1 人名用漢字の拡大と名の変更(概要)
2 名に使える文字の増加の歴史(概要)
3 人名用漢字の拡大と名の変更許可傾向
4 人名用漢字の拡大→変更許可
5 人名用漢字の拡大と姓名判断→変更許可
6 人名用漢字の拡大・類似名→変更許可
7 人名用漢字の拡大→変更許可
8 人名用漢字の拡大→変更不許可

1 人名用漢字の拡大と名の変更(概要)

人名として使える文字は,時代とともに増えてきました。
つまり,過去には使えなかった文字が,その後使えるようになったということが生じています。
このようなケースで名の変更の申立がなされることがあります。
本記事では,名に使える文字の増加とこれに伴う名の変更許可の審理について説明します。

2 名に使える文字の増加の歴史(概要)

名として使える文字は,昭和23年の戸籍法施行で限定され,その後順次増えてきました。

<名に使える文字の増加の歴史(概要)>

あ 昭和23年戸籍法施行

名に使用できる文字を制限する規定が作られた
ア 当用漢字1850字
イ 片仮名・平仮名
その後,順次使用できる文字が追加された

い 平成2年4月

ア 常用漢字1945字
イ 人名用漢字別表230字
ウ 片仮名・平仮名
詳しくはこちら|名の常用平易性(使用可能文字)の基本

3 人名用漢字の拡大と名の変更許可傾向

名に使える漢字が拡大することに伴う名の変更については,許可・不許可の両方の方向性があります。
他の事情によって最終的な判断が決まるということです。

<人名用漢字の拡大と名の変更許可傾向>

あ 事案

出生当時に希望する名が制限外の文字を含んでいた
不本意ながら,やむを得ず制限内の文字を用いて命名した
その後,希望する名の漢字が人名用漢字に追加された
希望する名への変更を申し立てた

い 正当事由の判断の全体的傾向

正当事由を肯定・否定する両方の見解がある
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院p519

う 正当事由を肯定する事情

『ア・イ』の事情がある場合
→正当事由を肯定する方向に働く
ア 同一性に支障がない
社会生活上同一性の認識について何の混乱も生じない
イ 通称の永年使用
通称として使用している期間が長期に及ぶ
※村重慶一『精選 戸籍法判例解説』日本加除出版2007年p138,141

4 人名用漢字の拡大→変更許可

以下,人名用漢字の拡大に伴う名の変更についての裁判例を紹介します。
最初の命名の時点で『後から変更する』という予定であったという特殊事情があったケースです。
この特殊事情が変更を許可する方向に働いています。

<人名用漢字の拡大→変更許可>

あ 漢字の使用不可

『湧也』と命名する予定であった
使用可能な範囲内に記載がなかった
内容=常用漢字表・人名用漢字別表 

い 規定の改正予定

新聞報道により,次の予定・見込みがあった
ア 近い時期に人名用漢字別表に改正がある
イ 『湧』が使えるようになる

う 事後的な変更の計画

役所の職員は『改正後に名変更の申立をする』ことをアドバイスした
両親は,後から変更する前提で出生届には『勇也』として提出した
実際に両親は規定の改正後,名の変更の申立をした

え 裁判所の判断(原審)

改正だけでは『正当な事由』とは言えない
申立を却下した

お 裁判所の判断(抗告審)

社会生活上同一性の認識について何らの混乱も生じない
改名による対世的影響影響は皆無に等しい
変更を必要とする積極的な事由は不要である
詳しくはこちら|名の変更の一般的・抽象的な許可基準
→『正当の事由』がある
→変更を許可した
※高松高裁平成2年8月15日

5 人名用漢字の拡大と姓名判断→変更許可

通称名を使用した理由が,人名用漢字ではない文字を含んだことと姓名判断であった事例です。
姓名判断を理由とする名は一般的に変更が許可されません。
詳しくはこちら|姓名判断による名の変更(許可基準と裁判例)
しかし,人名用漢字の拡大が関与していることにより,変更が許可されました。

<人名用漢字の拡大と姓名判断→変更許可>

あ 出生届(命名)

Aの出生時に希望する名は当用漢字に含まれない文字を含んでいた
希望する名による出生届が受理されなかった
次順位の候補の名によって出生届を提出した

い 姓名判断

Aの兄弟は腺病質であった
姓名判断学によるとAの戸籍名が,Aの兄弟に悪影響を及ぼすと示された
Aの父母が心を痛めた
そこで,希望していた名を通称として使用してきた

う 人名用漢字の拡大

通称の名の文字が人名用漢字に追加された
Aは名の変更を申し立てた

え 裁判所の判断

変更を許可した
※大阪高裁昭和29年6月4日

6 人名用漢字の拡大・類似名→変更許可

人名用漢字の拡大と類似名の存在を理由とする名の変更が許可された事例です。

<人名用漢字の拡大・類似名→変更許可>

あ 事案

出生時に希望する名による出生届が受理されなかった
次順位の候補の名によって出生届を提出した
実際には希望する名を通称として使用してきた
その後,通称名の漢字が人名漢字表に組み入れられた

い 裁判所の判断

戸籍名を称すると近隣の子供と呼称が共通して紛らわしい
→変更を許可した
※大阪高裁昭和29年6月4日

7 人名用漢字の拡大→変更許可

人名用漢字が拡大したことによる名の変更を許可するという見解です。

<人名用漢字の拡大→変更許可>

あ 出生届(命名)

Aが出生した
父母は『彦』の旧字体を名にしたかった
しかし当時この漢字は当用漢字表になかった
やむなく『比古』の字の出生届を提出した

い 人名用漢字の拡大

その後『彦』(の旧字体)が人名漢字として追加された
兄弟の名もすべて『彦』を使っていた

う 協議会の判断

幼児であり社会的影響も少ない
→変更を許可する
※昭和27年9月13日東海3県家事係裁判官協議会協議結果

8 人名用漢字の拡大→変更不許可

人名用漢字の拡大を理由とする名の変更が許可されなかった事例です。
長期間の通称の使用など,他の事情があまりなかったものと思われます。

<人名用漢字の拡大→変更不許可>

あ 事案

希望する名が当用漢字表にない文字を含んでいた
別の文字を用いた名による出生届を提出した
その後人名漢字別表に追加された
希望していた名への変更を申し立てた

い 裁判所の判断

人名用漢字の拡大だけの理由では正当事由とはいえない
→変更を許可しなかった
※大阪高裁昭和27年10月31日
※大阪高裁昭和27年11月26日;同趣旨
※福岡家裁大牟田支部昭和45年6月17日;同趣旨
※昭和29年4月26日大阪家裁家事部決議;同趣旨
※昭和26年9月7日家甲152号最高裁家庭局第2課長回答;同趣旨