→Bは財産分与を受けられる

い 『財産分与義務』なし

相続時に『財産分与義務』が存在していない
→Aの相続人は『財産分与義務』を承継しない
→Bは財産分与を受けられない

う 違いが出るところ=財産分与義務発生時点

『財産分与請求権』『財産分与義務』の発生時点によって
→相続で承継する/しない,という結果が決まる

『財産分与請求権・義務の発生時点』で結論が決まることになります。
この『発生時点』の解釈については,統一的な見解がありません。
次に説明します。

3 財産分与請求権の発生タイミング|確認説・形成説・折衷説

財産分与請求権・義務の発生時点の見解は3つに分類できます。
それぞれについてまとめます。

<財産分与請求権発生時点|確認説>

あ 解釈の内容

離婚成立により当然に権利が発生する
財産分与の合意・審判は『権利の確認』に過ぎない
※大阪高裁平成23年11月15日
※大分地裁昭和62年7月14日(確認説と思われる)

い 財産分与義務の相続

財産分与義務者の死亡により無条件に相続される

<財産分与請求権発生時点|形成説>

あ 解釈の内容

財産分与の合意・審判成立の時点で『請求権』が発生する
=請求権が『形成』される
分与する財産の数額・内容・分与の方法の特定が必要である

い 財産分与義務の相続

『協議or審判成立』の後の死亡であれば相続される

<財産分与請求権発生時点|折衷説>

あ 解釈の内容
時点 法解釈・現象
内縁解消の成立 基本的・抽象的な請求権が発生
調停・審判の申立or財産分与の意思表示 現実的・具体的な権利が生じる
い 財産分与義務の相続

『審判等の申立or意思表示』の後の死亡であれば相続される
※仙台高裁昭和32年10月14日(折衷説と思われる)

これらの3つのうち,確認説は近年の高裁判決があります。
ですから,確認説が実務上は採用される可能性が高いと言えます。

4 死亡タイミング×見解→『財産分与』の有無|まとめ

『財産分与請求権の発生時点』の見解と『結論=財産分与の有無』の関係をまとめます。

<死亡時点×見解→結論|まとめ>

あ 『調停・審判申立or意思表示』の後に死亡

いずれの見解でも既に『財産分与義務』は生じている
→財産分与の相続承継が認められる可能性が高い

い 『調停・審判申立・意思表示』がなされない時点で死亡

ア 形成説・折衷説 『財産分与義務』はまだ生じていない
→財産分与義務の相続承継はなされない
イ 確認説 『財産分与義務』は既に存在している
→財産分与義務の相続承継が認められる可能性が高い

5 『内縁解消』も財産分与が適用される→『離婚』と同様の扱いになる

『内縁解消』と『財産の所有者の死亡=相続』の関係が問題になるケースもあります。
この点,内縁解消についても,財産分与の類推適用が認められています。
詳しくはこちら|内縁関係の解消(離婚)における清算(財産分与の適用・家裁の調停・審判)
以上の説明と同様に考えることができます。
離婚と区別することなく扱うことができます。
なお,以上で示した判例の中には『内縁解消』の事例も含まれています。

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