1 依頼者との金銭貸借禁止の規定
2 依頼者との金銭貸借禁止の趣旨
3 依頼者との金銭貸借の規定内容・解釈論
4 『貸借・保証』の解釈論
5 依頼者からの預り金の除外
6 弁護士報酬の支払猶予・減免の除外
7 『特別の事情』を認定する主要な条件
8 実費負担に関する標準的報酬約款

1 依頼者との金銭貸借禁止の規定

弁護士の業務に関するルールの中に,依頼者との金銭の貸し借りに関するものがあります。本記事では,このルールとその解釈や実際の依頼における扱いを説明します。
具体的には,弁護士職務基本規程の条文として規定があります。この条文は,既に廃止されている弁護士倫理の条文の内容が引き継がれたものです。

<依頼者との金銭貸借禁止の規定>

あ 条文

弁護士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸借をし、又は自己の債務について依頼者に保証を依頼し、若しくは依頼者の債務について保証をしてはならない。
※弁護士職務基本規程25条

い 旧弁護士倫理

旧弁護士倫理41条にも実質的に同様の規定があった
弁護士職務基本規程になった時に禁止範囲が一部拡大された
ただし,解釈論は共通するものが多い

2 依頼者との金銭貸借禁止の趣旨

弁護士が依頼者と金銭の貸借を行うことは原則的に禁止されています。このルールの趣旨の要点は,極力『利害』を作らないことと言えます。弁護士業務は元々,当事者間の熾烈な利害対立に介入する性格があります。そこで,必要以上に利害関係を増やさないことが望ましいのです

<依頼者との金銭貸借禁止の趣旨>

あ 特別な利害関係の発生

依頼者との間での特別な利害関係が生じた場合
典型例;金銭の貸借・保証
→『い』のような弊害が生じる

い 想定される個々の弊害

ア 当事者化
弁護士が過度に『思い入れ』をする
→当事者化する
イ 利害対立・利害相反
依頼者との間で利害の対立・利害相反が生じる
→信頼関係を損ねる・依頼者との紛争が生じる

う 最終的な弊害

『い』の状況が生じた場合
→弁護士の職務の自由と独立が失われる
※弁護士職務基本規程2条
→独立性・職務の公正が保たれなくなる
※日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会『注釈弁護士倫理 補訂版』有斐閣p170;旧弁護士倫理41条について
※日本弁護士連合会弁護士倫理委員会『解説『弁護士職務基本規程』第2版』p63
※東京3会有志・弁護士倫理実務研究会『弁護士倫理の理論と実務〜事例で考える弁護士職務基本規程〜』日本加除出版p62

3 依頼者との金銭貸借の規定内容・解釈論

依頼者との金銭貸借を禁止する規定の内容と基本的な解釈論をまとめます。

<依頼者との金銭貸借の規定内容・解釈論>

あ 貸借・保証の双方向性

金銭の貸借・保証をする/されるの関係について
→依頼者・弁護士の双方向が含まれる

い 委任の範囲との関係性

委任外の関係による貸借・保証も含まれる

う 定型的サービスの除外

弁護士・依頼者の地位と関係ない取引は含まれない
=いずれの地位も一切動機づけ要因となっていないこと
例;依頼者の通常のサービスを利用すること
=クレジットカードの利用・銀行からの融資を受けること

え 預り金の除外

依頼者からの一定の預り金は含まれない(後記※1)

お 弁護士費用の支払猶予・減免の除外

弁護士費用の支払猶予・減免は含まれない(後記※2)
※日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会『注釈弁護士倫理 補訂版』有斐閣p171;旧弁護士倫理41条について
※日本弁護士連合会弁護士倫理委員会『解説『弁護士職務基本規程』第2版』p64

4 『貸借・保証』の解釈論

弁護士と依頼者の間では原則的に『貸借・保証』が禁止されます(前記)。この『貸借・保証』については,表面的な形式ではなく,実質的に判断することになります。これに該当する具体例を含めて整理します。

<『貸借・保証』の解釈論>

あ 『貸借・保証』の基本的解釈論

文字どおりの金銭自体の貸借に限定されない
貸借・保証と同様の経済的作用を有する他の法律関係を含む

い 『貸借・保証』に該当する具体例

ア 金銭の貸し借り
イ 立て替えること
例;依頼者が支出すべき示談金を弁護士が立て替える
ウ 手形の割引・手形裏書・手形の保証
エ 物上保証
オ 債務引受
例;第三者の支払金に関する支払保証や履行引受
カ 担保の供与
民事執行法・民事保全法に基づくもの
キ 保釈保証人となること
ク 身元保証
※日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会『注釈弁護士倫理 補訂版』有斐閣p171;旧弁護士倫理41条について
※日本弁護士連合会弁護士倫理委員会『解説『弁護士職務基本規程』第2版』p64
※東京3会有志・弁護士倫理実務研究会『弁護士倫理の理論と実務〜事例で考える弁護士職務基本規程〜』日本加除出版p63

5 依頼者からの預り金の除外

形式的に『貸借』であっても,禁止される行為から除外されるものもあります。除外されるものの典型例は預り金です。本質・性質を考えると禁止されるものとは大きく異るのです。これについてまとめます。

<依頼者からの預り金の除外(※1)>

あ 依頼者からの預り金の酒類

ア 依頼者から預かった金銭
例;実費・予納金・供託金・和解金などを預かる行為
イ 相手方から預かった金銭
相手方が依頼者に支払う金銭を弁護士が預かる行為

い 『貸借』該当性の解釈論

本来の弁護士業務にとって必要不可欠の行為である
弁護士の職務の独立性を害することもない
→『金銭貸借』に該当しない
※日本弁護士連合会弁護士倫理委員会『解説『弁護士職務基本規程』第2版』p64
※東京3会有志・弁護士倫理実務研究会『弁護士倫理の理論と実務〜事例で考える弁護士職務基本規程〜』日本加除出版p63

6 弁護士報酬の支払猶予・減免の除外

依頼者の状況によって,弁護士報酬の支払が遅れることを許容することや,金額を下げることもあり得ます。このような行為も『貸借』の性質を持つとも考えられます。しかし,実質的には『貸借』に該当しないものとして扱われます。

<弁護士報酬の支払猶予・減免の除外(※2)>

あ 基本的考え方

依頼者の経済的窮状に対応する場合
→弁護士の使命を果たすためのものである
※法1条

い 『貸借・保証』該当性の解釈論

『あ』が,仮に『貸借・保証』に該当するとしても
→制約の対象にはならない
※日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会『注釈弁護士倫理 補訂版』有斐閣p172;旧弁護士倫理41条について
『特別の事情』に該当するという解釈もある
※日本弁護士連合会弁護士倫理委員会『解説『弁護士職務基本規程』第2版』p64

7 『特別の事情』を認定する主要な条件

仮に,弁護士と依頼者の金銭の貸借や保証であっても,絶対的に禁止されるわけではありません。『特別の事情』がある場合は適法となります(前記)。『特別の事情』の内容の解釈についてまとめます。

<『特別の事情』を認定する主要な条件>

ア 緊急性が認められる
イ 依頼者の利益にとって必要不可欠である
ウ 依頼者の意思に沿っている
エ 弁護士が不当な利益を享受するものではない
オ 返済条件が妥当である
※東京3会有志・弁護士倫理実務研究会『弁護士倫理の理論と実務〜事例で考える弁護士職務基本規程〜』日本加除出版p64

8 実費負担に関する標準的報酬約款

弁護士が依頼を受任する時には,一般的に弁護士は依頼者から一定の金銭を預かります。通常,報酬約款の1つの条項としてこれについて明記してあります。

<実費負担に関する標準的報酬約款>

ご依頼人は,弁護士報酬とは別に,収入印紙代,郵便切手代,謄写料,交通通信費,宿泊料,保証金,保管金,供託金その他委任事務処理に要する実費等を負担します。

弁護士(法人)は,概算により,あらかじめご依頼人から実費等をお預かりします。

この内容は,みずほ中央の報酬約款でも使われているものです。