【不慣れな弁護士のミス→賠償責任|債務整理・事務所乗っ取り編】

1 債務整理における辞任予告・辞任通知×クロネコメール便
2 債務整理における『時効待ち作戦』・連絡取れない→業務停滞
3 新人弁護士『債務セイラー乗っ取り訴訟』|債務整理事務所設立&乗っ取りの企み
4 新人弁護士『債務セイラー乗っ取り訴訟』|トリッキー反論
5 新人弁護士『債務セイラー乗っ取り訴訟』|判決

弁護士のミスにより,依頼者・相談者に被害が生じたというケースを紹介します。
ユーザー(依頼者)としては,弁護士を選ぶことの重要性が分かります。
また弁護士にとっては『他山の石』として業務改良の一環とできます。
本記事では『債務整理』に関する案件を整理しました。

1 債務整理における辞任予告・辞任通知×クロネコメール便

債務整理において『依頼者と連絡が取りにくくなる』というシーンがありました。
そこで弁護士が辞任したのですが『説明不足』を主張されたケースです。

<辞任予告・辞任通知×クロネコメール便|原審>

あ 事案

弁護士が,辞任通知・辞任予告通知を依頼者に送付した
『クロネコメール便』で送付した
事前に次のような説明をしていなかった
《説明必須事項》
ア 事件処理の状況・その結果イ 辞任による不利益

い 裁判所の評価(控訴審は逆の判断)

ア クロネコメール便について 辞任予告通知は個人情報を含む重要書類である
クロネコメール便で送付すること自体,辞任に当たっての連絡方法として適切ではなかった
Xが辞任予告通知を受領したことを確認することができない
《『クロネコメール便』の性質論》
カタログや雑誌などを対象とし,信書を対象とするものではない
受領印が不要であって,荷物受け箱への配達をもって配達を完了する
イ Xと連絡が取りにくかったことについて 適切な方法を講ずれば依頼者と連絡をとって説明することができた

う 裁判所の判断(結論)

A弁護士は債務不履行に該当する
※鹿児島地裁名瀬支部平成21年10月30日;未確定

<辞任予告・辞任通知×クロネコメール便|控訴審>

あ 裁判所の評価(認定)

辞任時における説明
Xが電話で連絡をとろうとしなかった
その結果,Xは,『債権者から訴訟提起されるまで』そのことを知らなかった
その責めはもっぱらXが負うのが相当である

い 裁判所の判断(結論)

A弁護士の説明義務違反ではない
※福岡高裁宮崎支部平成22年12月22日

通知の発送方法で『クロネコメール便を使った』ということまでが主張に登場しました。
なお,平成27年に『信書』の解釈論がきっかけとなり『クロネコメール便』は廃止されています。
この訴訟でも『信書』の規制に違反している,という主張がなされたのです。
詳しくはこちら|『信書』の基準|参入規制=許可制|ブロックチェーン技術でリプレイスする時代
さまざまな主張について判断した結果として弁護士の責任は控訴審で否定されて終わりました。

2 債務整理における『時効待ち作戦』・連絡取れない→業務停滞

債務整理の処理方法の1つとして『時効待ち作戦』が編み出されました。
これ自体の評価はさまざまですが『妥当ではない』という画一的判断はありません。
個別的に『説明不足』が指摘されるケースはあります。
そのような主張がなされた訴訟を紹介します。

<時効待ち作戦・依頼者に原因のある業務停滞>

あ A弁護士の取った方針

時効待ちの方法
《内容》
債権者に,次のいずれかの選択を求める+増額には一切応じない
・弁護士からの和解の提案に同意する
・訴訟を提起する
・債務を時効によって消滅させる

い A弁護士の事前説明

Xから連絡がない場合は辞任することを伝えていた

う 連絡不能となり業務停滞

A弁護士はXと連絡が取れなくなった
過払金回収後,業務を進められなくなった

う 裁判所の評価|過払金返還の可否

委任事務の内容は単に過払金の回収だけではなく債務整理である
各債権者との交渉における債権者の対応が明らかになるまでは,依頼者に返還すべき金額は定まらない
→依頼者は,当然に過払金の返還を求めることができるわけではない

<裁判所の判断>

あ 裁判所の評価|仮に過払金を返還する場合

弁護士としては,委任契約を解消した上で,返還するしかない
返還額は,過払金から弁護士報酬・費用を控除した金額となる

い 裁判所の評価|過払金請求の和解の判断

和解を成立させる基準について,弁護士には一定の裁量がある
事前に依頼者から和解金額についての了解を得なかい場合でも違法とまでは言えない
→説明義務違反ではない

う 裁判所の評価|破産を選択する可能性

(Xが)手形割引名目で多額の金銭を騙し取った事情があった
→破産した場合,免責不許可事由に該当する
→破産を選択する可能性はほとんどなかった

え 裁判所の判断(結論)

ア 支払いをしないままの状態にすることについての説明義務 →具体的なリスクなどを説明する義務があったとまでは言えない
イ 業務を完了させなかった理由 『依頼者からの連絡待ち』であった
→A弁護士の責任ではない
ウ まとめ A弁護士の業務遂行は債務不履行にはあたらない
→請求棄却
※福岡高裁宮崎支部平成22年12月22日

『時効待ち作戦』自体も含めて,弁護士の対応は適法と認められています。

3 新人弁護士『債務セイラー乗っ取り訴訟』|債務整理事務所設立&乗っ取りの企み

債務整理に関する弁護士の責任としては変わったケースもあります。
債務整理専業事務所の設立から第三者が関与し『乗っ取り』が狙われた事案です。
一部では『債務セイラー事件』と呼ばれているとか。

<乗っ取りのターゲットに陥っていった経緯>

あ 弁護士開業計画×コンサルタント

相談者A・BとY弁護士は喫茶店で面談した
Y弁護士の説明
・当時法律事務所に所属しているが事務所から給与を支給されていない
・所属した時から独立を考えていたので,事務所の受任した仕事を極力受けていない
・同年1月の収入はゼロである
・確定申告の手伝いや司法試験予備校の仕事で収入を得ていた
・債務整理を中心とした法律事務所の設立を目指しており出資をしてくれる者を探している

い 資金協力体制構築に向けて

Aは,弁護士事務所の関係者を紹介し,事務員探しなどにも協力する旨申し出た
後日ホテルで協議→合意した|X2・A・B・Y弁護士
敢えて口頭の約束とし,書面の調印は行わなかった
《合意内容》
・スポンサーX2・AがY弁護士の開設する法律事務所の運営支援を目的とする会社X1を設立する
・会社X1を通じて被告に資金提供をする
・会社X1が法律事務所に事務員を派遣して給与を立替払する
・法律事務所の運営が軌道に乗った後に上記資金及び事務員の給与の返済時期・返済方法について協議する

う 開業へ

X2が,広告作成の手配を行った
Y弁護士は,平成21年初夏にb法律事務所を開設した
b法律事務所に所属する弁護士はY1名であり,過払事件を中心として受任した

え 日常業務・金銭管理体制

b法律事務所の経費の管理は,事務長であるBが担当し,預り金口座の通帳記帳・引出等は,Dが担当していた
運営業務はA・B夫妻(事務局)が行い,Y弁護士の包括的な指示・事後承認をもらう方式であった
《事務局の自動業務》
・依頼者との電話対応
・依頼者との面談の際の事務的な事項の確認
・弁護士介入通知の発送
・法定利率による貸金債務の引直し計算
・備品の購入等

<弁護士の防衛活動スタート>

あ Y弁護士の防衛準備

委任契約の締結及び法律事務の処理の最終判断はY弁護士自身が行っていた
Y弁護士は,X2・A・B夫妻に対し,弁護士法27条に違反する行為(非弁提携)を行わない旨を注意し,資料を配って,勉強会を行った

い Y弁護士の最終抵抗発動

Y弁護士は,X1・X2らが被告に非弁提携をさせることを画策しているのではないかと不審を持ち始めた
関与を排除する方策を取り始めた
→退去を命じた

4 新人弁護士『債務セイラー乗っ取り訴訟』|トリッキー反論

以上の事案について提訴がなされ,おもしろ反論が展開されました。

<提訴→トリッキー反論>

あ X1・X2の提訴

X1・X2がY弁護士を提訴した
請求内容=経費立替金などの返還請求

い Y弁護士のトリッキー反論

貸付・立替は『弁護士法違反』である
→公序良俗違反により『無効』である
→『不法原因給付』として返還義務はない

借りたけど『弁護士法違反』のプロジェクトだから返還しない,という反論です。
自分から『違反である』と主張するのは辛かったと思われます。

5 新人弁護士『債務セイラー乗っ取り訴訟』|判決

この訴訟で,最終的に裁判所の判断が下されました。

<裁判所の判断>

あ 裁判所の評価|弁護士法違反→否定

資金提供は,X1・X2の目的が非弁行為をすることorY弁護士に非弁提携をさせる目的であった
弁護士法27条,72条違反の行為を『誘発』するものである
各条の『趣旨に反する』ものである
しかし『非弁行為』そのもの・直結するもの,とは認められない
合意については,違法性が強度ではない
→私法上の効力は否定されない

い 裁判所の判断|公序良俗違反

(『あ』の理由に加えて)
Y弁護士自身の行為が原因となっている部分もある
→『公序良俗違反』の主張は採用しない

う 裁判所の判断|結論

立替合意に基づくX1の立替金約1688万円の請求を認めた
※東京地裁平成25年5月30日

裁判所は『違法ではない』という判断をしました。
その結果,単純に『借りたモノは返す』という結論となりました。

<参考情報>

高中正彦『判例弁護過誤』弘文堂

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