【夫婦財産契約(婚前契約)によって夫婦間のルールを設定できる】

1 夫婦財産契約の基本的内容と趣旨
2 夫婦財産契約の機能と制度の趣旨
3 夫婦財産契約で決めることができる条項の内容
4 夫婦財産契約の締結と登記の時期
5 夫婦財産契約は契約締結後に変更・廃止ができない
6 外国で締結した婚前契約を日本で登記することができる
7 夫婦財産契約の登記の手続

1 夫婦財産契約の基本的内容と趣旨

結婚(婚姻)する際,夫婦の財産に関するルールを決めておく制度があります。
民法上の正式名称は夫婦財産契約です。婚前契約と呼ばれることもあります。
本記事では,夫婦財産契約の基本的な内容と制度の趣旨について説明します。

2 夫婦財産契約の機能と制度の趣旨

まず,通常の結婚(婚姻)は,状況によっては当事者の想定外の法的効果が生じます。
特に,夫婦の一方の収入が大きい場合にこのようなことが起きます。
そこで最初から夫婦財産契約として財産に関する夫婦のルールを設定しておけば,想定外の結果になることを防げるのです。

<夫婦財産契約の機能と制度の趣旨>

あ 結婚制度の不合理な点

結婚制度(婚姻)は,状況によっては不合理な法的拘束が生じる
典型例=夫婦の一方が収入(フロー)が大きいケース
詳しくはこちら|結婚制度の不合理性(婚費地獄・結婚債権・貞操義務の不公平・夫婦同姓など)

い 夫婦財産契約の基本的な機能

夫婦の法定財産制に関する事項について
夫婦(となろうとする者)の間で契約することができる
※民法755条

う 夫婦財産契約の制度のメリット

夫婦財産契約によって
法的効果を個別的な事情に合わせて調整(設定)できる

え 夫婦財産契約の取引的な特徴

ア 当事者が納得・合意したルールに拘束されるイ 『社会一般や政府が指定した価値観を強制される』ことを回避できるウ 条件を拒否する自由=条件によっては契約しない自由がある

3 夫婦財産契約で決めることができる条項の内容

夫婦財産契約の内容となるのは法定財産制に関するものだけです(前記)。
法定財産制の内容(項目)は,民法の条文に定められています。
夫婦のそれぞれの収入が夫婦のどちらのものになる(帰属する)のか,とか,夫婦共有の財産の管理や処分の方法が代表的なものです。
実際にはそれ以外にも広く夫婦の間のルールを設定しておくことが多いです。

<夫婦財産契約で決めることができる条項の内容>

あ 夫婦財産契約の対象となる事項

夫婦財産契約の対象となる事項は
夫婦の法定財産制(第2款=760条~762条)に関する事項である

い 夫婦財産契約の対象外の事項の扱い

法定財産制とは関係ない事項についての夫婦間の合意について
夫婦財産契約ではない
→契約締結の時期や登記の有無には関係ない(夫婦間で有効である)

う 登記における扱い

法定財産制とは関係ない事項(あ)について
実務では登記されているケースも多い
詳しくはこちら|夫婦財産契約(婚前契約)で決めることができる内容(条項)と有効性

4 夫婦財産契約の締結と登記の時期

夫婦財産契約は,婚姻前に,登記事項として記録される(登記簿に載る)ことで完全な効力を持ちます。
つまり,婚姻届の提出前締結して登記する必要があります。
これによって,この制度が使いにくくなっており,普及を妨げています。
なお,婚姻後の契約締結や登記なしというケースでも夫婦間では有効とされる傾向があります。

<夫婦財産契約の締結と登記の時期>

あ 規定の内容

夫婦財産契約は婚姻の届出前に契約を締結し登記することによって
第三者に対抗できる
※民法756条

い 登記を欠く夫婦財産契約の効力

『婚姻前』に夫婦財産契約を締結したが登記をしていない場合
→一般的には夫婦の間では有効とされる
※『注解判例民法 親族法・相続法』青林書院
※『新版注釈民法(21)親族1』有斐閣
※『月報司法書士2016年10月』日本司法書士会連合会p33

う 婚姻後に締結した夫婦財産契約の効力

婚姻後に夫婦財産契約を締結することは禁止されていない
(登記をしていなくても)夫婦間においては有効であるという見解もある
※『THINK 司法書士論業115号』日本司法書士会連合会2017年p142参照

5 夫婦財産契約は契約締結後に変更・廃止ができない

夫婦財産契約の内容を後から変更することはできません。
このことも,夫婦財産契約の普及にブレーキをかけています。

<夫婦財産契約は契約締結後に変更・廃止ができない>

あ 変更・廃止の禁止

夫婦財産契約を締結した場合
→婚姻後に夫婦で合意しても変更・廃止できない
『変更できる』特約を最初から設定してあっても変更・廃止できない

い 変更・廃止を禁じる理由

ア 第三者の取引安全を害するイ 婚姻後は『愛情と威圧によって』不本意に変更させられるリスクが高い ※民法758条
※『新版注釈民法(21)親族1』有斐閣

う 財産管理者の変更(例外)

財産管理者の変更(+夫婦共有財産の分割)ができることがある
詳しくはこちら|夫婦財産契約で決めた財産の管理者変更と夫婦共有財産の分割請求

6 外国で締結した婚前契約を日本で登記することができる

現在は,グローバル化が進み,海外で結婚をするケースも増えています。
そして海外で婚前契約を締結し,後から日本に移住する,ということも生じます。
このような場合は,改めて日本で夫婦財産契約として登記することができます。
あくまでも外国法に沿って適法に,既に締結された契約が『日本の登記』の対象となります。

<外国で締結した夫婦財産契約の日本における登記>

外国法に基づいて締結された夫婦財産契約について
→日本で登記をすれば第三者に対抗できる
※法適用通則法26条4項

7 夫婦財産契約の登記の手続

夫婦財産契約は登記をして完全になります。
登記申請の手続についてまとめておきます。

<夫婦財産契約の登記の手続>

あ 申請人

夫婦(となろうとする者)の両方による共同申請である
※財産登記法7条1項

い 登記事項

ア 各契約者の氏名及び住所イ 登記の目的ウ 登記原因・原因日付エ 夫婦財産契約の内容 ※夫婦財産契約登記規則6条

う 管轄

称する氏をもつ当事者の住所地を管轄する登記所
※財産登記法5条1項

え 登録免許税(印紙額)

登記申請1件につき1万8000円
※登録免許税法2条,別表第1『31(一)』

本記事では,夫婦財産契約の基本的な内容を説明しました。
実際に夫婦財産契約を行う際には,個別的な状況や希望に対応して漏れのない条項を作成する必要があります。
実際に夫婦財産契約の利用をお考えの方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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