1 離婚時の姓の選択期限後の変更手続と法的性質
2 離婚後の氏変更の許可の大きな傾向
3 離婚後の氏の変更の判断の傾向の変遷
4 離婚後の氏変更の許可基準
5 離婚後の氏の変更と継続使用期間
6 期間制限後の従前姓への変更の許可傾向
7 離婚後の氏の変更許可の裁判例(概要)

1 離婚時の姓の選択期限後の変更手続と法的性質

離婚の際に,姓を継続使用するか結婚前の姓に戻るかを選択できる制度があります。
しかし,3か月という期間制限があります。
この期限後に状況が変わったり,考えが変わって姓を変更したいと希望するケースもあります。
この場合は手続としては一般的な氏(苗字)の変更の家裁の許可を申し立てます。

<離婚時の姓の選択期限後の変更手続と法的性質>

あ 離婚時の姓の選択(概要)

婚姻の際,氏を変更した者について
離婚の際,婚姻中の姓の継続使用or復氏を選択する
選択できる期限=離婚の日から3か月
※民法767条2項
詳しくはこちら|夫婦同姓と離婚に伴う復氏・俗称届の基本

い 事後的な変更

『あ』の後,選択しなかった姓を選択したい場合
→家裁に氏の変更を申し立てる

う 離婚後の氏の変更の法的性質(概要)

『呼称上の氏』を変更するものである
通常は『戸籍上の氏』を『民法上の氏』と一致させるものである
詳しくはこちら|夫婦同姓と離婚に伴う復氏・俗称届の基本

2 離婚後の氏変更の許可の大きな傾向

離婚後に氏の変更の許可を申し立てるケースがあります(前記)。
このような事情があるケースでは家裁は変更を許可する傾向があります。
要するに,離婚時の姓の選択の期限が切れた後でも,実質的な選択はまだ可能ということができます。

<離婚後の氏変更の許可の大きな傾向>

あ 一般的な変更許可の傾向

『やむを得ない事由』を緩やかに解する
=変更の許可を認容する事例が多い(後記※1)
※大阪高裁平成3年9月4日
※岡部喜代子『離婚後の婚氏続称と婚姻前の氏への変更』/『判例タイムズ747号』p122
※石井美智子『離婚に伴う続称と復氏の手続』/『判例タイムズ747号』p386

い 実質的な事後的復氏の許可の傾向(概要)

期間制限後に婚姻前の氏に変更することについて
→実務ではほぼ無条件に許可されている(後記※3)

う 反対説(少数)

選択の自由(機会)は1度与えられた
→その後は安定性が重視される
→変更を安易に許可すべきではない
現在ではこの見解は主流ではない(後記※1)
※村重慶一『精選 戸籍法判例解説』日本加除出版2007年p110

3 離婚後の氏の変更の判断の傾向の変遷

離婚後の氏の変更の手続において,現在では家裁は許可する傾向が強いです。
しかし,以前は許可しない傾向が強い時代もありました。
過去と現在の裁判例を整理します。

<離婚後の氏の変更の判断の傾向の変遷(※1)>

あ 以前=消極説

以前は消極説もあった
ア 福岡家裁直方支部昭和51年10月6日
イ 大阪家裁昭和52年8月29日

い 現在=積極説

現在は積極説が定着している
ア 大阪高裁昭和52年12月21日
イ 東京高裁昭和58年11月1日
ウ 東京高裁昭和59年8月15日
エ 札幌高裁昭和61年11月9日
オ 広島高裁昭和62年1月19日

4 離婚後の氏変更の許可基準

離婚後の氏の変更の判断の大きな方向性は緩やかに許可するというものです(前記)。
しかし,すべて許可するというわけではありません。
実際に許可しないという実例もあります。
許可の判断要素や基準をまとめます。

<離婚後の氏変更の許可基準>

あ 判断基準

『ア・イ』さえ満たせば許可する
『い』の事情を元に判断する
ア 申立が恣意的なものではない
イ 社会的弊害などを生じるおそれがない

い 判断要素

ア 変更前と後の氏に関する事情
・使用期間(後記※2)
・知名度
・浸透範囲
イ 職業
ウ 経済活動
エ 生活環境
※村重慶一『精選 戸籍法判例解説』日本加除出版2007年p110

5 離婚後の氏の変更と継続使用期間

離婚後の氏の変更許可の審理において,氏(苗字)の継続使用期間が判断要素の1つです。
とはいっても,比較的長期間使用した氏(苗字)でも,他の氏(苗字)に変更することが認められています。
全体として,緩やかに許可される傾向があるのです。

<離婚後の氏の変更と継続使用期間(※2)>

あ 一般的な検討

婚姻時の氏の使用期間が長いと社会に定着する
婚姻時の氏から元の氏に変更することについて
婚姻時の氏の使用期間が短い方が望ましい

い 判断の傾向

短期でなくても変更を許可する方向性である

う 主要な裁判例

次のいずれも変更を許可している

継続使用期間 裁判例
3年7か月 広島高裁昭和62年1月19日
8年 山形家裁平成2年1月15日
約11年 大阪高裁平成3年9月4日

6 期間制限後の従前姓への変更の許可傾向

離婚後の氏の変更の内容は,結婚前の姓に戻るものと,戻った後に元配偶者の姓(婚姻中の姓)に戻すという2つがあります。
このうち,結婚前の姓に戻るケースについては,さらに変更が許可される傾向が強いです。
現実にフリーパスに近いといえます。

<期間制限後の従前姓への変更の許可傾向(※3)>

あ 前提事情

離婚時に婚姻中の姓を選択した
事後的に元の姓に戻ることを希望するに至った

い 解釈論

民法の規定上,復氏が原則とされている
※民法767条1項
変更を許可しても実質的に困ることがない

う 実務的判断の傾向

ほとんど無条件に認容されている
※『判例タイムズ判918号』p230
※村重慶一『精選 戸籍法判例解説』日本加除出版2007年p110

7 離婚後の氏の変更許可の裁判例(概要)

離婚後に氏の変更許可が申し立てられたケースは多くあります。
実際に家裁はほぼすべて許可をしています。
裁判例は別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|離婚後の氏の変更許可申立(裁判例の集約)