【社内の不倫により懲戒処分(解雇など)されることもある(基準・裁判例)】

1 社内不倫による懲戒処分の有効性
2 私生活上の行為による懲戒の可否(一般論)
3 社内での不倫を理由とする懲戒処分の可否
4 社内不倫による懲戒解雇を認める特殊事情(裁判例)
5 常軌逸脱の決定打不足による懲戒解雇無効裁判例
6 性的関係の証拠不足による懲戒解雇無効裁判例
7 職場での性行為などの異常行動による公務員の懲戒処分
8 不倫をいいふらすことによる秩序悪化
9 雇用主の裁量による懲戒処分に関する多様な判断

1 社内不倫による懲戒処分の有効性

会社の従業員や役員の間で不倫(不貞行為)の関係に至るというケースはとてもよくあります。
当然,慰謝料を支払う責任が発生します。
詳しくはこちら|不貞相手の不貞慰謝料の相場(200〜300万円)
これとは別に,職場(会社)から懲戒処分を受けるということもあり得ます。
本記事では,社内不倫による懲戒処分の有効性について説明します。

2 私生活上の行為による懲戒の可否(一般論)

まず,純粋な私生活上の行為を理由として会社が懲戒処分をすることは原則としてできません。
しかし,私生活上の行為であっても,結果として会社の風紀・秩序が害された場合は別です。
懲戒処分の理由となることもあります。

<私生活上の行為による懲戒の可否(一般論)>

あ 前提事情

通常,就業規則は次のような懲戒事由がある
労働者が会社の名誉・信用を毀損した時や犯罪行為を犯した時

い 原則論

懲戒は企業秩序維持のために行われるものである
労働者の私生活上の非行は懲戒処分の対象にはならない

う 例外=懲戒処分可能

職場外でされた職務執行に関係のない行為であっても
企業の社会的評価の低下・毀損につながるおそれがあると客観的に認められる行為については
企業秩序の維持確保のために,これを懲戒処分の対象とすることが許されることもあり得る
※最高裁昭和49年2月28日
※最高裁昭和45年7月28日;同趣旨
※最高裁昭和49年3月15日;同趣旨
※最高裁昭和56年12月18日;同趣旨
※最高裁昭和58年9月8日;同趣旨
※最高裁平成4年3月3日;同趣旨

え 私生活上の行為による懲戒処分の典型例

ア 社内での不倫イ 飲酒運転

実際に,職場の仕事と関係ない行動が懲戒処分の理由となるのは,社内の不倫と飲酒運転がほとんどです。
以下,社内不倫を理由とする懲戒処分について説明を続けます。

3 社内での不倫を理由とする懲戒処分の可否

不倫とは,つまり,男女の個人的な交際ということです。
そこで,原則としては不倫を理由とする懲戒処分はできないことになります。
単に不倫はけしからんという価値観だけで懲戒処分はできないのです。
しかし,実際に不倫の関係が原因となって職場の風紀や秩序が乱されるケースもあります。
そのため,不倫関係によって懲戒処分が認められることもあるのです。

<社内での不倫を理由とする懲戒処分の可否>

あ 原則論

男女交際は私生活上の行為である
→原則として懲戒の理由とはならない

い 例外=懲戒処分可能

企業秩序に直接関連し,これを乱すものについては,懲戒解雇の理由になる
※白石哲編著『労働関係訴訟の実務 裁判実務シリーズ1』商事法務2014年p349

懲戒処分が有効になるためには,実際に生じた悪影響が大きいことが前提です。
影響がないかごくわずかなのに,懲戒解雇をしても無効となります。
実際の影響と懲戒処分の内容(重さ)のバランスが取れている必要があるのです。

4 社内不倫による懲戒解雇を認める特殊事情(裁判例)

実際に,社内不倫による懲戒解雇を認めた事例(裁判例)を紹介します。

<社内不倫による懲戒解雇を認める特殊事情(裁判例)>

あ 2人の職務上の関係

不倫関係の2人が観光バスに乗務する運転手とガイドであった
2人の職務は宿泊を伴うものである
職務上,2人は同時に長時間顧客と接している

い 2人の年齢差・勤続年数の差

男女の年齢差と勤続年数の差がとても大きかった

う 妊娠・中絶

女性が妊娠し中絶するに至った

え 女性の退職

不倫相手が若年・独身の女性であり,妊娠・中絶をきっかけに退職するに至った

お 周囲への影響

不倫関係が,職場・顧客を含めて関係者に広く知れ渡った

か 同種の関係の継続

男性が,過去にも繰り返し,他の女性と同様の不倫関係を持っていた

き まとめ(懲戒解雇の有効性)

以上の事実により,職務(サービス)の風紀・秩序に与える影響が大きい
→懲戒解雇は有効である
※長野地裁昭和45年3月24日
※東京高裁昭和41年7月30日;『お・か』以外は共通

ここまで異常な事情であれば,会社の業務に支障が生じることが分かると思います。

5 常軌逸脱の決定打不足による懲戒解雇無効裁判例

前記のように,社内不倫が懲戒解雇につながるケースは,実は非常に特殊なものです。
実際に,不倫関係自体はあったけれど,会社の業務への影響への決定打がないために懲戒解雇が無効となった裁判例を紹介します。

<常軌逸脱の決定打不足による懲戒解雇無効裁判例>

あ 職場における恋愛関係表面化

不倫関係の2人が,事務所内で弁当のおかずを交換していた
男性のアパートに2人が一緒に泊まる様子を他の従業員が見ていた(自動車の駐車)
従業員・取引関係者らも不倫関係を知るに至った(噂の種とされた)
事務所内で,離してあった机を隣り合わせに移動させた

い 証拠が不足していた主張

2人が一緒に1つのどんぶりからラーメンを食べるなど常軌を逸した行為
→認定できなかった(証拠が不足していた)

う 懲戒解雇の有効性(裁判所の判断)

懲戒解雇は無効である

え 補足(説明)

『い』の事情が認定できたら懲戒解雇が有効となった(風紀を乱す決定打になる事情である)と読める
※旭川地裁平成元年12月27日

職場で1人分のラーメンを2人で食べたことの証拠があれば解雇は有効になったのかもしれません。

6 性的関係の証拠不足による懲戒解雇無効裁判例

次に,原審では不倫関係による懲戒解雇が有効となりましたが,控訴審でくつがえったケースを紹介します。
要するに,性的関係があったこと自体が否定されたために,解雇は無効となったのです。

<性的関係の証拠不足による懲戒解雇無効裁判例>

あ 原審

社内の不倫により職場の風紀・秩序を乱した
→懲戒解雇は有効である
※東京地裁平成5年12月16日;ケイエム観光事件

い 控訴審

情交(静的関係)の事実が否定された
→懲戒解雇は無効である
※東京高裁平成7年2月28日

7 職場での性行為などの異常行動による公務員の懲戒処分

次に,裁判例ではないですが,市の職員同士の不倫関係が元となって,市が懲戒処分をしたケースを紹介します。
単に不倫関係ということではなく,逮捕されて罰金刑を受ける,とか,職場で撮影しながら性行為をするなど,誰が考えても常軌を逸している行為があったのです。

<職場での性行為などの異常行動による公務員の懲戒処分>

あ 公務員のW不倫

兵庫県西宮市の職員である35歳男性Aと40歳女性Bが不倫の関係に至った

い 女性の異常行動と刑事処分

BはAの妻の自宅・職場へ文書を送付した
BはAの自宅付近でビラを撒いた
BはAの妻に対して無言電話をかけた
→Bは,逮捕・起訴され,罰金刑を受けた

う 職場での異常性癖発覚

A・Bは,少なくとも4回,職場でみだらな行為をした

え リベンジポルノ的な仲違い

この時AがBの姿態を撮影した
→これをBに送信して嫌がらせをした

お 西宮市による処分

西宮市はAを停職3か月の懲戒処分にした
Bは依願退職した
外部サイト|神戸新聞|W不倫の2職員、庁舎内で勤務中みだらな行為 兵庫・西宮市が懲戒処分

8 不倫をいいふらすことによる秩序悪化

以上のように,社内での不倫関係が知れ渡り,大騒動になると,不倫の当事者が懲戒処分を受ける可能性が上がってきます。
そこで,ひそかに不倫の関係を続けている者が職場にいて,これを知った他の従業員が,社内にばらしてやりたい・懲戒処分を受けるべきだ,などと思う状況があります。
しかし,実際に会社の従業員に不倫関係をいいふらした場合,別の問題が生じることがあります。
いいふらした者の行為について,民事(プライバシー侵害の損害賠償),刑事(名誉毀損罪など)の責任が生じる可能性もあります。
詳しくはこちら|不倫を公表したことの法的責任(名誉毀損罪・侮辱罪など)
また,いいふらしたことが会社の風紀や秩序を乱したといえる可能性があります。
そこで,いいふらした者が懲戒処分の対象となることもあります。

9 雇用主の裁量による懲戒処分に関する多様な判断

懲戒処分のは雇用主(会社)の裁量で判断・決定されます。
例えば,当事者の反省の様子から,人事部として,敢えて注意だけで済ませた方が良いと判断することもあり得ます。
同様の事案の処分とのバランスも必要となりますが,いずれにしても雇用主には一定の裁量があるのです。

本記事では,社内(職場)での不倫に関する懲戒処分について説明しました。
解雇などの懲戒処分の有効性は,実際には個別的事情によって判断が変わってきます。
実際に不倫を元にした行動を理由とした懲戒処分の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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