1 申立をしない相手方への分与(前提事情)
2 申立をしない相手方への分与(大枠)
3 具体的見解の内容

1 申立をしない相手方への分与(前提事情)

家事審判や訴訟は当事者の主張・請求と裁判所の関係が特殊です。このような法的な性格から,複数の解釈が生じることがあります。
本記事では,このような解釈論の1つとして,財産分与の申立をしない当事者に財産分与をすることができるかどうか,という問題を説明します。
まずは,具体的な状況を事例としてまとめます。

<申立をしない相手方への分与(前提事情)>

あ 具体例

財産分与の審判(離婚訴訟)において
それぞれの当事者は次のような申立をしている

い 申立人(原告)A

Aは財産分与の請求(申立)をしている
内容=相手方Bに財産を分与する

う 相手方(被告)B

Bは財産分与の請求(申立)をしていない

2 申立をしない相手方への分与(大枠)

前記の状況で,当事者Bへの財産分与ができるかどうかの見解は複数あります。まずは,大きな2つの見解の基本的部分を整理します。

<申立をしない相手方への分与(大枠)>

あ 家裁の後見的機能→肯定方向

財産分与については家裁の裁量が大きい
当事者の主張は家裁を拘束しないという原則がある

い 私的自治・処分権主義→否定方向

私的な権利は請求する/しないという個人の判断が尊重される
詳しくはこちら|家事審判|対審構造|緩和的|不成立なし・処分権主義・既判力

う 見解の対立(全体)

Bへの財産分与について
裁判所が判断(決定・判決)できるか否か
→複数の見解がある(後記※1)

3 具体的見解の内容

前記の解釈につて,複数の見解があります。具体的な見解を分類・整理します。

<具体的見解の内容(※1)>

あ 肯定説

申立をしない相手方への分与は可能である
※最高裁昭和62年9月2日(補足意見として)
※神戸地裁平成元年6月23日
※横浜地裁横須賀支部平成5年12月21日
※大津千明『離婚給付に関する実証的研究』日本評論社p330
※中川淳『判例評釈』/『判例タイムズ645号』判例タイムズ社p61

い 否定説

申立をしない相手方への分与を認めない
※大阪高判平4年5月26日
※東京高判平6年10月13日
※東京高裁昭和63年8月23日
※鍛冶良堅『破綻主義と最高裁大法廷判決』/『判例タイムズ652号』判例タイムズ社p65
※木村要『有責配偶者からの離婚請求』/『戸籍時報551号』p16
※野田愛子『判例評論』/『判例時報1370号付録』判例時報社p204

う 職権での分与を認める見解

裁判所の職権を大きめに認めるという見解
→申立をしない相手方への分与を認める方向性
※滝沢聿代『有責配偶者の離婚と今後の課題』/『判例タイムズ680号』p38,39