【命名権の基本(共同親権・名の確定時期=撤回・不受理の期限)】

1 新生児の命名の法的位置づけ
2 父母の一方の独断での命名の効力
3 名の確定時期(撤回・不受理の期限)
4 名の戸籍記載後の修正(家裁許可の要否)
5 違法な命名後の戸籍の修正(訂正or変更;概要)
6 違法な命名後の補正届(概要)

1 新生児の命名の法的位置づけ

個人の法律上の名(名前)は,通常,出生届によって決まります。
理論的には親権として父母(親権者)が決めるということになります。

<新生児の命名の法的位置づけ>

あ 命名権の法的位置づけ

出生した子の名の命名について
→父母の親権の内容の1つである
※民法818条1項

い 命名権の共同行使(※1)

命名権は父母の共同親権事項である
原則として父母が共同で行使する
=父母の一方だけでは行使できない
※民法818条3項

う 命名権の濫用(概要)

命名の内容が常識を逸脱している場合
→命名権の濫用になることがある
詳しくはこちら|命名権濫用(非常識な命名)と出生届不受理と名の変更

2 父母の一方の独断での命名の効力

親権の原則は父母の共同行使なので,父母の一方の独断は無効となるはずです。
しかし,現実面が重視され,戸籍に名が記載されると有効となります。

<父母の一方の独断での命名の効力>

あ 独断での命名の効力(概要)

父or母の独断による命名について
→親権の共同行使(前記※1)がなされていない
→理論的には無効である

い 規定上の出生届の形式

出生届の届出義務者について
『父又は母』と定められている
→双方届出主義は採用されていない
※戸籍法52条1項

い 独断命名の現実面

父母の一方の独断による命名について
→実際に出生届が提出されることも起こり得る
例;他方の親権者が不在であった
届出が行われ戸籍への記載がなされた場合
→これを前提として種々の法律関係が順次形成されていく

え 出生届の有効性

届出の効力自体を否定することは相当ではない
→届出は有効である
※山形家裁鶴岡支部昭和57年11月29日
※昭和43年10月福岡高裁管内家事審判官会同家庭局見解;同趣旨

3 名の確定時期(撤回・不受理の期限)

新生児の名が確定する正式なタイミングは戸籍に記載された時点です。
この理論は,命名の撤回や,役所側による拒否がいつまでできるか,ということにつながります。

<名の確定時期(撤回・不受理の期限)>

あ 名の確定時期

出生届が受理された時に名は確定する
=戸籍に記載された時

い 出生届撤回の期限との関係

『あ』の時点より前であれば自由に撤回できる
=出生届を書き直して提出すること
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院p508

う 役所による不受理との関係

『あ』の時点後において
受理の撤回・戸籍からの抹消ができなくなる
例;出生届が命名権の濫用であるケース
※東京家裁八王子支部平成6年1月31日;悪魔くん事件(未確定)
詳しくはこちら|悪魔くん事件(命名権の濫用・出生届受理の拒否)

4 名の戸籍記載後の修正(家裁許可の要否)

違法な命名でも,名が戸籍に記録されてしまうと,その後の修正のためには家裁の許可が必要となります。

<名の戸籍記載後の修正(家裁許可の要否)>

あ 戸籍記録後の修正の方式(原則)

名が戸籍に記録された後において
役所による戸籍の訂正・抹消,当事者による撤回はできない
家裁による『変更or訂正』の許可が必要となる(後記※2
※東京家裁八王子支部平成6年1月31日;悪魔くん事件(未確定)

い 戸籍記載後の補正届受理(例外)

違法な命名について
当事者の『補正届』提出を役所が受理した場合
→戸籍の記録の修正ができることもある(後記※3

5 違法な命名後の戸籍の修正(訂正or変更;概要)

違法な命名による戸籍の名を修正するには家裁の『訂正・変更』許可のいずれかが必要です(前記)。
理論的には訂正許可の対象となるはずです。
しかし実務では通常,変更許可の対象となっています。

<違法な命名後の戸籍の修正(訂正or変更;概要;※2)>

あ 原則論

違法な命名による名が戸籍に記録された場合
→本来,家裁の『訂正』許可手続の対象となる
しかし,実質的な事情の考慮ができないという問題がある
詳しくはこちら|戸籍『訂正』の手続と名の『訂正』の問題点(基本)

い 実務における扱い

原則的に『変更』許可手続の対象とする
例外的に『訂正』許可手続を用いることもある
詳しくはこちら|違法な命名(独断命名・人名用漢字外)と『訂正or変更』の振り分け

6 違法な命名後の補正届(概要)

違法な命名の後に,戸籍の修正をするには原則的に家裁の許可が必要となります。
例外的に家裁の許可がなくても修正ができたケースもあります。
命名権濫用が明らかであり,かつ,親権者が補正届を提出したことにより,役所が受理したというものです。

<違法な命名後の補正届(概要;※3)>

あ 事案

違法な命名がなされた
例;命名権を濫用する出生届の提出
役所は誤って受理し,名が戸籍に記載された

い 裁判所の判断

役所は職権で名を抹消することはできない
※東京家裁八王子支部平成6年1月31日;悪魔くん事件(未確定)

う 訂正届の受理

親権者が出生届の訂正届を役所に提出した
役所は訂正届を受理した
戸籍の名を修正した
詳しくはこちら|悪魔くん事件(命名権の濫用・出生届受理の拒否)

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