【子供と親権者の賠償責任(責任弁識能力の有無による違い,監督責任)】

1 子供への損害賠償請求,は実質的に無意味になりがち
2 子供の年齢と『子供・親権者の賠償責任』の対応表
3 子供が12歳程度まで→『親の責任あり』という傾向
4 子供が13~14歳程度→『親・子供の両方に責任あり』という傾向
5 子供が15歳以上→『親の責任なし・子供の責任あり』という傾向
6 子供による『自動車事故・犯罪』→親の責任が認められる傾向

本記事では子供の行為による『親の監督者責任』の基本的事項を説明します。
具体的事例や『監督義務』の解釈論については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|子供による被害→親の監督者責任|否定方向に基準変更|平成27年ネオ判例
詳しくはこちら|監督者責任の具体的事例・判例|鬼ごっこ・サッカー・よもぎの矢・火遊び

1 子供への損害賠償請求,は実質的に無意味になりがち

例えば子供が自転車で歩行者に衝突したなど,子供が加害者になることがあります。
この場合,子供に対する賠償責任が判決で確定ても,「意味がない」可能性が高いです。

親が賠償に応じてくれれば良いですが,応じない場合は,差押などの手段で強制的に回収するしかなくなります。
その場合,差押ができるのは子供名義の財産だけです。

親名義の不動産・預貯金・保険・給与(報酬)などは,差押ができません。
加害者やその親としても,通常保険に入っていないでしょうから,自腹で賠償することになります。
高額の賠償額であれば,実際問題,払えないことが多いです。

場合によっては,加害者としても払えないために自己破産をするかもしれません。
そうすると,原則として,法的に請求できない状態になります。

<ポイント>

・財産がない人への請求権は,判決になっても紙くず同様
・『無資力は最大の抗弁』

このようなことに対応して,一定の範囲で『親』への請求が認められています。

2 子供の年齢と『子供・親権者の賠償責任』の対応表

先に,裁判例から抽出した,年齢と責任の有無の目安を示しておきます。
おおまかな目安です。
詳しくは個々の説明の項目をご覧ください。

<子供の年齢と,子供,親権者の法的責任のまとめ>

↓子供の年齢   子供の責任   親権者の責任
〜12歳   ☓(民法712条)   ◯(民法714条)
13〜14歳   ◯(民法709条)   ◯(民法709条)※1
15歳以上   ◯(民法709条)   ☓(監督責任なし)

※1 無免許運転,その他犯罪などの重大な事故,事件ではこの適用対象年齢が17〜18歳までアップします(後記『6』)。

3 子供が12歳程度まで→『親の責任あり』という傾向

責任弁識能力がない未成年の加害については,監督義務者が責任を負います(民法712条,714条)。
なお,この場合,責任弁識能力がない未成年は責任を負いません(民法712条)。
監督義務者とは,通常,親権者ということになります。

ここで,責任弁識能力については法律上年齢などは明記されていません。
なお,条文の文言では,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能という表記です(民法712条)。

裁判例の解釈では,おおむね小学校卒業程度の子供について責任弁識能力なしと判断しています。
年齢にすると12歳程度,ということです。
あくまでも平均的な目安です。
実際には,具体的な子供の判断能力の発達程度によって違います。

例えば,事故時の加害者の年齢が13歳1か月でも子供の責任能力を否定した裁判例もあります(東京地裁 昭和52年12月20日)。

4 子供が13~14歳程度→『親・子供の両方に責任あり』という傾向

子供の年齢がおおむね小学校卒業程度を超える場合責任弁識能力があると判断される傾向にあります(前記『3』)。
年齢にすると13歳程度以上,ということになります。
この場合,子供自身の責任が認められます。

そうすると,親権者の監督責任は認められません(民法714条)。
(民法714条の)親権者の監督責任が生じるのは,子供に責任弁識能力がないことが要件となっているからです。

しかし,親権者の責任がない,という結論になるとは限りません。
一般的な親子間の監督義務に違反があったと評価することが多いです。
子供の年齢にして14歳程度までは,親の監督義務は大きいと判断される傾向が強いです。
親の監督責任があると判断された場合,親権者にも,一般的な不法行為としての損害賠償責任が認められます(民法709条)。
このような判断は判例上確立した理論です(最高裁 昭和49年3月22日)。

親の監督義務が不十分だったから損害が生じたと考えるわけです。
このような形で親の責任が認められるのは,子が13~14歳くらいです。
ただし,14歳でも親の監督義務違反を否定している裁判例も結構あります。
最終的には個別的に判断されます。

5 子供が15歳以上→『親の責任なし・子供の責任あり』という傾向

子供の判断能力が発達してくると『親の監督責任』は否定されます。
裁判例の蓄積からは,目安として子供の年齢が15歳程度以上,という場合がこれに該当します。
当然,子供自身の責任は肯定されます。

この結論は,被害者の立場としては最も恐ろしい状態です。

6 子供による『自動車事故・犯罪』→親の責任が認められる傾向

自転車事故ではなく,自動車の無免許運転や犯罪行為では17,18歳でも『親の責任』を認めるケースは多いです。

(1)子供による自動車の無免許運転

例えば,自動車の無免許運転では,子供の年齢が17,18歳程度まで,親の責任が認められる範囲が拡大されます。
次のような事項について「親の過失」と評価するためです。

<子供による自動車の無免許運転における親の過失>

ア 自動車の鍵の保管状況が悪かったイ 無免許運転をするような生活状態を把握して止めるべきだった

<子供による自動車事故の裁判例>

高松高裁 平成18年7月11日
子供=17歳
自動二輪車の運転

親権者の賠償責任肯定

(2)子供による犯罪行為

殺人や強盗のような重い犯罪行為の場合でも,同様に,親権者の賠償責任が認められる範囲は広いです。
次のような事項について「親の責任」と評価されるのです。

<子供による犯罪行為における親の過失>

子供の生活環境を親が把握して改善すべきだった

<子供による犯罪行為の裁判例>

最高裁判所 昭和49年3月22日
子供=15歳
強盗殺人

親権者の賠償責任肯定

(3)自転車事故については,『親権者の責任の拡大』の傾向はない

自転車運転,というのは合法的な行為であり,多くの人が行っているありふれた行為です。
『自転車を運転させるなんて親がいけない』とは言えません。
そこで,自転車事故については,他の事故(損害)と比べて,親の責任が否定される傾向にあるのです。

損害発生の危険性は高く,賠償能力が低いというアンバランスな状況です。
抜本的に解決するなら,強制保険制度や政府保障制度の導入をすべきなのでしょう。
自転車事故については,その特徴を別に説明しています。
別項目;自転車事故の特徴,危険性の認識不足

本記事では,子供(未成年者)の責任弁識能力の有無や,親の監督責任について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
実際に子供の行為による問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【自転車事故の特徴,危険性の認識不足】
【自転車事故の過失割合;類型別】

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