【有責配偶者の支払不履行リスクにより離婚請求を棄却した裁判例】

1 有責配偶者の支払不履行リスクにより離婚請求を棄却した裁判例
2 当事者・関係者
3 主要な事情・事案
4 判断の枠組み
5 長期間の別居の判断
6 未成熟子の不存在の判断
7 苛酷・反社会状況の不存在の判断
8 裁判所の判断の結論

1 有責配偶者の支払不履行リスクにより離婚請求を棄却した裁判例

有責配偶者からの離婚請求は原則的に否定されます。しかし,一定の事情があれば認められます。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
実際に有責配偶者の離婚請求を認められなかった事例の中に,有責配偶者の将来の金銭支払の不安が重視された裁判例があります。
本記事では,この裁判例の事案と裁判所の判断を説明します。

2 当事者・関係者

この事例の当事者とその他の関係者をまとめます。

<当事者・関係者>

あ 当事者・年齢(※4)

夫X=51歳
妻Y=52歳

い 関係者

A=長男26歳
B=長女24歳
C=次男21歳・大学生
D=Xとの不貞相手
※仙台高裁平成25年12月26日

3 主要な事情・事案

事案の概要を整理します。

<主要な事情・事案>

XがDと不貞を行っていた
→Xは有責配偶者である
X・Yは別居に至っている
Xは今は他の女性と交際している事情はない
夫婦の婚姻関係はすでに破綻している
Yは婚姻継続を希望している
Xが離婚請求訴訟を提起した
※仙台高裁平成25年12月26日

4 判断の枠組み

離婚請求について判断する枠組み・前提部分をまとめます。

<判断の枠組み>

あ 有責性

不貞・別居については専らXに責任がある
Xは有責配偶者である

い 判断の枠組み

有責配偶者からの離婚請求の3要件を用いる
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
ア 長期間の別居(後記※1イ 未成熟子の不存在(後記※2ウ 苛酷・反社会状況の不存在(後記※3 ※仙台高裁平成25年12月26日

3要件のそれぞれの判断を以下,順に説明します。

5 長期間の別居の判断

<長期間の別居の判断(※1)

あ 別居期間

別居期間=9年4か月

い 評価

当事者の年齢・同居期間との対比において
相当の長期間に及んでいるとは言えない

う 年齢・同居期間

年齢=51歳と52歳(前記※4
同居期間=18年6か月
※仙台高裁平成25年12月26日

6 未成熟子の不存在の判断

<未成熟子の不存在の判断(※2)

次男Cは大学生であった
→離婚を否定する方向の事情として位置づけている
『未成熟子』に該当するか否かを明確に示していない
※仙台高裁平成25年12月26日

7 苛酷・反社会状況の不存在の判断

<苛酷・反社会状況の不存在の判断(※3)

あ 妻の経済状況

Yはうつ病で思うように稼働できない
負債を抱えている
大学生の子Cと同居している

い 夫の経済的サポート

Xは離婚給付を提示していた

提示時期 提示内容
第1審段階 400万円
第2審段階 1000万円
う 夫の不払いリスク

過去に,Xが婚姻費用の支払をしないことがあった
→Yは給与の差押をせざるを得なかった
→将来の支払分の履行に不安が残る

え 苛酷・反社会的な状況

Yは経済的に極めて苛酷な状況に置かれる可能性がある
一方Xには早急にYと離婚しなければならない事情はない
※仙台高裁平成25年12月26日

この経済的な側面の考慮で特殊事情が反映されています。
過去の態度から,将来の支払を不安視したのです。

8 裁判所の判断の結論

以上の検討を踏まえた結論をまとめます。

<裁判所の判断の結論>

有責配偶者からの離婚請求の3要件の検討(前記)から
→Xからの離婚請求は信義誠実の原則に照らし許されない
→離婚請求を棄却した
※仙台高裁平成25年12月26日

本記事では,有責配偶者の将来の金銭支払の不安が重視されて,離婚請求が認められなかった裁判例を紹介しました。
実際には,個別的な細かい事情や,主張と立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に有責配偶者の離婚請求に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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