1 弁護士の『業務遂行能力・レベル』の最低限は低い
2 弁護士費用の算定基準|委任契約書作成義務を守っていれば関係ない
3 依頼解除後の清算義務の内容|『履行済の割合』で決める
4 弁護士の防衛策|控訴期間中に依頼者と連絡が取れない事態をケア
5 弁護士の防衛策|過激表現→違法となる基準
6 弁護士の防衛策|守秘義務における『秘密』の範囲
7 弁護士の防衛策|刑事訴訟・弁護士会照会の資料→依頼者には渡せないこともある
8 複数弁護士の責任|勤務弁護士・共同受任した弁護士の責任
9 過剰に恐れるリスク|去勢済み弁護士→弱み発現トリガーを引く側になれ

本記事では,弁護士業務全般に関する『基準』をまとめます。
判例で設定された『基準』を整理しました。

1 弁護士の『業務遂行能力・レベル』の最低限は低い

弁護士はプロフェッショナルとしてしっかりした知識レベルを保持・維持すべきです。
逆に『レベルが低い』場合は『債務不履行』その他の法的責任が生じます。
判例で『法的責任が生じる/生じない』ライン=基準が宣言されています。

<弁護士の知識・分析レベル|『平均的な弁護士の技術水準』>

あ 『事実調査』

依頼者から情報を適切に引き出し,その意図するところを的確に理解するとともに,事実を一応の資料の裏付けをもって認識すべき義務を負う

い 法的吟味

平均的な弁護士の技能水準に照らして,当該事案に対して,およそ考えられるあらゆる面から法的に吟味すべき義務を負う
※大阪地裁平成13年1月26日

結局,基準は『平均的な弁護士のレベル』となっています。
『言葉』で基準を設定する限界を感じます。
というのは,『平均的な弁護士のレベル』未満が『違法』と言い換えられます。
そうすると,正規分布という前提であれば弁護士総数の半分が『違法(債務不履行)』ということになってしまいます。
『違法』かどうか,という低いレベルの議論自体がナンセンスです。
とにかく『ユーザーが選ぶ弁護士によって結果が違う』ということを暗に物語っている判例です。

2 弁護士費用の算定基準|委任契約書作成義務を守っていれば関係ない

弁護士費用の算定方法・基準を設定した判例があります。
しかし現在では弁護士は,報酬の説明義務・委任契約書作成義務があります。
これらが遵守されている限りは『後から報酬額を算定する』という必要はないはずです。
むしろ弁護士サイドで報酬規定や個別的見積もりを作成する時点では参考になるでしょう。

<弁護士報酬の算定基準・要素>

当事者間に別段の定めがなかった場合,次の要素で算定する
《算定要素》
ア 事件の難易
イ 訴額(経済的利益)
ウ 労力の程度
エ 当事者の意思(の推定)
※最高裁昭和37年2月1日

3 依頼解除後の清算義務の内容|『履行済の割合』で決める

弁護士が扱う事案は一般的に『変化が激しい』です。
状況が代わって委任を解除する,ということも生じます。
その場合の清算義務について基準を設定した判例があります。
これも,本来であれば委任契約書で『清算方法』を設定しておくのがベストです。
判例が示しているのは,条項・取り決めがなかった場合の清算方法です。

<解除後の清算義務の内容>

依頼者都合の解除の場合
→履行済の委任事務の割合に応じて報酬を請求できる;民法648条3項
着手金・成功報酬の合計を算定する
『みなし成功報酬』などの合意があれば別
※大阪地裁平成21年12月4日

4 弁護士の防衛策|控訴期間中に依頼者と連絡が取れない事態をケア

受任した弁護士としては『依頼者と連絡が取れない』というのは非常に困惑するシーンです。
特に『短い期限設定』がされている場合は特に配慮が必要です。
典型例は『控訴期間』です。
詳しくはこちら|刑事・民事の控訴・上告の申立|2段階書面提出|理由書・趣意書の提出期限
実際に『期限切れ』で大問題となるケースが頻発する『魔の2週間』なのです。
詳しくはこちら|不慣れな弁護士のミス→賠償責任|控訴・上告の期限切れ編
緊急措置について判例中でコメントが出されています。

<控訴期間中に依頼者と連絡が取れない場合の対応>

委任状に『控訴申立』がある場合は→とりあえず控訴を申し立てる
その後維持するかどうかを確認する
※東京地裁昭和46年6月29日

控訴状を提出する場合は『印紙』貼付が必要です。
依頼者の意思確認が取れない時点では『印紙なし』で提出する裏技もあります。
依頼者の意思確認が取れ次第『追完』する,という寸法です。

5 弁護士の防衛策|過激表現→違法となる基準

弁護士は書面でさまざまな主張を展開します。
相手との熾烈な対立という状況にあるのが通常です。
そこで表現自体が『過激』になる傾向があります。
過激さが一定限度を超えると,弁護士自身が法的責任を負うことになります。
詳しくはこちら|弁護士の過激な表現による賠償責任(民事責任)
判例中,『これだけでも違法』という一般論が登場しています。

<訴訟の主張における表現の限界論>

『虚偽』『嘘つき』という表現は原則的に名誉毀損に該当する
※東京地裁平成16年8月23日

『断言』でなければ通常適法となります。
『過剰に恐れる』ことの方がリスキーです。

6 弁護士の防衛策|守秘義務における『秘密』の範囲

弁護士は,高度なプライバシー情報・企業機密を預かります。
当然『守秘義務』という重大なルールを順守します。
『守秘義務』の対象となる『秘密』の解釈論を示した判例があります。

<守秘義務における『秘密』の範囲>

一般に知られていない事実であって,次のいずれかに該当する
ア 本人が特に秘匿しておきたいと考える事項
イ 一般人の立場からみて秘匿しておきたいと考える性質を持つ事項
※弁護士法23条,基本規程23条
※大阪地裁平成21年12月4日

このように限定的な解釈が示されました。
ただ『義務』うんぬんとは別に『情報死守』はもっと徹底すべきでしょう。
弁護士は,個人・企業に代わって『熾烈な対立』に入る業務を公的に独占する使命を負っています。
この社会的構造・背景を考えると,上記判例のような『甘い解釈』は不適切です。

7 弁護士の防衛策|刑事訴訟・弁護士会照会の資料→依頼者には渡せないこともある

一般的には,弁護士の業務は『依頼者の代理』です。
『依頼者と弁護士は一心同体』です。
情報・資料を共有する,ということです。
業務遂行中に入手した資料は依頼者の所有物です。
最終的に依頼者に引き渡す義務があります。
しかし,特定の入手経路・特殊な資料については『依頼者に引き渡すと違法』となります。
当然の原則論と混同してしまい,後から責任問題となるケースもあります。

<刑事|弁護人の独立性・取得した裁判資料の所有権>

あ 弁護人の独立性;刑事訴訟法41条

刑事事件での『弁護人』は,依頼者である被告人からの一定の独立性がある
その使命・職責の一環として,被告人には認められていない権限がある

い 訴訟関連書類・証拠物を複写する権限;刑事訴訟法40条

弁護士がその資格および権限に基づいて複写した刑事事件の書類・証拠物は当該弁護士の所有に帰する
当然に被疑者・被告人の所有に帰することにはならない
※大阪地裁平成17年10月14日

これに関して,弁護士会照会でも同様の扱いとなると思われます。
詳しくはこちら|弁護士会照会|基本|公的性格・調査対象・手続の流れ
詳しくはこちら|ご依頼者へ;弁護士→依頼者の資料開示(報告義務)

8 複数弁護士の責任|勤務弁護士・共同受任した弁護士の責任

複数の弁護士が共同受任することもあります。
例えば法人化していない法律事務所では『複数の個人弁護士が共同受任』という形態になります。
この場合の弁護士間の責任について基準を示した判例があります。

<勤務弁護士・共同受任弁護士の責任>

委任契約書において複数の弁護士が受任者となっている場合,共同して受任したと解すべき
訴訟委任契約の効果として,連帯して委任契約による債務を負担する
すべての訴訟行為について,受任者であるすべての弁護士が共同してこれを行うことまでは要求されていない
依頼者に対する善管注意義務を負う
ほかの弁護士の行う訴訟活動について監視をし,必要があれば,是正・補完するなどして,適正な訴訟活動が行われるようにすべき義務を負う
事務所を退職しても委任契約が当然に終了するわけではない→義務を免れない
※大阪地裁平成18年12月8日
※注意;『弁護士法人』が受任主体,だとこのような歪み現象は生じない

要するに『他の弁護士のミスの責任まで負う』ということです。
『とばっちりを受ける』ということです。
この点弁護士法人は合理的で優れていると言えましょう。

9 過剰に恐れるリスク|去勢済み弁護士→弱み発現トリガーを引く側になれ

逆に『過剰に恐れる』弁護士だと,本来のミッションである『権利実現』を弱めることになります。
業界では『意気地なし弁護士』『去勢済み弁護士』などと批判的に呼ばれています。
逆に,相手の『意気地なし』をうまく発現させ,相手の口撃を無力化するテクニックも存在します。
詳しくはこちら|相手方弁護士を信用して仮差押を解放してしまった→回収不能
なお『去勢済み弁護士』の語法は,古典的用法もあります。

<古典的『去勢済み弁護士』>

裁判所の意向を過剰に受け入れる
裁判所への批判・戦う姿勢を極度に排除する
『裁判所への説得』よりも『依頼者の説得(断念方向)』を優先する

ここでは古典的意味での『去勢済み弁護士』の説明は割愛します。