【扶養料・養育費への贈与税課税|基本|一括払い・認知未了】

1 扶養義務は贈与税の対象外
2 養育費の一括払いは税務上贈与とみられる可能性が高まる
3 養育費の一括払いについて,税務上,贈与税課税を避ける工夫
4 扶養料が生活費として使われず貯蓄されると贈与税課税となるリスクがある
5 認知未了の子供への扶養料は贈与税の課税リスクがある

1 扶養義務は贈与税の対象外

一定の近親者については『扶養義務』があります。
※民法877条
扶養のための資金は『扶養料』となります。
※民法766条1項
なお,離婚後の子供の扶養料のことを『養育費』と一般的に呼んでいます。

「養育費」や「扶養料」として妥当な範囲の金額であれば,扶養義務の履行です。
その場合「贈与」とは別として扱われます。
贈与税はかかりません。
※相続税法21条の3第1項2号

ただし,例えば養育費を仮装して,実際には相続の前倒しとしての贈与というような場合は贈与税の対象となります。
法律上通常必要と認められるものだけが贈与税の非課税財産とされているのです。
※相続税法21条の3第1項2号
※相続税法基本通達21の3−6

2 養育費の一括払いは税務上贈与とみられる可能性が高まる

税務上,扶養料は贈与税の非課税財産とされています。
ただし,非課税とされるのは通常必要と認められるものの範囲です。
※相続税法21条の3第1項2号
※相続税法基本通達21の3−6

適正な扶養料(養育費)の月額,であれば,前払いしても同じであると考えられそうです。
しかし,税務上はちょっと違う見方をされる可能性があります。

一括前払い,ということは金額が日々の生活に必要な範囲を大きく超えてしまいます。
実際には扶養の本来的目的以外の用途に使ってしまえるというところがポイントです。
例えば,株式などの金融商品購入や不動産購入などに充てた場合,「扶養」の目的以外と言えるでしょう。
さらに,日々の生活費扶養の目的以外の用途に使える状態,というだけで,贈与税の非課税財産から外れる=贈与税の対象となる,という可能性があるわけです。
特に金額自体が高額な場合は,税務署として本来は他の目的での金銭であり『養育費という名称はダミー』という見方をされる傾向にあります。

また,養育費の一括払いは,当事者間でも一定の問題を孕みます。
別項目;養育費の一括払いがなされた後の追加請求

3 養育費の一括払いについて,税務上,贈与税課税を避ける工夫

養育費の一括払いで,金額自体が高額なケースでは,税務署が実際には他の目的での金銭という見方をする場合があります。
逆に,他の目的には使えない,使いにくいという状態であれば,このような疑われる可能性を低減できましょう。

<養育費を扶養料として否定されるリスク低減方法の例>

あ 信託契約により,第三者に金銭を信託し,残額の一括払い戻しができない状態を作る
い 年金保険により,残額の一括払い戻しをやりにくい状態を作る
う 書面(合意書や調停調書)において,次のような条項を明記しておく

ア 養育費を計画的に使用して,養育に当たるべき義務イ 養育費受領した親が,その責任において子供の養育に当たる

4 扶養料が生活費として使われず貯蓄されると贈与税課税となるリスクがある

次に,認知をしている場合は,生活費の送金について課税対象ならないか,について説明します。

子供の『扶養』としての費用であれば『贈与』ではありません。
あとは,金額の問題となります。

極端に高額だと『扶養に名を借りた贈与だ』と,税務署から主張されることもあります。
また,受け取った『養育費(扶養料)』を貯蓄したり,不動産・株式の購入に使ったりしている場合も,扶養ではなく贈与と認められるリスクが高まります。
※相続税法21条の3第1項3号
※相続税基本通達21の3−5
がんばって節約して貯めたと言いたいですが,過剰にもらったという税務署の主張につながる,ということです。

5 認知未了の子供への扶養料は贈与税の課税リスクがある

実際に,「父子関係」は間違いないけれど,敢えて認知しないというケースはあります。
詳しくはこちら|死後の認知|全体|認知を回避or遅らせる背景事情
その一方,に,ごく自然に生活費を渡すこともありましょう。

ここで,認知していない場合は,法律上『親子=父子』ではないです。
婚姻していない父母の場合は,認知を行うことにより,初めて親子(父子)関係が生じるのです。
詳しくはこちら|認知の効果|全体・相続|認知がない状態の扱い
認知するまでは法的に親子ではないので扶養の義務もありません。
詳しくはこちら|認知による扶養義務・請求権の発生(遡及効・時間制限・相続・家裁の手続)
税務署から『扶養料ではなく贈与だ』と主張される可能性が高いです。
特に,数年分をまとまった金額で渡す場合は,扶養ではないと認められる可能性が高くなります。

このような制度,運用は認知を事実上強制するものと言えます。
国民が個人として選択,設計する家族のあり方に国家が不当に介入するものだと思われます。

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