【経済事情が変わった場合,婚姻費用分担金の変更が認められる】

1 婚姻費用の変更請求ができることもある
2 経済状況が変わった場合,婚姻費用分担金変更が認められる
3 事情の変更大きい場合だけ,婚姻費用分担金変更が認められる
4 婚姻費用分担金変更が遡る『時点』はいくつかの見解がある
5 経済状況の変化の大きさいつ判明したかによって変更の始期が選択される

1 婚姻費用の変更請求ができることもある

夫婦の別居中に,(主に)夫が妻に生活費を払います。
詳しくはこちら|別居中は生活費の送金を請求できる;婚姻費用分担金
この婚姻費用分担金は,扶養請求権と同じ性質をもちます。
そこで,扶養の程度の変更を規定する民法880条の類推適用により,家庭裁判所が婚姻費用分担金の変更(増額・減額)できます。
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用の増減額請求の基礎的理論(法的根拠)

2 経済状況が変わった場合,婚姻費用分担金変更が認められる

婚姻費用の金額の変更が認められる要件について説明します。
簡単に言えば,現在支払われている婚姻費用分担金が現時点では不合理ということです。
つまり,当初婚姻費用分担金額を決定した時点から,経済的事情が変わった,という場合が典型的な婚姻費用分担金変更の場面です。

<婚姻費用変更(減額)の判断要素の例>

・義務者側の収入,資力の増減
・要扶養者側の扶養の必要性の増減
・物価変動等による生活費の高騰
・当事者双方の健康状態の変動
・以上の事情変更の理由
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用の増減額請求が認められる『事情の変更』の判断基準

3 事情の変更大きい場合だけ,婚姻費用分担金変更が認められる

ごく一般論として,1度合意により決めたものは,原則として守られるべきです。
審判(決定)内容の変更についても同様です。
そこで,事情変更が予測できなかったもので,かつ,変化の程度がある程度重大である場合に初めて婚姻費用分担金の変更が認められることになるのです。

<婚姻費用分担金の変更が認められる基準(概要)>

あ 事情の変化

過去に決められた金額が不合理になった

い 事情の変化の予測可能性

事情の変化(あ)が予測できなかった

う 金額を変更する必要性

事情変更が重大である
=婚姻費用分担金を変更してもやむを得ない程度である
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用の増減額請求が認められる『事情の変更』の判断基準

4 婚姻費用分担金変更が遡る『時点』はいくつかの見解がある

<婚姻費用分担金の増減額をさかのぼらせる状況>

夫と妻は別居している
別居した時点で婚姻費用の月額を話し合いで決めた
その後夫の収入が激減した
その後半年くらいが経った
夫(私)としては,半年前の分から婚姻費用を減額して欲しい

婚姻費用の減額が,「いつの分から」認められるか,について説明します。

この変更の時点(始期)については,実際の裁判(審判)でも,いくつかの選択肢があります。
事情変更時(半年前),請求時,審判申立時,などです。
最高裁の判例がないので,統一的見解はない状況です。
前記の事案を前提にして始期のバリエーションをまとめます。

<婚姻費用分担金変更の始期(変更時点)の説>

あ 事情変更時

具体例=現実に夫の収入が下がった時点

い 裁判外の請求時

妻サイドの立場から考える見解

う 審判申立時

『い』よりも,夫が増減額を請求する意図が明確になった時点である

え 審判の第1回期日

『う』の考え方の延長上にある見解である
現在ではこの時点が選択されることはほとんどない
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用分担金の増減額の始期(いつまでさかのぼるか)

5 経済状況の変化の大きさいつ判明したかによって変更の始期が選択される

実際の審判において,裁判所が行う変更の時点の説の選択について説明します。

審判官(裁判官)個人の見解によるブレがあります。
ただし,ある程度,実情を反映させることが多いです。

実際に,このような複数の説が並立している論点については,『私が採る見解はA説です』と明言する裁判官もいます。
その一方で,婚姻費用分担金の変更時点など,個別的事情による考慮が必要という論点では,単純・100%純粋な法律解釈,とは異なる部分があります。
つまり,個別的な事情によって,どの説を採るべきかが変わってくる,ということです。
前記の事案を前提にして始期の選択の傾向をまとめます。

<個別的事情による採用する説への影響の例>

あ 夫の収入減少の幅が非常に大きい

→減額をより広く認めないと夫が不当に害される
→変更時点は遡る方向

い 夫が収入減少を敢えて隠していた

→変更時点を遡らせると妻への不意打ちになる
→変更時点は遡らない方向

う 夫の収入減少を妻が熟知していた

→変更時点を遡らせても妻への不意打ちにはならない
→変更時点は遡る方向
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用分担金の増減額の始期(いつまでさかのぼるか)

本記事では,婚姻費用分担金の増減額(変更)についての基本的事項を説明しました。
実際には本記事以外の細かい規定や解釈があります。
主張の組み立てや証拠の選択によって結論が大きく違ってくることもあります。
実際に,婚姻費用分担金の増減額の問題に直面している方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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