夫の暴力から逃げるようにして別居しています。
生活費を請求しても拒絶されると思います。
住民票を移したらばれるのが怖いです。
また,子供を転校させることも問題ないのでしょうか。

1 DVのため婚姻費用の請求がしにくい場合は,生活保護が支給されることもある
2 DVのケースでは健康保険から加害者にばれないために『世帯分離』すると良い
3 相手に住民票を取らせない方法|支援措置
4 DVのため別居している場合,子供の学校の職員は秘密保持配慮義務がある
5 参考となる通達・情報

1 DVのため婚姻費用の請求がしにくい場合は,生活保護が支給されることもある

夫の暴力から,際しが逃げるようにして別居しているケースもあります。

別居中の夫婦では,生活費の請求を婚姻費用分担金として請求するのが一般的です。
別項目;婚姻費用分担金;基本
しかし,いわゆるDVのケースでは,相手方が話し合いや支払いに応じないことが多いです。
現実問題として,生活費が欠乏しているので,生活保護の受給が認められることもあります。
一般的には,扶養義務者が存在したり,稼働能力がある場合は,生活保護は適用されません。
申請後も,扶養義務者に連絡して,財産・収入の状況を聴取することになります。

しかし,DVによる別居,のような,現実的な扶養請求(婚姻費用分担金)や就業による収入が非現実的な場合は例外です。
このようなケースでは,夫への連絡を避け,受給が認められる扱いも定められています(通達後掲1)。
扶養義務と生活保護の関係については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|扶養義務の実質的根拠・合理性の欠如と生活保護との関係

2 DVのケースでは健康保険から加害者にばれないために『世帯分離』すると良い

国民健康保険であれば『世帯分離』をすると良いでしょう。
社会保険であれば,現在の保険から脱退する手続を取ると良いでしょう。

健康保険上,妻子が夫の扶養家族とされている例はよくあります。
病気・怪我によって病院で診療を受けると,医療費の請求が健康保険組合に届きます。
↑の例では,夫の勤務先の健康保険組合に届くことになります。
そうすると,事実上,夫が妻子が診療した病院を知るということになります。
DVによる別居では,何とかしてこの事態を避ける必要がありましょう。
保険の種類によって,次のような対抗策があります。

<DV→別居中の健康保険からの居場所発覚を避ける対策>

あ 国民健康保険の場合

世帯分離を行います(国民健康保険法9条1項,国民健康保険法施行規則9条,後掲情報1)。

い 社会保険の場合

↓のいずれかの方法を取ります。
・妻が自分自身の勤務先の社会保険に加入する
・妻が国民健康保険に加入する

この場合,一般的には夫の資格喪失証明書が必要とされます。
DV→別居,というケースでは夫と連絡を取ること事態が困難です。
そこで,資格喪失証明書の提出を扶養とする扱いも定められています(後掲通達2)。

3 相手に住民票を取らせない方法|支援措置

DVのために,相手から逃げるように別居する,ということがあります。
当然,『行き先』=『居場所』を知られると困ります。
この点,転出届を出す(=住民票を転居先に移す)と,相手にバレることにつながります。
このような場合,『相手が住民票の写しを取得できなくする』方法があります。

<相手に住民票を取らせない手続|支援措置

あ 申立

『住民基本台帳事務における支援措置申出書』を市区町村に提出します。

い 添付書類の例

ア 保護命令決定書(写し)
イ 警察署やDVに関する公的機関等に相談→当該機関発行の意見書
別項目|DV防止法の保護命令があると警察の協力が得やすくなる

う 『措置』の内容

住民票写し,戸籍附票の写しの交付の拒否
ただし,弁護士による職務上請求等は拒否できません。

以上のように,『ある程度の防御』にはなりますが,『完全防備』でもありません。
そこで,『敢えて転出届を出さないままにしておく』という方法を取るケースも多いです。

4 DVのため別居している場合,子供の学校の職員は秘密保持配慮義務がある

<事例>

夫の暴力から妻子が逃げるようにして別居している。
夫にばれないように住民票は移していない。
子供は別居場所の近くの小学校に転校させたい。
転校したとしても,夫が小学校に問い合わせればバレてしまうことが心配。

(1)住民登録がなくても転校,通学は認められる

住民登録をしていなくても転校を認める扱いがなされています。
また,親権者であっても,DVのケースでは学校が回答拒否をすることが可能です。
一般的には,義務教育については,住民登録した住所が登校する学校を決める基準となっています。
しかし,DVで住民登録を移せないという特殊事情がある場合は例外的扱いがなされています。
現実に居住しているのであれば,その場所を基準としてその地域の学校に登校することが認められています。

(2)学校は,加害親からの問い合わせに対して回答拒否できる

一般的には離婚前は両親ともに親権者です。
原則として,学校が親権者から問い合わせを受けた場合,これに回答する義務があります。

しかし,DVの場合,学校の職員は被害者の保護に職務上関係のある者(職務関係者)に該当します(DV防止法23条1項)。
これにより,安全確保,秘密保持への配慮義務があります。
この規定が根拠となり回答拒否も認められます。
ただし,実際には現場の職員がこのような規定を知らないことも多いです。
このようなことの説明,レクチャーをしっかり行っておくと良いです。

5 参考となる通達・情報

<通達1|昭和38年4月1日厚生労働省通達>

生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて
(昭和38年4月1日)
(社保第34号)
(各都道府県・各指定都市民生主管部(局)長あて厚生省社会局保護課長通知)
第5 扶養義務の取扱い
問2 局長通知第5の2の(1)による扶養の可能性の調査により、例えば、当該扶養義務者が被保護者、社会福祉施設入所者及び実施機関がこれらと同様と認める者、要保護者の生活歴等から特別な事情があり明らかに扶養ができない者並びに夫の暴力から逃れてきた母子等当該扶養義務者に対し扶養を求めることにより明らかに要保護者の自立を阻害することになると認められる者であって、明らかに扶養義務の履行が期待できない場合は、その間の局長通知第5の2の(2)及び(3)の扶養能力調査の方法はいかにすべきか。
答1 当該扶養義務者が生活保持義務関係にある扶養義務者であるときは、局長通知第5の2の(2)のアのただし書きにいう扶養義務者に対して直接照会することが真に適当でない場合として取り扱って差しつかえない。
2 当該扶養義務者が生活保持義務関係にある扶養義務者以外であるときは、個別の慎重な検討を行い扶養の可能性が期待できないものとして取り扱って差しつかえない。
3 なお、いずれの場合も、当該検討経過及び判定については、保護台帳、ケース記録等に明確に記載する必要があるものである。
外部サイト|厚生労働省|昭和38年4月1日通達

<通達2|厚生労働省通知>

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等のための施策に関する基本的な方針;厚生労働省等通知
第2 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策の内容に関する事項
7 被害者の自立の支援
(6)医療保険
ア(略)
イ 国民健康保険組合の行う国民健康保険においては、組合員の世帯に属していなければ、その対象から外れること。
ウ 被害者は、婦人相談所等が発行する証明書(子ども等の家族を同伴している場合には、その同伴者に係る証明書を含む。)を持って保険者へ申し出ることにより、被扶養者又は組合員の世帯に属する者から外れること。
エ 被扶養者又は組合員の世帯に属する者から外れた場合には、年金の第3号被保険者については、第1号被保険者となる手続が必要になること。
オ 市町村の行う国民健康保険においては、事実上の住所及び他の公的医療保険に加入していないことの確認により、配偶者とは別の世帯として、国民健康保険に加入することが可能であり、市町村において相談すること。
カ(略)
キ(略)
外部サイト|厚生労働省|通知

<情報1|内閣府男女共同参画局ウェブサイト>

住民票に記載された住所以外では、国民健康保険に加入できないのですか。
市町村の行う国民健康保険においては、事実上の住所の確認(被扶養者であった者においては、これに加え被扶養者から外れていることの確認)等により、現在住んでいる市町村において、配偶者とは別の世帯として、国民健康保険に加入することが可能ですので、市町村へご相談ください。
外部サイト|内閣府男女共同参画局

条文

[配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律;DV防止法]
(職務関係者による配慮等)
第二十三条  配偶者からの暴力に係る被害者の保護、捜査、裁判等に職務上関係のある者(次項において「職務関係者」という。)は、その職務を行うに当たり、被害者の心身の状況、その置かれている環境等を踏まえ、被害者の国籍、障害の有無等を問わずその人権を尊重するとともに、その安全の確保及び秘密の保持に十分な配慮をしなければならない。
2  国及び地方公共団体は、職務関係者に対し、被害者の人権、配偶者からの暴力の特性等に関する理解を深めるために必要な研修及び啓発を行うものとする。

第二十九条  保護命令に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

[国民健康保険法]
(届出等)
第九条  被保険者の属する世帯の世帯主(以下単に「世帯主」という。)は、厚生労働省令の定めるところにより、その世帯に属する被保険者の資格の取得及び喪失に関する事項その他必要な事項を市町村に届け出なければならない。
2~15(略)

[国民健康保険法施行規則]
(被保険者の世帯変更の届出)
第九条  被保険者が市町村の区域内においてその属する世帯を変更したときは、その変更に係る世帯の世帯主は、それぞれ、十四日以内に、次に掲げる事項を記載した届書を、市町村に提出しなければならない。
一  被保険者の氏名及び変更後の世帯に係る住所
二  変更前の世帯であるか又は変更後の世帯であるかの別及び変更の年月日
三  被保険者証の記号番号