【DV防止法の保護命令があると警察の協力が得やすくなる】

夫からの暴力で困っています。
別居していますが,いつ来るか分かりません。
暴力を抑止する制度はありますか。

1 DVに対応する方法としてDV保護法による保護命令が活用できる
2 保護命令の内容にはいくつかの種類がある
3 保護命令は暴力を受けたりそのおそれがある場合に発令される
4 保護命令に違反した場合には一定の罰則がある

1 DVに対応する方法としてDV保護法による保護命令が活用できる

配偶者からの暴力に関して,裁判所が一定の命令を発する,という手続があります。
DV保護法による「保護命令」というものです。
保護命令は,法律改正を経て,徐々に活用できる範囲が広がってきています。

2 保護命令の内容にはいくつかの種類がある

平成16年,19年にDV防止法は改正されています。
そのたびに,保護命令のバリエーションは増えてきています。
現時点での保護命令の種類は次のとおりです。

<保護命令の種類>

※DV防止法10条
ア 被害者への接近禁止命令;1項1号イ 被害者への電話等禁止命令;2項4,5号  電話,メール,各種メッセージ等の連絡
ウ 被害者の子への接近禁止命令;3項  子を連れ戻す旨の言動を行っている場合が典型
エ 被害者の親族等への接近禁止命令;4項オ 退去命令;1項2号

3 保護命令は暴力を受けたりそのおそれがある場合に発令される

保護命令の要件をまとめておきます。

(1)保護命令の実質的要件

※DV防止法10条1項
配偶者からの身体に対する暴力を受けた者
配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた者
↑のいずれかが,
配偶者からの(将来の)身体に対する暴力
により,生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき

(2)保護命令の形式的要件

※12条1項5号,2項
次のいずれか
・警察または配偶者暴力相談支援センターへの相談;1項5号
・公証人作成の宣誓供述書;2項

(3)配偶者の拡張

配偶者の拡張
・事実婚の状態のパートナー → 含む(DV防止法1条3項)
・事実婚未満=(単なる)同棲,同居 → 含まない
※注意;ストーカー規制法などの別の法律における規制対象とは一致しません。

4 保護命令に違反した場合には一定の罰則がある

(1)直接的な罰則は実効性が薄い

保護命令違反については,一定の刑事罰が規定されています。

<保護命令違反に適用される法定刑>

1年以下の懲役または100万円以下の罰金
※DV防止法29条

ただし,実際に検察官の取り調べ→起訴→刑事裁判→有罪判決,というフローが進むとは限りません。
重大な結果が生じていない場合は,起訴しないという選択も認められているのです。
理論的に犯罪が成立しても,実際に処罰されないということもあるのです。

(2)保護命令発令後の違反行為の際は警察が動いてくれる

しかし,保護命令は意味が薄いというわけでもありません。
理論的に犯罪が成立していると,警察に通報した場合の対応が違います。

保護命令がない場合は,家庭内の問題民事不介入ということになり,警察の態度は消極的であることが多いです。
しかし,保護命令違反というものは立派な犯罪なので,警察の態度は積極的となります。
保護違反の行為をすぐに止めない場合は,警察が逮捕することも十分にあり得ます。

このような意味で,保護命令を獲得しておく,ということは抑止効果につながるのです。
なお,例えば退去命令に基いて執行官に物理的に退去させてもらう,ということはできません。
民事上の確定判決であればこのようなことはできますが,保護命令は民事上の執行力はないのです(DV防止法15条5項)。

条文

[配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律;DV防止法]
(定義) 
第一条  この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項において「身体に対する暴力等」と総称する。)をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むものとする。
2  この法律において「被害者」とは、配偶者からの暴力を受けた者をいう。
3  この法律にいう「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含み、「離婚」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者が、事実上離婚したと同様の事情に入ることを含むものとする。

(保護命令)
第十条  被害者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫(被害者の生命又は身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫をいう。以下この章において同じ。)を受けた者に限る。以下この章において同じ。)が、配偶者からの身体に対する暴力を受けた者である場合にあっては配偶者からの更なる身体に対する暴力(配偶者からの身体に対する暴力を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。第十二条第一項第二号において同じ。)により、配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた者である場合にあっては配偶者から受ける身体に対する暴力(配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。同号において同じ。)により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者。以下この条、同項第三号及び第四号並びに第十八条第一項において同じ。)に対し、次の各号に掲げる事項を命ずるものとする。ただし、第二号に掲げる事項については、申立ての時において被害者及び当該配偶者が生活の本拠を共にする場合に限る。
一  命令の効力が生じた日から起算して六月間、被害者の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この号において同じ。)その他の場所において被害者の身辺につきまとい、又は被害者の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないこと。
二  命令の効力が生じた日から起算して二月間、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること及び当該住居の付近をはいかいしてはならないこと。
2  前項本文に規定する場合において、同項第一号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して六月を経過する日までの間、被害者に対して次の各号に掲げるいずれの行為もしてはならないことを命ずるものとする。
一  面会を要求すること。
二  その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
三  著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
四  電話をかけて何も告げず、又は緊急やむを得ない場合を除き、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。
五  緊急やむを得ない場合を除き、午後十時から午前六時までの間に、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、又は電子メールを送信すること。
六  汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
七  その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
八  その性的羞恥心を害する事項を告げ、若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し、若しくはその知り得る状態に置くこと。
3  第一項本文に規定する場合において、被害者がその成年に達しない子(以下この項及び次項並びに第十二条第一項第三号において単に「子」という。)と同居しているときであって、配偶者が幼年の子を連れ戻すと疑うに足りる言動を行っていることその他の事情があることから被害者がその同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認めるときは、第一項第一号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して六月を経過する日までの間、当該子の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この項において同じ。)、就学する学校その他の場所において当該子の身辺につきまとい、又は当該子の住居、就学する学校その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずるものとする。ただし、当該子が十五歳以上であるときは、その同意がある場合に限る。
4  第一項本文に規定する場合において、配偶者が被害者の親族その他被害者と社会生活において密接な関係を有する者(被害者と同居している子及び配偶者と同居している者を除く。以下この項及び次項並びに第十二条第一項第四号において「親族等」という。)の住居に押し掛けて著しく粗野又は乱暴な言動を行っていることその他の事情があることから被害者がその親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認めるときは、第一項第一号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して六月を経過する日までの間、当該親族等の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この項において同じ。)その他の場所において当該親族等の身辺につきまとい、又は当該親族等の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずるものとする。
5  前項の申立ては、当該親族等(被害者の十五歳未満の子を除く。以下この項において同じ。)の同意(当該親族等が十五歳未満の者又は成年被後見人である場合にあっては、その法定代理人の同意)がある場合に限り、することができる。

(保護命令の申立て)
第十二条  第十条第一項から第四項までの規定による命令(以下「保護命令」という。)の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面でしなければならない。
一〜四(略)
五  配偶者暴力相談支援センターの職員又は警察職員に対し、前各号に掲げる事項について相談し、又は援助若しくは保護を求めた事実の有無及びその事実があるときは、次に掲げる事項
イ 当該配偶者暴力相談支援センター又は当該警察職員の所属官署の名称
ロ 相談し、又は援助若しくは保護を求めた日時及び場所
ハ 相談又は求めた援助若しくは保護の内容
ニ 相談又は申立人の求めに対して執られた措置の内容
2  前項の書面(以下「申立書」という。)に同項第五号イからニまでに掲げる事項の記載がない場合には、申立書には、同項第一号から第四号までに掲げる事項についての申立人の供述を記載した書面で公証人法 (明治四十一年法律第五十三号)第五十八条ノ二第一項 の認証を受けたものを添付しなければならない。

(保護命令の申立てについての決定等)
第十五条
1〜4(略)
5  保護命令は、執行力を有しない。

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