海の埋め立て事業の知事の承認と撤回(辺野古移設問題)

1 海を埋め立てるには都道府県知事の承認や免許が必要
2 埋め立て事業の『免許の取消』は事業主体が民間の場合のみ
3 政治判断として埋め立て事業が中止された場合は『承認の撤回』もあり得る
4 米軍施設移設については,『知事が中止を要望』だけでは『撤回』できない

1 海を埋め立てるには都道府県知事の承認や免許が必要

海を埋め立てる場合には,一定の法律上の手続が必要です。
埋め立ての事業主体によって,都道府県知事の『承認』か『免許』が必要となります。
用語は違いますが,実質的な違いはありません。

<埋め立て事業の主体が国(政府)の場合>

都道府県知事の承認を得る
※公有水面埋立法42条1項

<埋め立て事業の主体が民間の場合>

都道府県知事の免許を得る
※公有水面埋立法2条1項

2 埋め立て事業の『免許の取消』は事業主体が民間の場合のみ

公有水面埋立法において『埋め立て事業の免許』の取消の規定があります。
ただ,取消ができる場合は非常に限られています。

<埋め立て事業の免許取消の要件>

ア 埋め立て事業の主体が民間イ 免許の『告示』の前ウ 一定の違反行為や不都合が発生・発覚した場合 ※公有水面埋立法32条

事業主体が国(政府)の場合,つまり『承認』については,取消の条文(32条)が準用されていません。
つまり,事業主体がの場合は,取消が行われることはありません。

3 政治判断として埋め立て事業が中止された場合は『承認の撤回』もあり得る

政府が主体となって埋め立て事業を行うために『都道府県知事の承認』を得た場合,法律上取消の規定は適用されません。
しかし,極限的な事情がある場合は,撤回が認めるという解釈もあります。

<埋立事業の『承認の撤回』を認める解釈が生じる事情の例>

政府として埋め立て事業を中止する判断がなされた

このような状況となった場合,『知事の承認の前提(要件充足性)』が事後的に失われたことになります。
一般的な行政法の解釈として撤回が認められる,という解釈が成り立つ可能性もあります。

4 米軍施設移設については,『知事が中止を要望』だけでは『撤回』できない

現在話題になっている『米軍普天間飛行場の辺野古移設』の場合で言えば,米国政府が,『移設自体を中止する』という判断を行ったような場合であれば『承認の撤回』が認められると思われます。
一方,知事が変わった知事が中止を要望というだけでは『承認の撤回』はできないということになります。

条文

[公有水面埋立法]
第二条  埋立ヲ為サムトスル者ハ都道府県知事ノ免許ヲ受クヘシ
○2 前項ノ免許ヲ受ケムトスル者ハ国土交通省令ノ定ムル所ニ依リ左ノ事項ヲ記載シタル願書ヲ都道府県知事ニ提出スベシ
一  氏名又ハ名称及住所並法人ニ在リテハ其ノ代表者ノ氏名及住所
二  埋立区域及埋立ニ関スル工事ノ施行区域
三  埋立地ノ用途
四  設計ノ概要
五  埋立ニ関スル工事ノ施行ニ要スル期間
○3 前項ノ願書ニハ国土交通省令ノ定ムル所ニ依リ左ノ図書ヲ添附スベシ
一  埋立区域及埋立ニ関スル工事ノ施行区域ヲ表示シタル図面
二  設計ノ概要ヲ表示シタル図書
三  資金計画書
四  埋立地(公用又ハ公共ノ用ニ供スル土地ヲ除ク)ヲ他人ニ譲渡シ又ハ他人ヲシテ使用セシムルコトヲ主タル目的トスル埋立ニ在リテハ其ノ処分方法及予定対価ノ額ヲ記載シタル書面
五  其ノ他国土交通省令ヲ以テ定ムル図書

第三十二条  左ニ掲クル場合ニ於テハ第二十二条第二項ノ告示ノ日前ニ限リ都道府県知事ハ埋立ノ免許ヲ受ケタル者ニ対シ本法若ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依リテ其ノ為シタル免許其ノ他ノ処分ヲ取消シ其ノ効力ヲ制限シ若ハ其ノ条件ヲ変更シ、埋立ニ関スル工事ノ施行区域内ニ於ケル公有水面ニ存スル工作物其ノ他ノ物件ヲ改築若ハ除却セシメ、損害ヲ防止スル為必要ナル施設ヲ為サシメ又ハ原状回復ヲ為サシムルコトヲ得
一  埋立ニ関スル法令ノ規定又ハ之ニ基キテ為ス処分ニ違反シタルトキ
二  埋立ニ関スル法令ニ依ル免許其ノ他ノ処分ノ条件ニ違反シタルトキ
三  詐欺ノ手段ヲ以テ埋立ニ関スル法令ニ依ル免許其ノ他ノ処分ヲ受ケタルトキ
四  埋立ニ関スル工事施行ノ方法公害ヲ生スルノ虞アルトキ
五  公有水面ノ状況ノ変更ニ因リ必要ヲ生シタルトキ
六  公害ヲ除却シ又ハ軽減スル為必要ナルトキ
七  前号ノ場合ヲ除クノ外法令ニ依リ土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ル事業ノ為必要ナルトキ
○2 前項第七号ノ場合ニ於テ損害ヲ受ケタル者アルトキハ都道府県知事ハ同号ノ事業ヲ為ス者ヲシテ損害ノ全部又ハ一部ヲ補償セシムルコトヲ得

第四十二条  国ニ於テ埋立ヲ為サムトスルトキハ当該官庁都道府県知事ノ承認ヲ受クヘシ
○2 埋立ニ関スル工事竣功シタルトキハ当該官庁直ニ都道府県知事ニ之ヲ通知スヘシ
○3 第二条第二項及第三項、第三条乃至第十一条、第十三条ノ二(埋立地ノ用途又ハ設計ノ概要ノ変更ニ係ル部分ニ限ル)乃至第十五条、第三十一条、第三十七条並第四十四条ノ規定ハ第一項ノ埋立ニ関シ之ヲ準用ス但シ第十三条ノ二ノ規定ノ準用ニ依リ都道府県知事ノ許可ヲ受クベキ場合ニ於テハ之ニ代ヘ都道府県知事ノ承認ヲ受ケ第十四条ノ規定ノ準用ニ依リ都道府県知事ノ許可ヲ受クヘキ場合ニ於テハ之ニ代ヘ都道府県知事ニ通知スヘシ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
政府レベルでしくった2000円札|受取拒否は許される?
【医師の離婚|財産分与における特徴】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00