【太陽光発電システム×運用トラブル・予防策|日照阻害・販売・設置】

1 太陽光発電設置,運用に関してはトラブルのケアを事前にしておくと良い
2 太陽光発電設置自体が適切ではなかった類型(『あ』)
3 事後的な状況変化により不備が生じた類型(『い』)
4 設置後の運用上の不備(『う』)
5 周囲への被害(『え』)
6 太陽光発電に関するトラブルで施工・販売業者が責任を負うことがある
7 太陽光パネル設置の際全員が理解するとトラブル予防になる
8 太陽光発電事業の保険は普及しつつある
9 パネルのメーカーや保険加入を融資条件(基準)とされている

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太陽光パネル設置の土地利用形態は賃貸借,地上権など

1 太陽光発電設置,運用に関してはトラブルのケアを事前にしておくと良い

太陽光発電の導入,稼働の場面では,事前に生じるトラブルのリスクを把握しておくと良いです。
販売,設置する業者にとっても,購入者(ユーザー)にとっても有用です。
太陽光発電における法的な問題の概要を説明します。
個々の内容について順に説明します。

<太陽光発電装置導入におけるトラブルの例>

あ 設置自体が適切ではなかった類型(後記『2』)

(あ)屋根が太陽光パネルの重量に耐えられない
(い)アンテナ・木による影響(影)を考慮しないで設置
(う)北側の屋根に設置
(え)パネルの性能不足(→劣化)
(お)降雪→日照(照射)不足

い 事後的な状況変化により不備が生じた類型(後記『3』)

(あ)日照阻害による発電量減少
(い)太陽光発電の電圧が配電線電圧に『押し負ける』→売電できない現象
(う)政府による『買取金額』の変更(再エネ特措法3条8項)

う 設置後の運用上の不備(後記『4』)

(あ)発電ブランク時間発生
(い)メンテナンスの不備
(う)不可抗力によるリスク

え 周囲への被害(後記『5』)
お 電力会社が電力購入契約拒否

電力会社が電力購入契約を締結することが売電事業の必須の前提です。

2 太陽光発電設置自体が適切ではなかった類型(『あ』)

具体的には次のようなトラブルの可能性があります。

<太陽光発電設備設置トラブルの例>

屋根が太陽光パネルの重量に耐えられない →補強なしで設置→雨漏り
アンテナ・木による影響(影)を考慮しないで設置 →発電量不足
北側の屋根に設置 →発電量不足
パネルの性能不足(→劣化) →発電量不足
降雪→日照(照射)不足 →発電量不足

パネルの性能不足については,近年着目されています。

<PID現象|太陽光パネルの出力低下現象>

多くの太陽光パネルを直列にする
→高電圧で接続
→発電量が減少する現象

実験では,最大の出力低下は最大で90%と測定されています。

<責任を負う者>

・施工,販売業者
 法的構成=瑕疵担保,説明義務違反

3 事後的な状況変化により不備が生じた類型(『い』)

太陽光発電設備を設置した後は長期間の管理・運用が続きます。
いろいろな状況が変化します。
それにより『売電』が減ったり,できなくなったりするリスクもあります。
詳しい内容は別記事で説明しています。
詳しくはこちら|太陽光発電の売電減少リスク|出力抑制・バンク逆潮流の解禁・電力会社の接続義務

4 設置後の運用上の不備(『う』)

(1)発電ブランク時間発生(上記『(あ)』)

PCS(パワーコンディショナー)の停止後の再稼働操作の遅れ

<PCSの仕様上の制約>

系統連系している電力網の状態を常に監視し,出力を調整をする
停電や瞬停時には出力を停止する
晴れていても売電できない
例;1MWであれば1か月500万円程度の損失が生じる

売電の停止を防げない
これ自体は使用上の制約であり不可抗力

PCS停止後の復帰(再稼働,再起動)までの時間(スピード)が重要

<家庭用PCS>

停止後の自動復帰の機能が組み込まれている
例えば150秒後に自動的に復帰する

<産業用PCS>

自動復帰は認められていない

復帰のために必要なこと>

あ 人

電気主任技術者の資格を持った人

い 動作

現場に行き,手動で運転開始ボタンを押す

<法律による規制(保護)×事実上必須のシステム>

あ 法律上の規制

ア 対象となる発電所 出力50kw以上
イ 義務内容 2時間以内に現場に到着可能な場所に電気主任技術者を配置する
※電気事業法施行規則52条1項表『6』,2項,53条2項6号
※主任技術者制度の解釈及び運用(内規)6項

い 事実上必須のシステム

遠隔監視のモニタリングシステム
法律上は義務付けられていない
上記義務の履行のために事実上必要となる

<実際の『停止』の例>

停止回数 規模
6か月間で3回停止した 1.5MW
6か月間で1回停止した 820kw
45日間停止に気付かなかった(※1) 規模不明

※1 要するに,売電ブランク期間が45日間生じたという意味です。

(2)メンテナンスの不備(上記『(い)』)

PCSの寿命時に,メーカーが存続していない,または互換製品が提供されていない
修理→売電再開,までの期間

修理に赴くまでに1週間かかりますだとユーザーが困る,ということが生じます。
不具合により,売電できないという状態になっている場合,修理までの期間収入減少に直結するのです。
規模が1MWであれば,1週間が100万円以上に相当します。

(3)不可抗力によるリスク(上記『(う)』)

落雷その他の天災によるパネル,PCSの損壊→コスト負担

これは避けようがないリスクです。
保険に加入する,という選択肢もあります。

<責任を負う者>

あ 責任を負う者

施工・販売業者

い 法的構成

瑕疵担保,説明義務違反

5 周囲への被害(『え』)

太陽光の反射がまぶしいというケースがありました。

<太陽光発電×『まぶしい』被害>

あ 受忍限度|判断要素

次の事情を総合的に考慮した
ア まぶしさの強度イ 照射の時間ウ 回避措置

い 裁判所の判断

受忍限度を超えていない
→損害賠償請求を認めなかった

う 自主的なパネル撤去

訴訟係属中に太陽光発電パネルが自主的に撤去された
このことも『回避措置』として考慮事情に含まれていた
※東京高裁平成25年3月13日

<責任を負う者>

あ 設備保有者

法的構成=人格権侵害

い 施工,販売業者

法的構成=瑕疵担保,説明義務違反

6 太陽光発電に関するトラブルで施工・販売業者が責任を負うことがある

以上の各種トラブルの際に,生じる可能性のある法的責任をまとめておきます。
ここでは,類型,法的構成のみ整理しておきます。

<太陽光発電のトラブルにおける法的責任の類型>

あ 瑕疵担保責任

対象者=施工,販売業者
具体的アクション=解除,損害賠償,修補請求

い 説明義務違反

対象者=施工,販売業者
具体的アクション=解除,損害賠償請求

う 日照権侵害

対象者=日照阻害をする者
具体的アクション=建築差し止め,損害賠償請求

7 太陽光パネル設置の際全員が理解するとトラブル予防になる

以上説明した太陽光発電に関する法的トラブルの予防策を説明します。

<太陽光発電設備の販売,設置におけるトラブル予防法>

ア ユーザー(購入者)のニーズを理解,把握するイ トラブルの可能性(リスク)を当事者全員が理解,認識するウ トラブル発生時のコスト負担者を合意する

それぞれの具体的内容を説明します。

(1)ユーザー(購入者)のニーズを理解,把握する(上記『ア』)

<一般的な太陽光発電システムに対するニーズ,購入動機>

太陽光発電が永続し,確実に売電により資金を回収できる

(2)トラブルの可能性(リスク)を当事者全員が理解,認識する(上記『イ』)

ユーザーは,ニーズ,メリットはよく把握していますが,リスクの理解が不十分である傾向があります。
そこで,施工,販売業者が説明することが重要と言えます。

<太陽光発電システム販売業者;推奨される説明内容>

投資金額の回収が不能となるリスクの具体例

具体的には,上記『1』〜上記『5』で説明した内容です。
一般的に,ユーザー(顧客)は,↓のような期待をしているのが通常です。
リスクを意識しないことが多いので,注意喚起のためにリスク説明をする,という意味です。

(3)トラブル発生時のコスト負担者を合意する(上記『ウ』)

設置施工,販売業者の『保証』,アフターメンテナンスの内容を明確化する,という意味です。
具体的には,施工,販売業者が契約書上に保証アフターメンテナンスを条項として規定しておくということです。

『保証』については,ほとんどのメーカーが無料で10年間の保証を付けています。
ただし,対象は,パネルの損傷のみであり,施工はカバーしていません。
これ以上の保証の拡大としては,メーカー推奨の保険やその他民間の保険ということになります。
施工,販売業者はこのような保険を勧めることも有用でしょう。
さらに,落雷や自然災害の場合の保証や保険についても明確化すると良いです。
もちろん,必要に応じて,ユーザーが保険に加入する機会を作ることが重要です。

<参考情報>

・週刊ダイヤモンド2011年08月06日号p55~
日経テクノロジーonlineにおける記事
メガソーラーに『停止』はつきもの、1カ月間以上、売電していなかった例も
日本PVプランナー協会理事(横浜環境デザイン社長) 池田真樹氏
金子憲治氏=日経BPクリーンテック研究所

8 太陽光発電事業の保険は普及しつつある

以上の説明のとおり,太陽光発電事業には一定のリスクがあります。
このリスクへの対応の1つとして『保険』があります。
最近は,保険商品も普及しつつあります。

<太陽光発電事業を対象とした保険商品の概要>

あ 補償される範囲

ア 売電収入の機会損失イ 自然災害 例;火災,落雷
ウ メーカー保証の喪失

い 保険会社

ア ミュンヘン再保険 ドイツの保険会社
イ 日本法人エーオンジャパン USAの保険仲介大手エーオンの日本法人である
ウ 双日インシュアランス

9 パネルのメーカーや保険加入を融資条件(基準)とされている

多くの太陽光発電事業では,金融機関の融資を利用しています。
この点,日本の金融機関は,次のような融資条件(基準)を用いています。

<日本の金融機関の一般的な融資条件(基準)>

次のいずれか
ア 日本製パネルを採用するイ 保険加入

このこともあり,日本製パネルを採用する事業においては,保険に加入しないで済ますことが多いです。
運用コスト削減となります。
しかし逆に,『海外製パネル+保険料』の方が,『日本製パネル』よりもコストを抑えられるケースもあります。
保険商品,太陽光パネルやPCSのテクノロジー進化・クオリティアップにより,より効率的な事業が普及することが望まれます。

<参考情報>

エコノミスト14年10月14日p44

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