【不法行為による損害賠償は相殺が禁止される;”不倫の公表騒動”】

不倫をばらした,というような行為については,金銭的な責任は生じないのでしょうか。

1 名誉棄損侮辱についての民事的責任は「慰謝料請求」
2 「違法性」とは非常識の程度が高いということ
3 不法行為による損害賠償(慰謝料)は相殺が禁止されている
4 相殺禁止により,資力がない加害者からの損害賠償(慰謝料)回収が困難になる

1 名誉棄損侮辱についての民事的責任は「慰謝料請求」

次のような事案を元にして名誉棄損侮辱についての民事的責任を説明します。

<事案の設定>

職場の同僚が不倫の関係を周囲に言いふらした

民法上は『名誉棄損』や『侮辱』というカテゴリはありません。
ひっくるめて不法行為という一般的なルール(条文)が適用されます。
なお,謝罪広告という特殊な請求に関してはありますが例外です(民法723条)。

簡単に言うと違法性がある行為については,その法的責任として「損害賠償責任」が生じるということになります(民法709条)。
「損害」は非常に幅広いです。
「損害」の1つとして精神的苦痛も認められています(民法710条)。
精神的苦痛に対する損害賠償のことを「慰謝料」と呼んでいます。

2 「違法性」とは非常識の程度が高いということ

不法行為は「違法性」があると成立します。
抽象的に言えば,社会的相当性の逸脱の程度(が大きい)ということになります。
もっと簡単に言えば非常識の程度が高い,ということになりましょう。

不倫関係を言いふらしたという事例では,『一方的に秘密にしていることを公表された』ということの評価によります。
これが「違法性」を持つと評価できるかどうか,ということです。
簡単に言えば次のような事情により判断されます。

不倫の公表についての「違法性」判断要素の例>

ア 公表した内容の詳細な程度  一般的にどの程度嫌がるものかという視点です。
イ 公表した範囲が大きいウ 結果的に現実に受けた影響が大きい

3 不法行為による損害賠償(慰謝料)は相殺が禁止されている

ここでは,具体例として次のような設定で説明します。

<事案の設定>

A=不倫していた女性
B=不倫していた男性
Aは,Bから「独身だ」と聞かされて,信じていた。
AはBが既婚であることを知り,激怒し,言いふらした

この場合,言いふらしたことによる慰謝料騙された慰謝料でチャラになる,という発想もあります。

まず,完全に騙されて交際していた,という場合は,事情によって,「騙された」こと自体が不法行為となります。
不法行為が成立した場合,AはBに対して慰謝料請求をできる状態となります。
そうすると,『言いふらし』によって慰謝料請求を受ける方になっても,相殺,となりそうです。

しかし,慰謝料(不法行為)に関しては,相殺ができません(民法509条)。
このルールの趣旨は金銭の請求をする(お金をもらう)代わりに痛い目に遭わせるということ(動機)を防止する,というところにあります。
いずれにしても,受けている請求が不法行為による損害賠償(慰謝料),という場合は相殺できないのです。

4 相殺禁止により,資力がない加害者からの損害賠償(慰謝料)回収が困難になる

(1)両者が合意して相殺することは可能;相殺契約

相殺が禁止されるのは,不法行為の損害賠償請求を「受ける側」が一方的に行う場合のみ,です(民法509条)。
双方が合意の上で相殺することは何の問題もありません。
これを相殺契約と呼んでいます。

(2)相殺しない状態は,『相互に差押ができる』→無資力の者からの回収が困難になる

では,相殺契約を行わず,相互に請求権があるとどのようなことが生じるのでしょうか。
相互に強制執行(差押)ができる,ということになります。
財産がない,あるいは相手に判明していない,という場合は,「実際には差押ができない」ということになります。
相殺禁止があるかないか,で違いが生じます。
次に具体例を示します。

<相殺禁止の実質的効果>

(前提)
・甲=多くの資産を持っている
・乙=資産がない

(結果)
・甲は差押(回収)不可能
・乙は差押(回収)可能

無理やりまとめると,次のようなことが言えるでしょう。
『法(裁判所)は不法に協力しない』
『無資力は最大の抗弁』

条文

[民法]
(不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第五百九条  債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条  他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

(名誉毀損における原状回復)
第七百二十三条  他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

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【不倫を公表したことの法的責任(名誉毀損罪・侮辱罪など)】
【社内の不倫により懲戒処分(解雇など)されることもある(基準・裁判例)】

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