1 性同一性障害→戸籍上『性別変更』ができる|家裁の審判
2 性別変更による名前の変更(概要)
3 性別変更審判→『夫』として婚姻できる|GID夫婦
4 性別変更審判で『男性』となった→『夫になる』+『父になる』いずれも可能|判例
5 判例事案|GID夫婦の『出生届』→『父』としての扱いが認められた
6 GID夫婦の出生届|嫡出推定適用の有無の見解対立
7 GID夫婦の出生届|戸籍上の過去の『出生』記録の訂正方法
8 性別変更生殖テクノロジー×法的扱い→未解決問題が残っている

1 性同一性障害→戸籍上『性別変更』ができる|家裁の審判

『性同一性障害』について,従前は法律・制度が対応していませんでした。
この問題は,立法によって解消されました。

<性別の変更手続|家裁の審判>

あ 手続

家裁の審判を受ける

い 要件

次のいずれをも満たす
ア  20歳以上である
イ  現に婚姻をしていない
ウ  現に未成年の子がいない
エ  生殖腺がないor生殖腺の機能を永続的に欠く状態にある
オ  身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えている
※性同一性障害特例法3条1項

う 性別変更審判の効果

民法その他の法令の規定の適用について,他の性別に変わったものとみなす
※性同一性障害特例法4条1項

家裁の審判により法的な扱いとして『性別変更』を認める,というものです。

2 性別変更による名前の変更(概要)

前記の規定によって戸籍上の性別を変更することが可能となっています。
しかし通常,名前が性別とマッチしない状況が生じます。
これについては,従前からの『名の変更』という,家裁が判断する手続があります。
性別変更に伴う名の変更は許可する傾向が強いです。

<性別変更による名前の変更(概要)>

あ 前提事情

性別変更を行った
→従前の戸籍名が変更後の性にマッチしない状態になった

い 名の変更許可の傾向

家裁は名の変更を認める傾向がある
詳しくはこちら|性別変更や出生時の性別誤認による名の変更(許可基準と裁判例)

3 性別変更審判→『夫』として婚姻できる|GID夫婦

性別変更で『女性→男性』と変更した場合,法的に『男性』として扱われます。
典型的なものは『夫として婚姻する』というものです。
これを『GID夫婦』と呼んでいます。

<GID夫婦>

女性→男性への性別変更済
天然女性

4 性別変更審判で『男性』となった→『夫になる』+『父になる』いずれも可能|判例

『性別変更』の手続を行えば,法律的な性別を『女性→男性』と変更することができます。
この場合の法的な『効果』をまとめます。

<『男性に性別変更』をした者の受ける法的効果|判例>

あ 『女性』との『婚姻』 

民法の規定に基づき『夫』として婚姻することができる
→GID夫婦(前述)

い 『父』としての出生届

ア 嫡出推定|原則の適用あり
婚姻中にその妻が子を懐胎した場合
→子は『夫』の子と推定される
イ 嫡出推定|例外の適用なし
推定を『否定』する事情(『推定が及ばない』)は適用しない
※民法772条
※最高裁平成25年12月10日

『父』となることについては,肯定・否定の見解が対立していました(後述)。
この判例で『肯定』に統一されました。

5 判例事案|GID夫婦の『出生届』→『父』としての扱いが認められた

GID夫婦の出生届で『父』との扱いを認めた判例の前提となる事案をまとめます。

<性別変更後の『男性』を『父』とする出生届|判例>

あ 出生届の経緯

Aは,性同一性障害であった
Aは女性から男性に性別を変更した(前述)
Aは『夫』として,女性である妻Bと結婚した
A・Bは,第三者との人工授精により子供をもうけた
A・Bは,嫡出子として『出生届』を役所に提出した
役所は『嫡出子』としては認めなかった

い 家裁の審判申立

A・Bは裁判所に『戸籍訂正の許可申立』を行った
※戸籍法113条

う 裁判所の判断

戸籍の訂正を認めた
=戸籍上の『父』となることを認めた
※最高裁平成25年12月10日

6 GID夫婦の出生届|嫡出推定適用の有無の見解対立

以前は,性別変更により男性となった者が『父』となることはできない,という見解もありました。
一般的に『嫡出推定』は『一定の例外=嫡出推定が及ばない』という扱いがあるのです。

<(嫡出推定の対象だけれど)『推定が及ばない』場合>

※いずれも満たす場合
ア 形式的には嫡出推定の対象となっている
イ しかし現実には夫婦間に『性的関係を持つ機会がなかった』ことが明らかである
※最高裁平成12年3月14日
※最高裁平成10年8月31日

詳しくはこちら|嫡出推定・誤作動・基本|推定が『及ぶ/及ばない』

『性別変更』があった場合は『夫婦の性的関係の機会がなかったことが明らか』と言えます。
そこで,従来の判例理論からは『例外=推定が及ばない』と考えるのが自然です。
しかし,平成25年最高裁判例(前述)では『嫡出推定が及ぶ』という結論が取られました。
『推定が及ばない,ということにしたら性別変更の手続の意味がなくなってしまう』と考えたのです。
結論として前述のとおり『父』として認められたのです。

7 GID夫婦の出生届|戸籍上の過去の『出生』記録の訂正方法

GID夫婦の『出生届』は,判例によって通常の『夫婦』と同じ扱いが認められるようになりました(前述)。
逆にこの判例前の『出生届』では『夫』を『父』として扱っていました。
つまり,過去に出生した子については『通常の戸籍』とは違う記録となっていました。
そこで『過去に戸籍に記録された事項を後から修正する』必要が生じています。
この『修正方法』については通達でルールが整備されています。

<GID夫婦の妻が出産→出生届済|事後的戸籍修正方法>

あ 『父』空欄の場合

嫡出子としての届出を受理

い 既に戸籍に『嫡出でない子』と記載済の場合

職権による戸籍訂正を行う
=『嫡出子』に変更する
※戸籍法24条2項

う 普通or特別養子縁組済の場合

職権による戸籍訂正を行う
ア 『父』の欄にGID夫婦の夫の氏名を記載する
イ 『普通or特別養子縁組(に関する事項)』を消除する
ただし,法務局が夫婦に対して面談して説明を行う
※法務省14年1月27日通達
※平成26年1月27日民一第77号民事局通達

以上の方法により『訂正』ができても『訂正の痕跡』が戸籍に残ってしまいます。
現在の日本では『戸籍』が身分の記録としてまだ非常に重視されています。
そこで『記録上の痕跡』も含めて抹消するニーズがあります。

<GID夫婦の出産→戸籍の『痕跡』抹消法>

『訂正した痕跡』(訂正事項の記載)もクリアする方法
→『戸籍簿の再製』を行う
※戸籍法11条の2

このように『痕跡抹消』の方法もあるのです。

8 性別変更生殖テクノロジー×法的扱い→未解決問題が残っている

『性別変更』については,法的扱いが『立法』で追いついた状況です。
さらに判例で解釈論が統一されつつあります。
しかし,現在でも解釈が統一されていない=未解決問題,があるのです。

<性別変更生殖テクノロジー×残された未解決法律問題>

あ 未解決問題

MTF(男→女へ性別変更)が『母』になること
→法的扱いが決まっていない
理由;現行法では『分娩』が前提となっている

い 暫定的解決法|原則

『特別養子』が有用な解決法の1つ
『代理母』における暫定対応と同じ

う 暫定的解決法の問題点

『父・母』の関係が『法律婚』であることが条件となっている
『法律婚』を選択しないパートナーシップでは利用できない

詳しくはこちら|代理母の場合『卵子提供者』は戸籍上の『母』になれない→特別養子縁組を利用

いずれ,具体的事案において個人と行政で見解が対立→訴訟提起→裁判所が扱いを明らかにする,ということが予想されます。
しかし,裁判所の解釈での統一は救済措置です。
本来は,立法によるルール整備を進めるべきです。
テクノロジーの進化・価値観の多様化に整合する制度・法整備が進むことが期待されます。

<参考情報>

『月報司法書士2014年3月』日本司法書士会連合会p63〜67