離婚をした場合,夫(相手方)は将来退職後,多額の退職金や年金を得ます。
私(妻)は収入が乏しくなります。
不公平です。夫の得た年金の一部を払ってもらうことはできないのでしょうか。

1 将来の退職金も財産分与の対象となることがある
2 退職までの想定期間10年未満であれば退職金が財産分与の対象となる傾向
3 将来の退職金を財産分与とする場合は割合設定固定額方式がある
4 財産分与としての退職金は金額が特定していれば差押可能
5 財産分与としての退職金の金額が特定していない条件成就執行文があれば差押可能
6 将来の退職金の財産分与の書面作成の際には債務名義となるよう工夫すると良い
7 資格を資産価値として評価することは否定的

1 将来の退職金も財産分与の対象となることがある

現在は,年金分割という制度により,年金を元夫だけが受け取る不公平は解消されています。
しかし,退職金分割という制度はありません。

これについては,退職予定時期が間近であれば,退職金として想定される金額を計算してその2分の1が財産分与として認められることがあります。
また,退職時期がやや遠いという場合には『退職時に退職金の2分の1を払う』という将来の義務が認められるケースもあります。
なお,年金分割制度導入前は,裁判所が年金のうち元妻に分配する金額を算定した裁判例もありました(後掲裁判例5)。

2 退職までの想定期間10年未満であれば退職金が財産分与の対象となる傾向

将来,退職金が確実に支給されるという場合に,退職金が財産分与の対象となります。
蓄積されている裁判例を集約すると,次のような基準が抽出されます(後掲裁判例1〜4)。

<退職金が財産分与の対処となる基準>

あ 退職までの想定期間が10年未満
い 離婚時の勤続期間が20年以上
う 勤務先の経営状況が良好である

大企業など,将来の退職金支給に影響がないということです。

え 配偶者が,退職手当の対象となる従業員で,規程上支給が一義的に規定されている

役員については法律上は退職金支給が確実,とは言えません。
別項目;役員退職金
役員退職金については,個別的な具体的事情によって判断されます。
つまり,役員でも退職金支給が確実と判断される場合は財産分与の対象とされます。
役員に近い性格の理事について,退職金を財産分与の対象に認めた事例もあります(後掲裁判例5)。

<将来の退職金を財産分与の対象として認めた裁判例の概要>

・裁判例1
 想定される退職までの期間=9年
・裁判例2
 想定される退職までの期間=5年以内
・裁判例3
 想定される退職までの期間=9年
・裁判例4
 想定される退職までの期間=7年

3 将来の退職金を財産分与とする場合は割合設定固定額方式がある

退職金を財産分与の対象とする場合,算定方法がいくつかあります。

(1)割合設定方式

退職金支給額のうち,財産分与として元配偶者に支払う金額の割合を決めておく方式です。

<支払う割合の算定方法>

支払う割合 = 夫婦であった期間 / 退職までの想定される勤続期間 × 財産分与割合

(2)固定額方式

算定方法自体は(1)と同様です。
ただし,想定される退職金支給額を用いて,暫定的に支払金額まで固定額で算出します。
通常,この方式を取る場合は,離婚時に一括して払う前提です。
その場合,将来支給すべき金銭を前倒しで払うということになります。
一定割合を割り引くのが通常です。
 <→別項目;扶養的財産分与の算定上割引率=ゼロとされることが多い

(3)算定方式の選択基準

退職金の財産分与につての算定方式は,実務上次のように選択します。

<将来の退職金の財産分与算定方式の選択>

あ 原則

支払割合設定方式(前記『(1)』)

い 例外

条件=当事者双方が暫定額でも良いので,早い支払を希望している
固定額算定方式(前記『(2)』)

4 財産分与としての退職金は金額が特定していれば差押可能

将来の退職金を財産分与として合意したけれど,その後,払われない,という場合を想定します。
この場合に差押をすることについて説明します。

離婚時の財産分与を,公正証書(執行証書)や裁判所の和解調書として作成してあれば,一般的に差押は可能です。
別項目;債務名義

ただ,強制執行するためには,書面上債権の内容が特定されている必要があります。
『(退職した時点で)退職金の2分の1の金額』だけでは,書面上で金額まで特定できません。
そこで,公正証書や和解調書だけで,そのまま強制執行はできない,ということになります。

別途訴訟や執行文付与申請,などの手続きによって,その審理中で金額を特定する,というプロセスを介在させる必要があるのです。
なお,公的な書面ではなく,当事者間で調印した書面,いわゆる離婚協議書の場合は,内容以前に,そのままで強制執行するということはできません。
必ず『訴訟→判決書にする』,というようなプロセス介在が必須です。

5 財産分与としての退職金の金額が特定していない条件成就執行文があれば差押可能

財産分与で定めた,将来の退職金(の一部)を差し押さえる場合の手続について説明します。
例えば『退職金の2分の1』のように金額を特定していない場合を想定します。

強制執行の手続き上の制約として,金額が明確に特定している必要があります。
『退職金の2分の1』という体裁の条項では,金額や請求権の発生日(=支給日)が分かりません。
一方で,一定の要件を満たした公正証書(執行証書)は,これにより差押えが可能です(債務名義;民事執行法22条5号)。
つまり,金額特定さえクリアすれば強制執行できます。

金額特定,の手続きとしては,条件成就執行文,を裁判所に付与してもらう,ということになります(民事執行法27条1項)。
申し立てる先は次のとおりです(民事執行法26条1項)。

<執行文付与申立の申立先>

元になる書面(債務名義) 申立先
裁判所の判決書や和解調書の場合 裁判所書記官
執行証書(公正証書) 公証人

裁判所書記官や公証人に執行文付与の申立をして,退職金額や支給日に関する資料を提出します(民事執行法27条2項)。
これにより,裁判所書記官や公証人が執行文を付与すれば,この時点で強制執行可能という状態になります(後掲裁判例2,後掲文献1)。
この手続上,債権者(請求する方)が,退職金の金額や支給日を特定しなくてはなりません。
通常は,離婚後の元配偶者の退職に関する資料を取得することは容易ではないでしょう。
結局,スムーズに差押えをすることは難しい,ということが多いです。

6 将来の退職金の財産分与の書面作成の際には債務名義となるよう工夫すると良い

将来の退職金について,差し押さえる時に執行文付与をしなくて良い方法について説明します。

公正証書(執行証書)や裁判所の和解調書において,金額が特定していれば,強制執行が可能です。
強制執行が可能なこのような資料のことを債務名義と呼んでいます。
『将来の退職金の2分の1』のような場合は,書面作成の時点では,正確な金額が分かりません。
そこで,暫定的にでも,金額を特定する必要,と,特定できない,というジレンマが生じます。
結論として,次のような方策がありえます。

<金額が特定できない将来債権について,債務名義化する工夫>

ア 条項は『n円』と特定する。誤差発生リスクは甘受する。
イ 条項は『n円』と特定しつつ,次の条項で『退職金の2分の1とn円との差額の支払い』と規定する。
 →n円についてはそのまま強制執行可能,差額については訴訟を介在させれば強制執行可能

7 資格を資産価値として評価することは否定的

将来得る金銭という意味では資格自体を無形の夫婦共有財産とする発想もあります。

<具体例>

・夫が資格取得のために数年間仕事をせずに通学,勉強していた
・既に結婚していた
・妻がその期間働いて,経済的,心理的に夫のサポートしていた
・サポートのおかげで,夫が無事資格を取得した
※資格としては,例えば医師弁護士などを指します

後漢書における糟糠の妻というべき状態です。
離婚する際には妻のおかげで夫はこれからも継続的な収入を維持できるという発想があります。
今後の収入を財産分与の対象=夫婦共有財産にする,という考え方が出てきます。

この点,日本の裁判所の判断の傾向としては否定的です(後掲裁判例6,文献2)。
実務上は,明確な算定をしない傾向にありますが,一定範囲で共有財産として加算する,ということはあります。

また,一般的に収入が特に大きいという場合は,財産分与割合において例外的な扱いがなされます。
別項目;資格業について,財産分与割合が2分の1とされなかったケース

条文

[民法]
(財産分与)
第七百六十八条  協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

[民事執行法]
(債務名義)
第二十二条  強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一  確定判決
二  仮執行の宣言を付した判決
三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
三の二  仮執行の宣言を付した損害賠償命令
四  仮執行の宣言を付した支払督促
四の二  訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法 (平成二十三年法律第五十一号)の規定を準用することとされる事件を含む。)若しくは家事事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二  確定した執行決定のある仲裁判断
七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

(執行文の付与)
第二十六条  執行文は、申立てにより、執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が、執行証書についてはその原本を保存する公証人が付与する。
2  執行文の付与は、債権者が債務者に対しその債務名義により強制執行をすることができる場合に、その旨を債務名義の正本の末尾に付記する方法により行う。

第二十七条  請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合においては、執行文は、債権者がその事実の到来したことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
2  債務名義に表示された当事者以外の者を債権者又は債務者とする執行文は、その者に対し、又はその者のために強制執行をすることができることが裁判所書記官若しくは公証人に明白であるとき、又は債権者がそのことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
3〜5(略)

判例・参考情報

(判例1)
[東京家庭裁判所平成21年(家)第8229号,平成21年(家)第8230号財産分与申立事件,請求すべき按分割合に関する処分申立事件平成22年6月23日]
次に,財産分与の可能な相手方の管理する財産の有無,分与の方法,割合について検討するに,上記認定事実によれば,相手方は○○信用金庫に30年以上勤務していることが認められ,相手方が同金庫を退職した場合は退職金の支給を受ける蓋然性が高いということができる。したがって,相手方の受給する退職金は,財産分与の対象となる夫婦の共同財産に当たると解される。

(判例2)
[大阪高等裁判所平成18年(ネ)第1663号,平成18年(ネ)第2296号離婚等,離婚等反訴請求控訴事件,同附帯控訴事件平成19年1月23日]
 中小企業金融公庫の退職手当については,その支給は,ほぼ確実であるものの,金額について現時点で確定的な予測をすることは困難である。
 したがって,別紙1「退職手当財産分与計算式」記載の退職手当財産分与額のとおり,実際の支給額(手取額)から,控訴人の寄与割合に相当する割合を定めて支払を命ずるのが相当である。退職手当の支給額に対する控訴人の寄与割合は,勤続期間に占める婚姻同居期間の割合も考慮し,現時点で退職した場合において支給額の4分の1の割合とするのが相当である。
(略)
被控訴人は,昭和51年4月から中小企業金融公庫の職員として勤務し,55歳となった現在まで30年8か月勤続し,定年まで勤務したとしても5年以内に退職することが見込まれる(甲25,被控訴人本人)。そして,中小企業金融公庫においては,職員が退職したときは,別紙2「職員退職手当支給規程」(甲17。以下「規程」という。)に定めるところにより職員に退職手当を支給することとされている(規程1条,2条)。
 退職手当の金額は,基準俸給額(退職当時の本俸の額。ただし,満57歳を超えて勤務する職員については,退職当時の本俸の額と満57歳の誕生日の前日における本俸の額のいずれか高い額)に規程4条に定める支給割合を乗じて得た金額とされている(規程3条)。
 支給割合は,勤続30年で100分の5000であり(規程4条1号ないし4号),勤続30年を超える場合は,これに勤続30年を超える勤続期間1年につき100分の100を加えるが(規程4条5号),最大でも100分の5500をこえないこととされている(規程4条柱書のただし書)。
 ただし,職員が懲戒処分を受け,又は禁こ以上の刑に処せられたことにより退職させられた場合には,退職手当は支給せず(規程7条1項),自己の都合により退職する場合又は規程7条1項の規定する事由に準ずる事由により退職させられた場合には,退職手当の額から,これに100分の50以内の割合を乗じて得た額を減額することができるとされている(規程7条2項)。
 また,勤続期間において公庫厚生年金基金の加算適用加入員であったときは,勤続期間30年をこえる場合には,規程3条による退職手当の額から,その額に100分の3の割合を乗じて得た額を減額することとされている(規程7条の2)。
 以上によれば,被控訴人が中小企業金融公庫を退職したときは,被控訴人に対し,規程に基づく退職手当が支給されることには,ほぼ確実な見込みがあるといえる。そして,退職手当には勤労の対価の後払いの性質があり,かつ,婚姻から別居までの期間は,15年5か月余りで,控訴人が,その間,専業主婦として,被控訴人の勤務の継続に寄与してきたと認められることからすると,被控訴人が支給を受ける退職手当には,少なくともその一部には,夫婦が共同して形成した財産としての性質があり,これを考慮して,退職手当の支給額の一部を財産分与することが相当と認められる。
 しかし,実際に支給される退職手当の額は,なお,定年まで5年程度の期間があることを考えると,それまでの間に退職手当の算定基礎である本俸が変動することにより,あるいは退職事由の如何により,相当程度変動する可能性が残されている。ちなみに,規程では,自己都合退職の場合,定年退職の場合の2分の1程度に減額される可能性もある。更には,退職手当に関する制度自体に変更が生ずる可能性もないとはいえない。
 そうすると,本件の場合において退職手当を財産分与するについては,あらかじめ特定の額を定めるのではなく,実際に支給された退職手当の額(退職手当に係る所得税及び住民税の徴収額を控除した額)を基礎として,退職時までの勤続期間に基づいて定まる割合を乗じて得られる額とすべきである。そして,この割合は,後に詳述するとおり,実際の支給額のうち勤続期間30年に対応する額に,勤続期間30年分の退職手当額についての控訴人の寄与割合4分の1を乗じた金額とすべきである。

(判例3)
[東京地方裁判所平成15年(タ)第341号離婚等請求事件平成17年4月27日]
 ア 退職金は,給料の後払的な性格を有する労働の対価であるから,離婚直後に配偶者が退職することなどが予測される場合においては,退職金を財産分与の対象に含めることに合理的理由が認められる場合がある。
   イ 本件について見ると,被告が今後満65歳の定年まで,学校法人B学園に勤務し,現在の給料が変動しないと仮定した場合,退職金として3506万8200円の支給を受ける旨の退職金支給規定があるから(乙12,13,弁論の全趣旨),被告は,今後,平成26年までの約9年間,現状のまま勤務を継続することにより,学校法人B学園から退職金の支給を受ける蓋然性が高いと考えられ,本件離婚においては,弁論の全趣旨を合わせ考慮すると,被告が取得するであろう退職金を財産分与の対象とすべきである。
   ウ しかしながら,退職金の支払者である学校法人B学園が,被告の退職時までの間,健全な経済的状態を保つことが可能か,被告側における問題として,今後の約9年間にもわたり,確実に勤務を継続することが可能か,被告の退職事由が自己都合となる見込みはないか(乙12号証によれば,自己都合退職の場合は,支給額が減額される。),退職時の給料が現在の水準を下回る見込みはないか等,幾多の不確定要素が存在し,実際に取得する退職金の額は必ずしも明確ではないから,原告が被告に退職金の精算金を請求することができるのは,被告が実際に学校法人B学園を退職して,退職金の支払を受けた時点であると解すべきであり,また,前記不確定要素を考慮した上で,退職金の獲得についての原告の貢献度の決定がなされるべきである。
   エ そして,原告が被告に対して具体的に請求できる退職金の精算金を検討すると,退職金精算についての相当期間については,被告が勤務した期間(昭和46年4月から平成26年2月までの42年間)のうち,原告と共同生活を送った期間,すなわち婚姻時から別居に至るまでの期間(平成元年8月29日から同14年10月18日までの約13年間)であるといえる。また,原告の貢献度について検討すると,乙9号証,15号証,19号証,原告及び被告の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,原告においては,家庭内の教育的配慮から起きた事件であるとは言え,被告の子であるEに対して包丁を突きつけたことがあること,原告との婚姻共同生活は,結婚後,徐々に破綻に向かって行ったが,約10年経過後からは,破綻が急速に進行したと認められ,平成14年10月18日の別居時には,婚姻関係が破綻していたと認められること,そして,被告において,破綻後約12年間に亘り,学校法人B学園に勤務を継続して定年までの間の労働関係を維持継続することにより,はじめて3506万8200円の退職金を取得することが可能となることなどを考慮すると,原告の貢献度は30パーセントと評価することが相当である。
   オ したがって,将来,原告が被告に対して請求できる精算金は325万円(3506万8200円×13/42×30%=325万6082円。1万円未満切り捨て)である。

(判例4)
[東京地方裁判所平成12年(タ)第523号,平成13年(タ)第895号離婚等請求事件平成16年2月17日]
(略)
ア 退職金について
     被告は,原告がA大学から支給を受ける退職金について,夫婦共同財産であると主張し,原告は未だ現実に発生した権利ではなく確実なものとはいえないと主張する。前記1で認定した事実,証拠(甲43,45)及び弁論の全趣旨によれば,原告が本件口頭弁論終結時において58歳であり,A大学の定年は65歳であるから定年までの期間は7年であること,退職金については懲戒解雇等の事由がなければ支給される性質のものであること等を考慮すると,上記性質を有する限度において,財産分与の際に考慮すべき夫婦共同財産であると認められる。
     なお,前記1で認定した事実,証拠(甲43,45)及び弁論の全趣旨によれば,原告は昭和47年4月にA大学に就職し,別居時である平成11年2月まで,26年11月間在職したこととなり,当時の本給が56万9600円であるから,同時点を基準とすると退職金額は2496万5600円となるが(42+(44-42)×11/12=43.83,56万9600円×43.83≒=2496万5600円,100円未満切上げ),これを財産分与においてどのように考慮するかは後に記載する。

(判例5)
[平成 9年 1月22日 横浜地裁 平6(タ)124号 離婚等請求、同反訴請求事件]
原告は、昭和五八年一〇月町田市内にある乙山学園高等学校に就職し、同年一二月理事となり、昭和六一年四月からは常任理事に昇格し(前記のとおり)、平成六年一二月末日に常任理事を辞めて理事となっている。ところで、同学園においては、常任理事を退職した際に退職金が支給されるが、その具体的金額の計算と支給自体は、常任理事退職後理事に止まった場合には、理事を退職した時点で最終的に金額を計算した上、理事会の承認のもとに支給される扱いとされている。そして、原告の場合、特段の事情のない限り、右理事会の承認のあることを前提として、二一九一万七五〇〇円が支給される可能性が高い。退職金の持つ性質や右に見た同学園の常任理事在職期間と婚姻期間との関係等に徴すると、将来原告が取得する退職金は二人の共有財産であって、被告はその二分の一を原告から分与を受けるのが相当と認められる。
 しかし、原告が同学園から退職金を確実に取得できるかは未確定なことであり、その金額も確定されてはいないから、現時点では原告から被告への確定金額の支払を命じることは相当でない。そこで、本件においては、「将来原告に乙山学園からの退職金が支給されたとき、原告は被告に対し、その二分の一を支払え。」と命ずるのが相当と認められる。

(判例6)
[平成19年 3月28日 東京地裁 平15(タ)987号 離婚請求事件、離婚等反訴請求事件]
(被告の主張=『具体的な財産の存在は明らかではないが,原告の医師免許,認定医の資格及び博士号の各取得について寄与があり,これらの資格,地位を無形の財産(実質的共有財産)と評価し,分与の対象とすべきである。』)
被告は,原告の社会的地位に対する寄与について無形の財産として分割の対象とすべき旨主張するが,分与対象財産が存在しない以上,その前提を欠くものといわざるを得ない。

(文献1)
[判例タイムズ1272号 217頁]
※裁判例2の解説
「なお,本判決の主文においては,退職の事実と退職金手取額の支払の事実とが,民事執行法27条1項にいう「債権者の証明すべき事実」に当たると解されるから,同項に基づき,退職日及び退職金手取額を明記した条件成就執行文を付与すべきことになる。そして,債権者が退職日や退職金手取額を支払がされる前に知り,確実に財産分与の支払を受けるためには,退職前,条件未成就の間に仮差押えをすることが考えられる。」

(文献2)
[「清和法学研究」 3巻 1号 ―1996年― 清水幸雄清和大学法学部教授,関堂幸輔]
夫が医師や弁護士等の専門資格を取得するに際して妻がその労働収入によってこれを支えたような場合,すなわち無形財産の形成に寄与した場合について,わが国にはこれに該当する判例が見当たらないが,アメリカの判例(代表的な例として O'Brien v. O'Brien, 498 N.Y.S.2d 743, 489 N.E.2d 712 (N.Y.Ct.App. 1985) が挙げられよう。なお上記判例研究として,棚村政行「専門資格と離婚給付」判タ 656号 152頁がある。)に照らして,これを清算すべしと説く者はわが国にも多い。