1 財産分与の判断の基準時(全体)
2 清算的財産分与の基準時(2つの見解)
3 清算的財産分与の基準時(最高裁判例)
4 清算的財産分与の基準時(まとめ)
5 清算的財産分与の別居時説の具体的な適用

1 財産分与の判断の基準時(全体)

財産分与を決める際には,すでに存在する財産や収入の状況を元に判断します。
詳しくはこちら|財産分与の基本(3つの分類・典型的な対立の要因)
この点,財産の内容や評価額,収入の状況は常に変動します。
そこで,財産分与の判断の際,いつの時点を基準とするのかという問題があります。
本記事では財産分与の基準時点について説明します。
まず,財産分与の分類ごとに基準時点が違います。

<財産分与の判断の基準時(全体)>

あ 清算的財産分与(概要)

別居時が基準とすることが基本である
別居後の事情を考慮することもある(後記※1)

い 扶養的・慰謝料的財産分与

離婚時を基準とする
※島津一郎ほか『新版注釈民法(22)親族(2)』有斐閣2008年p221

2 清算的財産分与の基準時(2つの見解)

清算的財産分与の基準時の解釈は単純に1つに決まっていません。
大きく分けると2つの見解があります。

<清算的財産分与の基準時(2つの見解)>

あ 別居時説

夫婦の協力によって形成した財産が対象である
→夫婦の協力の終了時点を基準とする
=別居時を基準とする
※広島高裁岡山支部平成16年6月18日

い 裁判時説

別居後にも夫婦としての経済的協力関係が継続する場合
→別居後の事情を『一切の事情』として考慮する
裁判時説といえる
※東京地裁平成12年9月26日

う 別居後の協力関係の具体例

『ア・イ』のような役割分担を行っている
ア 婚姻費用の分担・住宅ローンの支払
イ 財産の管理・子の養育
※島津一郎ほか『新版注釈民法(22)親族(2)』有斐閣2008年p221,222

3 清算的財産分与の基準時(最高裁判例)

清算的財産分与の基準時の解釈について,最高裁判例が示しています。
ただし,これは一般的に統一して適用されるような内容ではありません。

<清算的財産分与の基準時(最高裁判例)>

あ 判例(引用)

(民法768条3項の『一切の事情』について)
『一切の事情とは当該訴訟の最終口頭弁論当時における当事者双方の財産状態の如きものも包含する趣旨と解するを相当とする』
※最高裁昭和34年2月19日

い 解釈

離婚時基準説に立ったとされている
ただし,例外を否定するものではない
※島津一郎ほか『新版注釈民法(22)親族(2)』有斐閣2008年p221

4 清算的財産分与の基準時(まとめ)

清算的財産分与の基準時に関する見解はいくつかのものがあります(前記)。
以上の見解について,原則と例外に分ける形でまとめます。
家裁の実務の運用にも沿う処理方法です。

<清算的財産分与の基準時(まとめ;※1)>

あ 柔軟な処理

別居時に通常は夫婦の協力関係が終了する
→基準時は別居時を基本とする
特殊事情による別居後の財産の変動も考慮する
※大津千明『離婚給付に関する実証的研究』日本評論社1990年p126
※渡邊雅道『財産分与の対象財産の範囲と判断の基準時』/『判例タイムズ臨時増刊1100号』2002年p52
※二宮周平ほか『離婚判例ガイド 第2版』有斐閣2005年p139

い 東京家裁の運用

清算的財産分与の争点整理について
別居時に存在する財産を基準としている
※東京家庭裁判所家事第6部『東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情 第3版』判例タイムズ社p27

5 清算的財産分与の別居時説の具体的な適用

清算的財産分与の基準時を別居時とする結界があります(前記)。
別居時を基準とすることで公平・妥当性を得られた実例を紹介します。

<清算的財産分与の別居時説の具体的な適用>

あ 別居後の財産浪費と隠匿

夫婦が別居した
その後,夫婦の一方が財産を浪費or隠蔽した
→この浪費or隠匿は算定上除外する
=別居時の財産を基準とする
※長崎家裁佐世保支部昭和43年3月15日

い 別居後の財産取得

別居後に夫婦の一方が財産を取得した
→この取得財産は算定上除外する
→別居時の財産を基準とする
※富山家裁昭和46年10月13日

う 将来の退職金の算定

夫の将来の退職金について
妻の寄与の程度は同居期間のみとした
→実質的に別居時を基準としたといえる
※横浜家裁平成13年12月26日