【養育費一括払いの後から追加(増額)請求できることがある(手続・予防策)】

1 養育費の一括払いに関する問題と予防策
2 養育費の支払方法は自由である
3 一括払いの後の養育費請求は家裁の調停・審判で扱う
4 養育費の特徴や特殊性
5 養育費の一括払いの後の追加請求の基準
6 養育費一括払い後の追加請求の実務的問題
7 一括払いの後に追加請求をしない合意は無効となることも
8 養育費一括払いの後の追加請求を予防する工夫

1 養育費の一括払いに関する問題と予防策

離婚の際,子供にかかる将来の養育費をまとめて一括で支払うというケースがあります。
一括払いをすること自体は問題ありません。
しかし,その後,子供を引き取った親(監護親)が,相手(扶養義務者)に対して改めて養育費を請求することもあります。
本記事では,養育費の一括払いに関する法律的な問題と,トラブルの予防法を説明します。

2 養育費の支払方法は自由である

離婚の際に,通常,夫婦(父母)は子供の養育費を決めます。
両親の合意で定める場合の支払方法には決まったものはありません。
毎月支払うの方式が多いですが,一括払いを選ぶケースもあります。

<養育費の支払方法>

あ 養育費の支払方法

支払方法について特に制限はない

い 支払方法の例

ア 毎月支払うイ 何か月ごとに支払うウ 将来分を一括で支払う

3 一括払いの後の養育費請求は家裁の調停・審判で扱う

養育費を一括払いにした場合,後から増額が要求されるケースもあります。
要するに,一括払いとは別に追加して請求するような状況です。
一般的に,1度決めた養育費の金額を増額することがあります。
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用の増減額請求が認められる『事情の変更』の判断基準
一括払いの後の養育費の請求も養育費の増額請求と同じ扱いとなります。

<養育費一括払いの後の追加請求>

あ 『増額』の適用

養育費を一括払いした場合
→個別的事情によっては『事情の変更による増額』が適用される
=一定額の『追加』が必要となる可能性がある

い 家裁の手続の種類

協議で定められない場合
→家庭裁判所の調停・審判を利用できる
『審判事項』の中の『別表第2事件』として分類されている
詳しくはこちら|家事事件(案件)の種類の分類(別表第1/2事件・一般/特殊調停)

一般的には,1度当事者で決めた内容は当事者の了解なく変えることはできません。
その意味で,養育費の増額が認められるのは非常に特殊です。
この特殊性については次に説明します。

4 養育費の特徴や特殊性

養育費などの扶養義務は日々の生活を維持するという特徴(特殊性)があります。
また,長期間支払が継続するので,状況が大きく変動する可能性があります。
支払期間の途中で経済的状況が変わった場合,妥当な支払金額に変更する必要があります。

<養育費の特徴や特殊性>

あ リアルタイム支給の必要性

生活費である
→不足があると日々の生活・生存に支障が生じる

い リアルタイムでの『変動』

状況の変化により金額を変動させる必要がある
ア 父母の経済状況の変化イ 子供の疾病・学習環境の変化 養育に必要な金額の変化
※民法880条

5 養育費の一括払いの後の追加請求の基準

養育費の一括払いがなされた後に,再度養育費を請求することが認められることがあります。
法律的には増額請求と同じ扱いです(前記)。
追加の請求(増額)が認められるのは当初予想できなかった事情の変化が生じたというものです。

<養育費の一括払いの後の追加請求の基準>

あ 増額請求の要件(概要)

合意時or審判時には予見できなかった事情が生じた
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用の増減額請求が認められる『事情の変更』の判断基準

い 増額認定が否定された例(概要)

支払いを受けた側の親が,計画的な支出をしなかった
早めに使い果たしてしまった
→追加の請求(増額)は認められない
※東京高裁平成10年4月6日
詳しくはこちら|養育費を請求しない合意をした後の養育費請求の裁判例(事情変更の判断)

6 養育費一括払い後の追加請求の実務的問題

養育費の一括払いの後に追加の請求は,心情的な配慮課税のリスクも生じます。

<養育費一括払い後の追加請求の実務的問題>

あ 困窮を見過ごせない

実際に子供が経済的に困窮している状況
→心情として救済せざるを得ない

い 税務リスク

養育費の一括払いは税務上『贈与』扱いがなされるリスクがある
詳しくはこちら|扶養料,養育費への贈与税課税;基本,一括払い,認知未了

7 一括払いの後に追加請求をしない合意は無効となることも

養育費を一括払いした後に増額が認められると『想定外』と感じます。
既に将来分も支払終わっていたという前提が否定されてしまうのです。
そこで,最初から『後から増額されないような工夫』が好ましいです。
その発想として『増額を禁止する』条項についてまとめます。

<養育費一括払いの後に追加請求をしない合意>

あ 発想

後から追加請求(増額)することを避ける合意をしておく

い 具体例

離婚協議書・調停調書に次のような条項を設定する
『養育費の金額変更・追加請求は認めない』

う 法解釈(概要)

扶養請求権は放棄などの『処分』ができない
→『い』の条項は無効となる可能性が高い
※民法881条
詳しくはこちら|養育費を請求しない合意は無効となることもある(子供からの扶養請求との関係)

このように増額禁止をしっかりと合意してあっても,後から無効となることもあるのです。

8 養育費一括払いの後の追加請求を予防する工夫

養育費の一括払いをする場合,単に後から追加の請求をしないという合意をしても,追加請求を回避できるとは限りません(前記)。
確実な回避はできないとしても,可能な限り追加の請求を防ぐ方法は,想定外の事情が生じたという主張を封印することです。
つまり,想定されることを最初から取り決めておくということです。

<養育費一括払いの後の追加請求を予防する工夫>

あ 発想

後から養育費を追加請求(増額)することが必要な状況の発生を回避する

い 具体例

離婚協議書・調停調書に次のような条項を設定する
ア 養育費を計画的に使用して,養育に当たるべき義務イ 養育費を受領した親が,その責任において子供の養育に当たるウ 将来予測される支出の項目 例;大学進学など

う 効果

予見できなかった事情という主張が認められにくくなる
→追加請求(増額請求)が否定される可能性が高くなる

このように,離婚が成立した時点では,いろいろな細かいことを決めて,それを書面にして保管しておくとよいのです。
詳しくはこちら|離婚の条件が合意に達した時点で離婚協議書の調印+離婚届提出をすると良い

本記事では,養育費の一括払いに関する問題について説明しました。
実際に離婚の際に決める条件にはいろいろなものがあります。
また,一括払いの後の養育費の(追加)請求が認められるかどうかは,個別的な事情によって決まります。
これから養育費の支払の内容を決めるという方も,一括払いがされた後の追加の養育費請求の問題に直面している方も,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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