1 珍奇・難解な名の変更(総論)
2 男性の『桃千代』・珍奇→変更許可
3 『盈雄』・人名用漢字外→変更許可
4 『五八』・低俗・誤解多発→変更許可
5 『州璋』・難読・誤解多発→変更許可
6 旧字体の『花』・難読→変更許可
7 女性の『精子』・命名経緯の不備→変更許可(概要)
8 女性の『コトラ』+希望名の難読→変更不許可
9 『馬茂』・珍奇→変更不許可

1 珍奇・難解な名の変更(総論)

戸籍名が珍奇・難解なものであることは本人にとっても周囲にとっても好ましくありません。
そこで,一般的に名の変更は許可されます。
詳しくはこちら|悪名(珍奇・難解)の変更の許可基準
本記事では,珍奇や難解な名の変更の審判の実例を紹介します。

2 男性の『桃千代』・珍奇→変更許可

現在では『桃太郎』という男性は『英雄(au)』の1人としてポピュラーです。
これにちなむケースを紹介します。
『平成』ではなく『昭和』27年ですの事例です。
時代のスパイラルを感じるケースと言えます。
昭和27年当時の男性の『桃千代』は珍奇であるとして通称への変更が許可されました。

<男性の『桃千代』・珍奇→変更許可>

あ 命名

男児Aは『桃千代』と命名された
『桃イコール女性』とは限らない
例;桃太郎(実在ではないが)

い 通称使用

Aは戸籍名を嫌がるようになった
中学校卒業の頃より,通称として『兼弘』を使用し始めた
十数年間,日常生活では『兼弘』を使い続けてきた

う 裁判所の判断

『桃千代』という名称は女性を連想せしめるものである
男子の名としては,珍奇に属する
→変更を許可した
※福岡高裁昭和27年9月15日

3 『盈雄』・人名用漢字外→変更許可

『盈』という字はあまり見ることがない漢字です。実際に人名用漢字には含まれないものです。
裁判所は変更を許可しました。

<『盈雄』・人名用漢字外→変更許可>

あ 変更希望の名

戸籍名『盈雄』(みちお)→希望名『健司』

い 難解・難読と通称使用

『盈』の字は他にも2種類の書き方がある
3つの字画のどれが正しいか容易に決められない字である
平常余り使用されないものである
人名用漢字には含まれない
周囲に誤って表記される,呼称されることがある
数年前から通称として『健司』を使用している

い 裁判所の判断

戸籍名は一般人から見てはなはだしく難解難読である
社会生活上著しい支障がある
名の変更は正当事由がある
→変更を許可した
※大阪高裁昭和25年6月19日

4 『五八』・低俗・誤解多発→変更許可

『五八』という名が低俗であると主張されたケースです。
本人の職業が教員であったことも考慮され,変更が許可されました。

<『五八』・低俗・誤解多発→変更許可>

あ 珍奇

Aの戸籍名が『五八』であった
Aは高等学校の教諭であった
番号日付などの数字と間違えられることがある

い 裁判所の判断

教諭としての社会的地位及び環境との関係において
低俗な感を伴う
日常生活上著しく不便である
→変更を許可した
※仙台高裁昭和28年4月22日

5 『州璋』・難読・誤解多発→変更許可

『州璋』という名は難読であると判断され,変更が許可されました。

<『州璋』・難読・誤解多発→変更許可>

あ 変更希望の名

戸籍名『州璋』(くにあき)→通称『吉郎』

い 裁判所の判断

難読・誤称・誤配のおそれがある
→変更を許可した
※大阪高裁昭和30年10月31日

6 旧字体の『花』・難読→変更許可

旧字体の『花』の漢字が用いられた名がありました。
当然,人名用漢字には含まれません。また読みにくいものです。
そこで裁判所は名の変更を許可しました。

<旧字体の『花』・難読→変更許可>

あ 変更希望の名

戸籍名『(花)子』(はなこ)→希望名『ひろ恵』

い 『花』の自体

実際には『花』は古い字体であった
当時世間一般には使用されていなかった
人名用漢字(当用漢字)には含まれない
通常人がそのままでは読めないことが多い
郵便物の取り扱いにも支障を生じることが多い

う 裁判所の判断

社会生活上不便である
→変更を許可した
※前橋家裁中之条支部昭和36年11月28日

7 女性の『精子』・命名経緯の不備→変更許可(概要)

母が独断で女児に『精子』という命名をしたケースです。
裁判所は,名前自体の問題はないと判断しました。
その上で出生届提出の不備を考慮して変更を許可しました。

<女性の『精子』・命名経緯の不備→変更許可(概要)>

あ 命名

女児に『精子』の出生届がなされた
父はこの名を希望していなかった
母が独断で出生届に記載した

い 裁判所の判断

客観的には不便や支障はあまりない
命名の経緯の不備が考慮された
→変更を許可した
※那覇家裁昭和47年10月30日
詳しくはこちら|父or母の独断での命名後の名の訂正・変更の裁判例集約

8 女性の『コトラ』+希望名の難読→変更不許可

女性の『コトラ』の名がふさわしくないと主張されたケースです。
一方,希望する名は『かずこ』と読む『和孝』という漢字でした。
裁判所は,希望する名が難読であることから変更を許可しませんでした。

<女性の『コトラ』+希望名の難読→変更不許可>

あ 変更希望の名

戸籍名『コトラ』→希望名『和孝』(かずこ)

い 戸籍名が生じる支障

戸籍名は『小虎』に通じる
女性の名としてふさわしくない
社会生活上支障があると言える

う 希望名の不都合性

希望名『和孝』は姓名判断によるものである
『和孝』という文字は『かずたか・わかう』と読める
男性の名と間違えやすい
『かずこ』と読むのはとても難しい
仮に女児に『和孝』と命名したら名の変更が許可される

え 裁判所の判断(結論)

変更を許可しなかった
※大阪高裁昭和32年5月27日
※昭和32年9月25日大阪家裁家事部決議

9 『馬茂』・珍奇→変更不許可

『馬茂』(うましげ)が悪名であると主張されたケースです。
裁判所は,この名によって社会的信用が損なわれることはないと判断しました。
結局,変更は許可されませんでした。

<『馬茂』・珍奇→変更不許可>

あ 事案

Aの戸籍名は『馬茂』(うましげ)であった
周囲から『うましか(馬鹿)』と呼ばれることがあった
誤解・いたずら(からかい)の両方があった
Aは幼少の頃から戸籍名を好んでいなかった

い 裁判所の判断

戸籍名は珍奇・難解・低俗のいずれでもない
職業・社会的地位・環境などとの関連において
戸籍名のためにAの社会的信用が損われることはない
→変更を許可しなかった
※高松高裁昭和35年6月11日