遺言の基礎知識
- Q&A
遺言とは何ですか。
- A 死亡後に、相続分の指定や遺贈といった法律上の効力を生じさせるための法律行為です。
生前に遺言を書いておけば,その方の亡くなった時に,遺言の内容どおりに財産が承継されます。
例えば「子Aは5分の3,子Bは5分の2」と割合だけを決めることもできます(相続分の指定)。
また,相続人以外の者に,ある不動産を承継させる,という決め方もできます(遺贈)。
- Q&A
遺言の種類はどんなものがありますか。
- A 主なものは自筆証書遺言,公正証書遺言です。
一般的なものは3種類あります。
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
・秘密証書遺言の3種類に分けられます。
また,死亡危急者や在船者,船舶遭難者の遺言という特殊なものもあります。
一般的な3種の遺言について説明します。
<自筆証書遺言>
遺言者自身が紙に書き記したものです(民法968条)。
メリット(良いところ):一般に,作るのが簡単で,費用がかかりません。
デメリット(悪いところ):専門知識がないと,足りないところができてしまいます。足りないところがあると,遺言が無効となるおそれがあります。
<公正証書遺言>
公証人が作成し,公証人役場で保管してもらうものです(民法969条)。
メリット:無効になりにくく,また,遺言を公証役場で保管してくれるので,無くしてしまったり,勝手に書き変えられたりする恐れなどがなく,安心です。
デメリット:手続きが面倒であり,費用がかかります。また,公証人と証人には内容を秘密にできません。
<秘密証書遺言>
遺言者が証書を作成・封印し,公証人役場での手続きを経たものです(民法970条)。
メリット:勝手に変えられる心配がありません。また,公証人や証人にも,内容を秘密にすることができます。
デメリット:手続きが面倒であり,費用がかかります。自分で作るので足りない部分ができてしまうおそれがあります。
- Q&A
遺言には何を書けるのですか。
- A 遺産の分割方法や相続分の指定により相続人への財産承継内容を決められます。
また,相続人ではない人に財産を与える(遺贈する)こともできます。
遺言に記載することにより効果を生じる事項は決まっています。
上記以外に次のような事項もあります。
・推定相続人の廃除
・遺産分割の禁止
・遺言執行者の指定
・子の認知
・未成年者の後見人の指定
加えて,効果が発生しないまでも,相続人に対するメッセージや感謝の気持ちを記載することが可能です。
遺言の作成にあたっては,細かい規定があるので,弁護士,司法書士,行政書士らに相談することをお勧めします。
- Q&A
遺言のルールはどのようなものですか。
- A さらに遺言の種類それぞれについて、法律上で厳格に方式が定められています。
遺言は,故人の意思を明文化し死後に実現するというものです。
契約書と似ている機能がありますが,特殊なのは「効果が生じる時には本人がいない」という点です。
遺言の内容で不明瞭な点があると,本人に確認できないので,相続人間で有効・無効の争いとなり得ます。
そこで,法律上,厳格な方式が定められていて,この方式に適合していないと遺言自体が無効となります。
方式の概略は次のようなものです。
自筆証書遺言:遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押す。
公正証書遺言:証人2人以上の立会いの下、遺言の趣旨を公証人が筆記する。
秘密証書遺言:遺言者が証書を作成し、封印を行った後、2人以上の証人と公証人が封紙に署名をする。
なお,実務上,自筆証書遺言で「本当に本人が真意で書いたものかどうか疑わしい」ということになり,裁判において筆跡鑑定を行うということもよくありま
す。
この点公正証書遺言であれば本人が書いたこと及び本人が内容を理解して書いたということがはっきりと証明できるので,無用な死後の相続人間の紛争を防ぐこ
とにつながります。
- Q&A
自分で字を書けない人でも遺言は作成できますか。
- A できます。
公正証書遺言であれば,公証人に対して,遺言内容を「口授」すれば良いのです(民法969条2号)。
- Q&A
字を書くこともできないし,さらにしゃべることもできないという障害がある人は遺言を作成できませんか。
- A できます。
平成11年の民法改正により,手話を介した方法で公正証書遺言を作成できるようになりました(民法969条の2)。
- Q&A
遺言では財産の行方を自由に決められるのですか。
- A 基本的には、自由に決めることができます。
しかし遺留分(民法が相続人に保障している一定割合の財産)に関する規定に違反していると,侵害されている相続人から「遺留分減殺請求」(遺留分を返せと
いう請求)を受けることもあります(民法1031条)。
そうすると,結果的に,遺言の内容どおりに財産が承継されなくなります。
- Q&A
遺言と生前贈与の違いを教えて下さい。
- A 撤回について違いがあります。
遺言は効力発生まで(お亡くなりになるまで)であれば,自由に撤回することが可能です
。
生前贈与は契約です。
一旦贈与契約を締結した後は,贈与する方から一方的にその契約をなかったことにすることはできません。
とは言っても,例外的なケースでは贈与契約の撤回ができることもあります。
口頭で贈与の約束をした場合や,書面にしたけどその後贈与を受けた人(受贈者)が非常識な態度に出たような場合です。
遺言の変更,撤回
- Q&A
遺言を書いた後に内容を変更したいのですが,どうしたら良いですか。
- A 新たに遺言を作成し直すのが一般的な方法です。
新しい遺言が作成されると,矛盾(抵触)する部分については前の遺言が撤回されたとみなされます。
遺言者が生前に贈与や売却を行った場合も,矛盾する部分について撤回されたとみなされます。
また,遺言者が故意に遺言書や遺贈の目的物を破棄したときも,その部分について撤回したものとみなされます(民法1023条)。
- Q&A(ハイレヴェル)【特定遺贈 vs 遺言作成後の抵触する生前処分 の優劣】
- A 遺言の撤回となります。
民法1023条2項の明文規定です。
「対抗関係となり登記により決まる」というのはありがちな誤りです。
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- <民法抜粋>
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
- Q&A(ハイレヴェル)【財産の処分 vs (その後に作成した遺言による)特定遺贈】
- A 対抗関係となり,登記により優劣が決まります。
民法上,遺贈目的財産が相続開始時に被相続人に属しない場合,遺贈は無効となるはずです(民法996条)。
しかし,判例では,生前処分についても不完全物権変動説を採用しています。
生前処分とその後の遺贈,については対抗関係として,対抗要件(登記)によって優劣が決まることになります(最高裁昭和46年11月16日;後掲)。
なお,債権者が行う差押と特定遺贈,についてもこの理論がそのまま当てはまることになります。
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- <民法抜粋>
(相続財産に属しない権利の遺贈)
第九百九十六条
遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどう
かにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。
- 【最判昭46.11.16(抜粋)】
判示事項 被相続人が同一不動産をある相続人に贈与するとともに他の相続人にも遺贈したのち相続が開始した場合と民法一七七条
裁判要旨 被相続人が,生前,不動産をある相続人に贈与するとともに,他の相続人にもこれを遺贈したのち,相続の開始があつた場合,右贈与および遺贈によ
る物権変動の優劣は,対抗要件たる登記の具備の有無をもつて決すると解するのが相当である。
思うに,被相続人が,生前,その所有にかかる不動産を推定相続人の一人に贈与したが,その登記未了の間に,他の推定相続人に右不動産の特定遺贈をし,その
後相続の開始があつた場合,右贈与および遺贈による物権変動の優劣は,対抗要件たる登記の具備の有無をもつて決すると解するのが相当であり,この場合,受
贈者および受遺者が,相続人として,被相続人の権利義務を包括的に承継し,受贈者が遺贈の履行義務を,受遺者が贈与契約上の履行義務を承継することがあつ
ても,このことは右の理を左右するに足りない。

死因贈与
- Q&A私(A)から長男(B)に土地を遺したいと思います。
早めに登記をしたいのですができますか。
- A 相続・遺贈などの登記はできません。死因贈与の仮登記は可能です。
相続・遺贈は,あくまでも相続開始(=死亡)時に効力を発生します。
予約的に仮登記を行うこともできません。
仮に遺言を書いていてもできません。
遺言は撤回が自由です。
また他の相続人も亡くなったり,廃除・欠格という除外されるルールもあります。
いずれにしても確定していないので,相続に関する財産の移動,は生前に登記できません。
ただし,亡くなった時に所有権が移転するタイプの贈与,だけは「契約」なので,生前でも登記できます。
このような贈与を「死因贈与」と言います。
登記する場合でも,「現時点で所有権が移転しているわけではない」ので,「仮登記」となります。
なお,信託契約を活用して,生前に登記名義を移す,という方法もあります。
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- Q&A(続き)A・Bで死因贈与の契約書を調印し,死因贈与の仮登記をしました。
その後,再婚した妻Cにその土地を渡したいと思うようになりました。
死因贈与はキャンセルできませんか。
- A 死因贈与の撤回が可能です。
一般的な贈与は,書面に書いておらず,またすでに渡していない(未履行)の場合は撤回が可能です(民法550条)。
ですから,契約書の調印をしていたり,登記まで行っている場合は撤回できないのが原則です。
しかし,死因贈与は,遺贈のルールが適用されます(民法554条)。
遺贈は,「遺言によって撤回可能」とされています(民法1022,1023条,最高裁判所昭和47年5月25日;後掲)。
結局,新たに遺言を書くことにより既になされた死因贈与の撤回ができます。
今回のケースでは,Aが,次のような内容の遺言を書けば,死因贈与は撤回されたことになります。
「Bへの死因贈与は撤回する。その土地をAに遺贈する(相続させる)」
ただし,一定の場合は撤回が制限されるという例外的な扱いとなることもあります。
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- <民法抜粋>
(死因贈与)
第五百五十四条 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
(遺言の撤回)
第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
- 【最判昭47.5.25(抜粋)】
判示事項 死因贈与の取消と民法一〇二二条
裁判要旨 死因贈与の取消については、民法一〇二二条がその方式に関する部分を除いて準用されると解すべきである。
死因贈与については、遺言の取消に関する民法一〇二二条がその方式に関する部分を除いて準用されると解すべきである。けだし、死因贈与は贈与者の死亡によ
つて贈与の効力が生ずるものであるが、かかる贈与者の死後の財産に関する処分については、遺贈と同様、贈与者の最終意思を尊重し、これによつて決するのを
相当とするからである。
- Q&A(続き)遺言に「死因贈与を撤回する」と書いた場合,仮登記の抹消はできるのですか。
- A 仮登記名義の方(B)が協力してくれないと抹消はできません。
まず,Bが死因贈与の撤回に応じてくれれば,死因贈与契約自体が合意解除となり,完全に無効となります。
そうすれば死因贈与仮登記の抹消が可能です。
次に,Bが仮登記抹消に応じない場合はどうでしょうか。
確かに,遺言で死因贈与の撤回をすることは可能です。
しかし,「死因贈与を撤回した遺言」をさらに撤回することも理論上可能です。
結局,「最終的・確定的に死因贈与が撤回されたかどうかは分からない」という状態です。
そこで,訴訟を提起したとしても,「死因贈与の登記の抹消」は認められません。
逆に言えば,Aが亡くなって,最新の遺言に「Cに対象土地を遺贈する」と書いてあれば,ようやくCが対象土地を正式・確定的に承継します。
この時点で,Cは仮登記名義が残っているBに対し「仮登記を抹消しろ」という請求ができます。当然,Bが応じない場合は訴訟を提起すれば認められることに
なります。
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- Q&A(続き)例外的に死因贈与の撤回が認められないのはどのような場合でしょうか。
- A 親の面倒をみる,同居する,などの「前提条件」が守られている場合が典型例です。
民法上「負担付贈与」と呼ばれています(民法553条)。
具体的なケースでは,贈与契約に「負担」の部分,つまり,「親の面倒をみる」というようなことが明記されていない場合もあります。
言わば,「暗黙の了解」というような状態です。
明確に「負担」が決められていた場合でも「暗黙の了解」の場合でも,そのような「前提条件」がきちんと行われているような場合には,「自由な撤回」は認め
られないことがあります(最高裁判所昭和57年4月30日,最高裁判所昭和58年1月24日;後掲)。
「前提条件」をしっかり行っている人の立場からすれば,だまされたような状態になってしまうからです。
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- 【最判昭57.4.30(抜粋)】
判示事項 負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与の受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合と民法一〇二二条、一〇二三
条の規定の準用の有無
裁判要旨 負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与の受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合には、右契約締結の動機、負
担の価値と贈与財産の価値との相関関係、契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右契約の全部又は一部を取り消すことがやむをえないと
認められる特段の事情がない限り、民法一〇二二条、一〇二三条の各規定は準用されない。
負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては、贈
与者の最終意思を尊重するの余り受贈者の利益を犠牲にすることは相当でないから、右贈与契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、右契約
上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右負担の履行状況にもかかわらず負担付死因贈与契約の全部又は一部の取消をすることがやむをえない
と認められる特段の事情がない限り、遺言の取消に関する民法一〇二二条、一〇二三条の各規定を準用するのは相当でないと解すべきである。
- 【最判昭58.1.24(抜粋)】
判示事項 死因贈与の取消ができないとされた事例
裁判要旨 土地の登記簿上の所有名義人である甲が、右土地を占有耕作する乙に対してその引渡を求めた訴訟の第一審で敗訴し、その第二審で成立した裁判上の
和解において、乙から登記名義どおりの所有権の承認を受ける代わりに、乙及びその子孫に対して右土地を無償で耕作する権利を与え、しかも、右権利を失わせ
るような一切の処分をしないことを約定するとともに、甲が死亡したときは右土地を乙及びその相続人に贈与することを約したなど、判示の事実関係のもとで
は、右死因贈与は、甲において自由には取り消すことができない。
右事実によれば、Dは、本件土地について登記名義どおりの所有権を主張して提起した訴訟の第一審で敗訴し、その第二審で成立した裁判上の和解において、第
一審で真実の所有者であると認められたEから登記名義どおりの所有権の承認を受ける代わりに、E及びその子孫に対して本件土地を無償で耕作する権利を与え
て占有耕作の現状を承認し、しかも、右権利を失わせるような一切の処分をしないことを約定するとともに、Dが死亡したときは本件土地をE及びその相続人に
贈与することを約定したものであつて、右のような贈与に至る経過、それが裁判上の和解でされたという特殊な態様及び和解条項の内容等を総合すれば、本件の
死因贈与は、贈与者であるDにおいて自由には取り消すことができないものと解するのが相当である。

遺言と相続税対策
- Q&A
遺言によって相続税を軽減させることはできるのでしょうか。
- A 他の手法と遺言を組み合わせることにより効果的に相続税を軽減させる方法があります。
一般的な相続税対策としては,生前贈与・生命保険の活用,不動産の有効活用,非上場株式の評価を工夫する方法,養子縁組の利用,などがあります。
具体的な状況によっては,単にこれらの方法を取ると,相続発生時に紛争に至り,結果的に当初の想定どおりの遺産分割に至らない場合があります。
そのため,相続税対策と遺言を組み合わせることにより,より効果的・確実に想定どおりの遺産分割・節税効果を実現することができるのです。
信託を利用した相続対策
- Q&A私は土地・建物を所有しています。
そこは家業である製造業の株式会社が工場として使っています。
何か問題となること,注意点はありますか。
- A 土地・建物の利用権を明確化しておくことと,機動的な「処分」ができるようにしておくことです。
例えば賃貸借契約や使用貸借契約など,土地・建物を会社が借りていることを明確にして,契約書もきちんと作成しておくべきです。
将来,株主が代替わりした時に,兄弟間でトラブルになるケースはよくあります。
また,税務上問題となることもあります。
それから,仮に将来認知症になった場合などは,土地・建物の売却,担保設定などができなくなります。
本人の意思確認ができないと,結局登記ができないのです。
仮に周囲の方がご本人になり変わって書類を作成して登記した場合,公正証書原本不実記載等という重大な犯罪になってしまいます。
ということで,「財産デッドロック」に対する対策を取っておくと良いです。
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- Q&A認知症になった場合,成年後見人を付ければ,売却や担保設定ができますか。
- A 原則としてできません。
成年後見人ができるのは,財産の維持・管理の範囲です。
特別な事情がない限り,売却や担保設定は認められません。
例えば,被後見人自身の医療費・生活費をねん出するために不動産を処分することはできます。
しかし,家業である会社の資金調達のために担保設定をする,ということは認められないでしょう。
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- Q&A将来認知症になったとしても不動産の処分をできるようにする方法はありますか。
- A 生前贈与か信託契約の利用があります。
例えば,次期経営者(候補)がお子様である場合,不動産を譲渡しておけば,当然,お子様がその処分をできるようになります。
ただし,次期経営者が決まっていなかったり,また,生前贈与だと兄弟間でトラブルが発生すると思われるなどの場合は,信託契約が考えられます。
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- Q&A信託契約をしておくとどのようになるのですか。
- A 例えば息子さんを受託者とすれば,息子さんの判断で不動産の売却や担保設定ができるようになります。
信託の目的の中に,当該会社の事業資金調達のための処分も含めておけば,そのとおりに,売却や担保設定ができるようになります。
具体的な手続きは受託者が行います。
仮に委託者(元々の不動産所有者)が認知症でも問題は生じません。
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- Q&A信託によって不動産の所有権を長男に移した場合,次男が不満を持つと思います。
このようなことを避ける方法はありますか。
- A 「(委託者となる方についての)後見開始の審判の確定」を条件とした信託契約にしておくと良いでしょう。
要は,お父様が認知症などで意思能力を失った時点で始めて当該不動産の所有権を長男に移すことになります。
これであれば,「長男・次男の対立」も最小限に抑えられるでしょう。
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- Q&A信託契約で長男が受託者となった場合,登記でも,長男が所有者となるのでしょうか。
次男が不満を持つかもしれません。
- A 登記上,「所有権(移転)」の登記とともに,「信託の登記」がなされます。
登記上,「純粋な長男の所有物ではない」ということが明示されます。
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- Q&A信託の登記がなされていると,売却・担保設定の時に,「委託者」として登記に載っている者の関与が
ない
と登記できないのでしょうか。
- A 委託者の協力は不要です。
確かに,仮に委託者が認知症の場合,委託者の協力・関与は実際上不可能です。
しかし,信託によって所有権が受託者に移転した後の処分については,委託者の関与は不要です。
売却や担保設定登記の際に,委託者の押印などは必要とされません。
受託者だけで行うことができます。
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認知症対策(法定後見の落とし穴)
- Q&A【認知症対策(法定後見の落とし穴)】
父が認知症となったので,財産処分のために後見人を付けました。
財産は自由に処分できるのでしょうか。
- A 後見人による財産処分は大幅に制限されます。特に相続税対策などはできないことが多いです。
ありがちな,後見人の権限の制限で困る場面を考えます。
<後見人選任後の制約例>
・相続対策としての生前贈与
相続税対策として効果が大きくてもできないのが原則です。
・住宅資金援助としての贈与
これも子供への贈与であれば,非常に有利な優遇策を使えますが,後見人ではできません。
ところで,お父様などが認知症になられてから,上記のような制限を回避しようとして,急いでお父様名義の銀行預金のキャッシュカードで現金を引き出す,と
いうケースが実際によくあります。
しかし,税務署から見たら,まさに「勝手に下ろした」ということが後から分かります。
後見人選任審判の前後だと特に明確になります。
仮に「贈与」として申告しても否認されることは目に見えています。
「贈与」は契約です。贈与者と受贈者で意思が合致(合意)しなくては成立しません。
認知症の方は意思表示が不十分です。
合意なし→贈与は成立しない(→お父様の財産→として(将来)遺産となる)
と扱われることになります。
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- Q&A【認知症(後見人選任)による税務面への影響】
後見人が「贈与」できないことによって,結果的にどのようになるのでしょうか。
- A 将来の相続時の「遺産」を合理的に減らすことができません。
相続税の軽減措置が取れないという結果になります。
さかのぼって考えれば,早いうちから相続税の対策に着手すべき,ということになります。
なお,仮に有効に生前贈与によって相続税対策を取ったとしても,その後3年以内に相続(死亡)があった場合は,税務上,「贈与」はなかったこととして扱わ
れます。
つまり,贈与した財産も「遺産」に含めて算定されます(相続税法19条)。
この意味でも「早めの対策」が望まれます。
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- Q&A【認知症対策としての信託】
認知症になることによる不都合を回避する方法はありますか。
- A 生前贈与などの対策を早めに実行する,という従来方式以外に,信託を活用する方法もあります。
相続対策の対象者(お父様)の意思能力が万全の時期に,生前贈与などを行う方法は以前から行われています。
現在は,信託の制度が充実しており,信託を活用することにより,より柔軟性に富んだ方法も取れるようになっています。
具体的には,予め信託契約により,お子様などを受託者としておく方法が典型です。
信託契約において,相続対策のための処分権限を受託者に与えておくのです。
このようにすれば,状況次第で,具体的にいつ,どのような財産処分を行うかの判断を後からできます。
仮にお父様が認知症になったり,後見人が選任されても,信託契約は生きています(そのための信託と言えます)。
受託者であるお子様が,信託契約の規定の範囲内の判断・処分実行などを遂行できます。
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- Q&A【遺言の代用としての信託】
- →信託に「遺言としての機能」も付けることが可能です。
典型的な方法としては,受託者はお子様,受益者はお父様ご自身,としておく方法です。
これでお子様が財産処分などの「運用のハンドル」を握れます。
これに加えて,お父様が亡くなった時の財産の行方も信託契約に盛り込むと便利です。
具体的には,「受益権」の承継先を規定しておく,ということになります。
お父様が亡くなった場合に,受益権を承継する人として長男,なり次男なりを規定しておくという意味です。
状況によっては「孫」を承継先に指定することもできます。
当然,1代分「スキップ」したことになるので,節税効果は大きいです(中間納税キャンセラー)。
信託契約時には存在していない者を指定することも,特定の承継者を指定せず,「指定権者」を指定しておく,などのいくつかのバリエーションもあります。
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受益者指定権
- Q&A【受益者指定権を用いた信託】
将来の相続ではなく,もっと臨機応変に対応できる方法はありませんか。
- A 受益者指定権者,を設定した信託であれば,柔軟な対応が可能です。
「受益者指定権者」を信託契約(信託行為)で定めておけば,その者の判断で,受益者を別の人に動かせる(指定できる)ことになります。
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- Q&A【受益者指定権利用の具体例】
どのような形で受益者指定権を活用すると良いでしょうか。
-
A 会社経営者で言えば,後継者候補に受益権を与えておき,将来仮に事業を承継しない状況に変わった場合に,受益権を取り戻す,という方法が典型例の1つ
です。
仮に,株式そのものを生前贈与した場合,後から状況が変わっても「強制的に取り戻す」ことはできません。
<事情の変化の例>
・事業を承継しない方向性に変わった
・(子が)親の面倒をみなくなった(関係が悪化した)
・連絡が取りにくくなった
このような場合に,一旦渡した受益権(株式や議決権)を,「受益者指定権者」の判断1つで取り戻すことができます。
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- Q&A【受益者指定権者利用の注意点】
- →贈与税の課税という大きな落とし穴があります。他にも想定しておくべきことはいくつかあります。
1 贈与税の課税
指定権者の「指定」により,受益権の所在が変わると,税務上「贈与」として扱われます。
民法上は,オールマイティーに受益権の所在を変えられるという利便性に注目しがちです。
しかし,課税上は非常に高額な負担となることもあります。
要注意です。
結局,そこまで「気軽」には使えません。
本当に緊急措置として,一旦渡した財産を引き上げる,という場合に限定して使うという考えでいたほうが良いでしょう。
2 「受益権を失った」ことの通知
指定権者の「指定」により,従前の受益者は受益権を失います。
そして,この際,受託者は,「元の受益者」に対して「受益権を失った」ことを通知する義務があります(信託法89条4号)。
当然と言えば当然です。
しかし,このような局面は多少なりとも「対立的」であるはずです。
「通知義務の不履行」などでクレームを受ける可能性があります。
そこで,信託契約において「受益権を失った者に対する通知は不要」という旨を規定しておくとベターでしょう。
勿論,実際には何らかの手段で知らせることにはなるでしょう。
3 「受益権指定権者」の相続
受益権指定権者が亡くなった場合,この「指定権」は相続されないのが原則です(信託法89条5号)。
そこで,結果的に「受益権のコントロール」はできない状態となります。
これに対しては,信託契約で「受益権指定権者の承継」について規定しておくとベターでしょう。
受益権指定権者が亡くなった時には配偶者(妻)に指定権を承継させる,というのが典型例です。
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- Q&A【議決権を生前に承継させるリスクの回避策(まとめ)】
株式(議決権)を後継者候補に生前に渡すことのリスク回避策としてはどの方法が良いのでしょうか。
- A 種類株式よりも信託の方が細かい設定の自由度が高いです。
信託の設定・設計にもいくつかの種類があります。
生前に株式を後継者候補に渡すということは多くのメリットがあります。
例えば,今後株式評価額が上がると予想される場合,課税額を低く抑えることにつながります。
逆に,後継者から見ると,株式承継後は,株価が上昇する方向にモチベーションを持てるでしょう。
一方で,一定のリスクも想定されます。
<リスクの例>
・財産(株式)を承継した者との関係悪化
・財産(株式)が想定外の者に承継される
相続が典型例です。遺留分が絡むと特にコントロールが難しくなります。
・会社後継者候補者は,まだ従業員からの人望が不十分
意図的に,一定の範囲で現経営者(株主)が関与している方が良い段階もあります。
1 種類株式
株式自体に制限が付いている株式を使うのも一定の歯止め(リスク回避)になります。
無議決権株式,取得条項付株式などのことです。
しかし,ある程度硬直的で,自由度がやや低いです。
2 信託
設定・設計の自由度は高いです。
特に,一定の議決権を旧株主(現経営者)に残すなどの設計の自由度は高いです。
信託の種類としては,大きく2種類の方法があります。
(1)受益者連続型信託
・受益者が死亡した時の承継先を決めておく方法
承継した者が亡くなった場合,想定外の者が相続によって財産(株式)を承継する,ということを防ぎます。
(2)受益者指定権者
・指定権者の判断で受益者を指定(移動)できるという方法
承継した者との関係が悪化した場合など,指定権者の判断で財産(株式)を取り戻すことができます。
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受益権の放棄
- Q&A「A(父)が亡くなった場合には,長男(私)を受益者とする」という信託契約があります。
税金のことなどを考えると受益者になりたくありません。
拒否できないのでしょうか。
- A 受益権の放棄,という制度が利用できます。
基本的には,受益者として指定されると,「承諾」などのアクションなしで,自動的に受益権を承継します(信託法88条1号)。
しかし,事情により受益権の承継を拒否したいこともあるでしょう。
その場合は,「受益権の放棄」ができます(信託法99条1号)。
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- Q&A【受益権放棄の典型的場面】
どのような場合に受益権を放棄した方が良いのでしょうか。
- A 課税が重い場合が典型例です。
一般的に,「受益権」というのは権利だけがあって義務がない,という性質です。
しかし実際には,受益権とは言っても権利行使に制約が付いていることがあります。
その一方で,課税上は受益権は「制限のない権利(信託財産)」として算定されます。
最悪の場合「権利は不十分(売却して金銭に換えられない)けど,フル課税される」ということになります。
この場合,承継した受益権とは関係ない,独自の財産の中から相続税(や贈与税)を捻出する必要が出てしまうのです。
このように,課税の面から「受益権を受け取ると損する」という場面があるのです。
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- Q&A【受益権放棄のタイムラグの間の「収益」】
受益権を承継してから放棄までの短期間の間に,信託財産である不動産からの家賃収入を受益者として受け取りました。
受益権放棄後,これはどうしたら良いのでしょうか。
- A 受益権放棄の効果は受益権承継時まで遡ります(信託法99条2号)。
つまり,最初から受益権者ではなかった,という扱いになります。
そこで,「本来もらうべきではなかった収益」については不当利得として返還すべきと考えられます。
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- <ワンポイント>
遺産分割協議が行われた場合も遡及効があります。
しかし,遺産分割協議の場合は,成立までの間の「収益」(賃料)は,法定相続分に応じて分配したまま(=遺産分割の影響を受けない)とされています(最高
裁判所第1小法廷平成16年(受)第1222号預託金返還請求事件平成17年9月8日)。
- Q&A【受益権放棄の課税上の扱い】
受益権を放棄した場合,課税上はどのように扱われるのでしょうか。
- A 結果的に受益権を獲得した方に贈与税が課税されると思われます。実質的な重複課税となり得ます。
<受益権を放棄した方>
暫定的に受益権を獲得したけれど,その後失った,ということになります。
獲得したものがないので,相続税,贈与税は生じないと考えられます。
ただ,既に申告している場合は,更正の請求をするべきです。
更正請求の期間は法定申告期限から1年とされております。
短いので注意が必要です。
なお,平成24年税制改正で5年に延長されることが予定されております。
<受益権を結果的に獲得した方>
税務上は「放棄の遡及効」について民事法よりも緩く考える傾向があります。
放棄の時点で,獲得した,という考えが取られると思われます。
そうすると結局,贈与税が課税されることになります。
このように「受益権の放棄」は,トータルで考えると,課税が重複することになりかねないのです。
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- Q&A【受益権放棄による「重複課税」防止策】
受益権放棄によって,実質的に課税が重複するという不都合を回避する方法はありますか。
- A 信託契約に,受益の意思表示が必要,ということを盛り込んでおくと良いです。
信託法上,受益者を指定すると,自動的に受益権が承継されることになっています。
しかし,これは絶対ではありません。
最初の時点で「自動的」ではないようにしておくことが可能です(信託法88条1号)。
<受益の意思表示を必要とする条項例>
「受益権を取得するには,受益者となる者が受益の意思表示を行う必要がある」
これにより重複課税,往復課税,といった不合理を回避することができます。
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- Q&A【遡及効の比較,まとめ】<ハイレベル>
- 相続放棄,遺産分割協議,信託受益権放棄について,遡及効の扱いが非常に複雑です。
表にしてまとめておきます。
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元本部分
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果実部分
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民法上の遡及効
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税務上の遡及効
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財産獲得者の課税
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遡及効(民法)
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相続放棄
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○
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○
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相続税
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○
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遺産分割協議
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○
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△(※1)
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相続税(or贈与税)
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×(判例;※2)
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信託受益権放棄
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○
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○(結果的)
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贈与税
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○
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※1 時期,登記の状態などによっては,「相続とは別の財産移転(贈与)」として認定されることもあります。
※2 最高裁判所 平成17年9月8日
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信託の終了
- Q&A【信託の終了】
どのような場合,信託が終了するのでしょうか。
- A 信託契約に規定がある場合は,規定によります。
ない場合は委託者と受益者の合意で終了させることができます。
信託契約(信託行為)時に終了するタイミングを設定することができます(信託法164条3号)。
特に規定がない場合は,委託者と受益者の合意で終了させることができます(信託法164条1号)。
受託者は含まれていません。
受託者の立場・性格としては,「預かっている人」ということになります。
終了という本質的なアクションについては関与しないとされているのです。
なお,これ以外に,法定の終了事由もあります(信託法163条)。
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- Q&A【信託終了ができない状態(デッドロック)】
委託者・受益者が連絡が取れない状態の場合,信託は終了できないのでしょうか。
- A 信託の終了がほぼできない状態と思われます。
親族間で信託の設定をした場合,デッドロック状態に陥るケースがたまにあります。
<信託終了ができない典型的場面>
・親族間で対立が生じた場合
・単に連絡が取れない状態が続いている場合
・「委託者」の相続により「委託者」が多人数に増えている場合
・「遺言信託」のため「委託者」が存在しないという場合(信託法147条)
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- Q&A【デッドロック回避策】
「委託者」が多人数に増えることや,存在しない状態を避ける方法はありますか。
- A 信託契約の時点で,終了権限を持つ者を設定しておくと安全です。
信託契約(信託行為)の中で,終了権限を持つ者を自由に設定できます(設定例は後掲;信託法164条3号)。
特定の1名(受託者だけ)ということもできます。
また,敢えて,1名の気持ちだけで終了できることを避けるために敢えて3者全員(委託者,受託者,受益者)と設定するケースもあります。
いずれにしても,前提として,委託者・受託者・受益者について,承継先を出来る限り明確に決めておいて,「無暗に分散(多人数化)」しないように留意して
おくと良いでしょう。
遺言信託の場合,委託者の地位は相続されません(信託法147条)。
そこで「委託者不在」は避けられないものとなります。
この場合は,特に「終了権限者」を,委託者を除外する形で設定しておくべきです。
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- <信託の終了権限者の設定条項例>
「信託の終了は受託者が行うことができる」
「信託の終了は,委託者・受託者・受益者の合意によって行うことができる」
- Q&A【デッドロックの救済措置】
信託の終了が出来ない場合,どうしたら良いのでしょうか。
- A いくつかの救済措置はあります。しかし,時間・コストがかかる場合もあります。
たまにある例として,受託者の行方が分からないという場合を考えます。
この場合,信託財産管理が実際にされていないと言えましょう。
そうすると,「信託の目的を達することができない」として信託は終了すると考えられます(信託法163条1項)。
しかし,事後的に,この処置について納得しない者が出るリスクも考えるべきです。
受託者と対立しているような場合です。
その場合,裁判所の判断で終了させるという救済措置に頼るしかないでしょう(信託法165条)。
裁判所の判断を得れば,その後の不用意な紛争を防ぐ意味では有意義です。
しかし,一定程度の時間・費用のコストは避けられません。
(とは言いましても,明確な受託者の行方不明,というような場合は大したコストにはならないでしょう)
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信託終了時の残余財産の帰属
- Q&A【残余財産受益者,帰属権利者】
信託が終了すると,信託財産はどこに戻るのでしょうか。
- A 信託契約の規定が優先されます。
まさに,「当事者がコントロールを自由自在にできる」という信託の特徴が生きるところです。
信託契約(信託行為)での規定(指定)が最優先です。
信託契約で残余財産の帰属先として規定した者は次のように呼ばれます。
「残余財産受益者」・・・元「受益者」
「帰属権利者」・・・元「受益者」以外の者
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- Q&A【残余財産帰属先の指定がない場合】
信託契約で残余財産の帰属先を決めていなかった場合は誰に帰属するのでしょうか。
- A 委託者に帰属することになります。
信託行為で残余財産の帰属先が指定されていない場合,委託者やその相続人を帰属権利者として指定したものとみなされます(信託法182条2項)。
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- Q&A【残余財産帰属先が存在しない場合】
委託者が居ない,というケースでは誰に帰属するのでしょうか。
- A (清算)受益者に帰属します。
以上のルールによっても残余財産の帰属先が決まらない場合は,最終的に,(清算)受益者に帰属することになります(信託法182条3号)
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- Q&A【残余財産の帰属(まとめ)】
- A 信託終了時の残余財産の帰属をまとめます。
優先順序で並べると残余財産の帰属先は次のようになります。
<信託終了時の残余財産の帰属先の優先順序>
1 信託契約(信託行為)で規定した者
2 委託者(その相続人)
3 受益者
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信託の変更
- Q&A【信託の変更】
遺言の場合,遺言者が自由に内容を変更できます。信託で財産の承継を決めておいた場合,どのように変更できるのですか。
- A 原則は,委託者,受託者,受益者の全員の合意が必要です。信託契約で「変更権者」を定めておくこともできます。
信託内容の変更については,信託法上いくつかのバリエーションがあります。
原則的には委託者,受託者,受益者の全員の合意が必要となっています(信託法149条)。
この点,遺言は「1人の意向」,「相続(死亡)まで効力を生じない」という性格があります。
信託は「複数人の契約」(原則),「信託契約締結時から効力を生じる」という違いがあります。
そこで,遺言よりも変更に制限がかかっているのです。
実際の信託の活用事例では,個別的な事情によって,「誰が変更できるのか」「変更は無効ではないのか」というように解釈に幅が生じて紛争に発展することも
あります。
そこで,信託契約(信託行為)の中で,変更の方法,変更を決められる者(変更権者)を明確に決めておくのが良いでしょう。
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- Q&A【信託の変更権者の設定例】
変更権者は,具体的にどのように決めておくと良いでしょうか。
- A 相続に関係する親族の考え方を反映させると良いです。
変更を意図的に緩和させるケースもありますし,逆に制限的にするケースもございます。
相続を前提に,言わば遺言の代用として信託を活用する場合を前提に考えます。
<各立場によるニーズの例>
・「承継元」(父)側の立場
→事情の変化によって,「承継先」を変更したい
・「承継先」(子)側の立場
財産(特に株式)を承継することを前提に行動する
→後から自由に撤回されると困る
多くのバリエーションを想定した設定をして,信託契約の完成度を高めておくべきです。
例えば,家業の事業承継について,関係者全員の協議の結果を信託契約にしたような場合,変更は制限的にしておくと良いでしょう。
<変更を制限する例>
「信託の変更については(推定)相続人の全員の同意を要する」
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- Q&A【負担付死因贈与(参考)】
- →遺言は自由に撤回できますが,「負担付死因贈与」であれば撤回は制限されます。
死亡時に贈与する,という契約を死因贈与,と言います。
契約(約束)ではありますが,実態が遺言と似ています。
そこで,遺言同様に撤回は自由とされています。
確かに,受贈者との関係が悪化した場合,贈与者が撤回したいと思うのも合理的です。
しかし,例えば家業の株式の場合,後継者候補が受贈者となり,株式の承継を前提に行動していることもあります。
このような場合,「会社経営者(後継者)として一定の行動をした」とか「親の面倒をみていた」ことが,「贈与の引き換え」としてみられれば,死因贈与の撤
回はできなくなります。
「負担付贈与」と呼ばれています。
このようなケースの場合,贈与契約書に「負担」についても可能な範囲で明確にして明文化しておくと良いでしょう。
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- <まとめ>
遺言→撤回自由
(通常の)死因贈与→撤回自由
負担付き死因贈与→撤回不可能(※負担の履行後)

限定責任信託
- Q&A【受託者の負うリスク】
受託者を引き受ける場合に,注意しなくてはならないことはありますか。
- A 信託に関する「債務」について受託者自身の財産が犠牲になるリスクをケアすべきです。
受託者の義務・任務としては,帳簿等の作成義務,受益者への報告義務などがあります。
受託者は文字どおり,「財産を預かる」という任務を負います。
これらは当然の義務・任務でしょう。
ところが見落としがちな「責任」もあります。
信託に関する債務,を直接受託者自身がかぶる,という責任・リスクです。
<受託者の負うリスク具体例>
・信託財産である建物が倒壊して通行人・お隣さんに損害賠償責任を負った
・信託財産であるマンションで水漏れ等のトラブルが生じ,賃借人に対し損害賠償債務を負った
・信託財産である不動産の固定資産税・管理費が高い一方,テナントが見つからず,収支マイナスとなっている
これらの「責任」については,「預かったものだから,私(受託者)自身の責任ではない」と誤解される方もいらっしゃいます。
しかし,受託者は「所有者」であります。
そもそも,「預かった者」という立場としても,一定の責任を負うのは一般論として信託以外でもあり得ます。
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- Q&A【限定責任信託】
受託者が負うリスクを回避する方法はありますか。
- A 限定責任信託,ということを信託契約で規定し,かつ,登記も行います。
信託から生じる債務の引当を「信託財産限定」にしておくと受託者自身の負うリスクが回避できます。
そのためには次のアクションをセットで行う必要があります(信託法216条)。
<限定責任信託の要件>
・信託契約(信託行為)に「限定責任信託」である旨を規定する
・(「限定責任信託」という旨の)登記を行う
・受託者としての取引の相手方に「限定責任信託」であることを示す
特に「登記も必要」というところは重要です。
登記をしていないために,それだけで「限定責任」の部分は無効となるケースが散見されます。
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