【詐害行為取消権(破産法の否認権)の基本(要件・判断基準・典型例)】

1 詐害行為取消権の基本(要件・判断基準・典型例)
2 詐害行為取消権の要件(全体)
3 詐害性(客観的要件)の判断基準
4 形式的に適正でも詐害行為となる例
5 典型的な詐害行為となる取引の種類
6 詐害行為とならない典型的な行為
7 詐害行為取消権による取戻しの方法と事実上の優先弁済(概要)
8 詐害行為取消に関する処分禁止の仮処分(概要)
9 詐害信託の取消権の強化(概要)

1 詐害行為取消権の基本(要件・判断基準・典型例)

債務者が,意図的に財産を失うような行為をすると,弁済できなくなり,債権者が困ります。
ごく一般的な経済状況の悪化であれば,債権者の負うリスクの範囲内なので,是正,救済する必要はありません。
ただし,意図的,不当に債権者を妨害する目的で行った行為については是正する必要があります。
そこで,一定の詐害行為については,取消が認められます(詐害行為取消権・債権者取消権)。
なお,破産の手続において,手続前の一定の行為について否認する制度もあります(破産法160条)。
これらは基本的に同類の制度です。
以下,原則形態である詐害行為取消権を前提に説明します。

2 詐害行為取消権の要件(全体)

詐害行為取消権が行使できるのは,次に示すとおり,一定の不当な詐害行為,が対象です。
詐害行為とは,まず,客観的に経済的なマイナスが生じる行為のことです。このマイナスは実質的に判断されますので(後記),とても広い範囲の取引などがこれに該当します。
ただ,これだけで”後から取り消されることになるとすれば,あらゆる取引にリスクが潜んでいることになり不合理です。
そこで,その取引などの結果,債権者の債権回収が困難または不能となることを取引などの当事者が知っていたという主観面があって初めて詐害行為に該当します。

<詐害行為取消権の要件(全体)>

あ 被保全債権の存在

債権者が詐害行為の時点で債権を有していること

い 詐害行為(詐害性)の存在

ア 客観的要件(無資力要件) その行為(詐害行為)により,債務者が無資力になるorその無資力状態がより悪化すること
→当該行為によって,債権者が回収不能となった,ということ(後記※1
イ 主観的要件 債務者が債権者を害することを知って詐害行為を行ったこと
※民法424条
※『論点体系判例民法4』第一法規出版p125

この中の客観的要件の内容は少し複雑ですので,次に改めて説明します。

3 詐害性(客観的要件)の判断基準

詐害行為取消権の要件の中の客観的要件の一般的な判断基準を説明します。
最終的に債権者が害されることですから,一般財産の減少によって共同担保に不足が発生したか不足が増大した,というプロセスを経て,債権者への完全な弁済ができない状態に至ったという内容になります。

<詐害性(客観的要件)の判断基準(※1)

あ 詐害性判断基準(全体)

『い・う』の両方に該当する場合に詐害性が認められる

い 共同担保の不足の発生(増大)

債務者の財産処分行為によって,その一般財産が減少し,債権の共同担保に不足を生じ,もしくは既に不足している共同担保の不足が一層その程度を深めた

う 弁済への支障

『い』が理由となり,債権者に完全な弁済をすることができなくなった
※奥田昌道編『新版 注釈民法(10)Ⅱ 債権(1)債権の目的・効力(2)』有斐閣2011年p846

4 形式的に適正でも詐害行為となる例

前記の一般的な詐害性の判断基準では,財産の動きが全体として形式的にプラスマイナスゼロであれば,一般財産の減少にはならないので,詐害性が否定されるように思えます。しかし,実質的に弁済ができない状態になる可能性が高まっただけでも詐害性が認められることもあります。
例えば,売買を経済的に考えると,ある物権が失われ,代金を取得したことになります。評価額,金額が同一であれば,形式的にはプラスマイナスゼロ,つまり得も損もしていない,と言えそうです。しかし,現実的に代金回収不能というリスクが生じることもあります。つまりマイナスの効果が生じる可能性があるので,判例は詐害性を認めています。
売買以外にも,弁済・代物弁済も詐害行為となることがあります。

<形式的に適正でも詐害行為となる例>

あ 弁済(民法493条)

本旨弁済であっても詐害行為となることがある
※最高裁昭和33年9月26日
※最高裁昭和46年11月19日

い 代物弁済(民法482条)

相当価格(評価額)で債務を消滅させた場合でも
詐害行為にあたることがある
※最高裁昭和37年10月9日

う 売買(民法555条)

適正価格による売買であっても
詐害行為にあたることがある
※最高裁昭和39年11月17日

5 典型的な詐害行為となる取引の種類

実際に詐害行為取消権の対象となることがある取引の種類はある程度決まっています。

<典型的な詐害行為となる取引の種類>

あ 贈与

贈与により,対価なしで一方的に財産を失う
→典型的な詐害行為である

い 弁済

弁済は,経済的にはマイナスが消える効果がある
その意味ではトータルでプラスマイナスゼロといえる
しかし債権者平等を害するといえる
債権者を害するに該当することがある

う 遺産分割

遺産分割(協議)は,遺産の具体的な承継方法を決めるものである
詳しくはこちら|相続手続全体の流れ|遺言の有無・内容→遺産分割の要否・分割類型・遡及効
財産権を目的とする行為に該当する
※最高裁平成11年6月11日

え 財産分与(概要)

離婚に伴う財産分与は財産権を目的とする行為と考えられる
→詐害行為取消権の対象に含まれる
ただし特殊事情がないと詐害性が否定される
※最高裁昭和58年12月19日
詳しくはこちら|財産分与と詐害行為取消権(詐害性の判断基準と取消の範囲・対象)

6 詐害行為とならない典型的な行為

経済的な面からは取引のような感じもするけれど,詐害行為にはならない行為もあります。
相続放棄身分行為という性質があるので詐害行為にはなりません。
遺贈遺言者の単独の行為なので,取引という性質ではありません。そのため詐害行為には該当しません。

<詐害行為とならない典型的な行為>

あ 相続放棄

相続放棄は,身分行為という性格がある
財産権を目的とするという性格は薄い
→詐害行為取消権の対象にはならない
詳しくはこちら|相続放棄の効果・他の制度との関係|遺産分割・遺留分・特別受益・姻族関係終了

い 遺贈

遺贈遺言者の一方的な行為によるものである
取引とは性質が異なる
→詐害行為取消の対象にはならない
詳しくはこちら|相続債権者が想定外の遺贈で困った時の対応法;包括遺贈,対抗関係など

7 詐害行為取消権による取戻しの方法と事実上の優先弁済(概要)

詐害行為に該当する取引などの取消が認められた場合,本来であれば純粋に取り消された取引が行われる前の状態に戻すことになるはずです。
しかし,実際には金銭を直接債権者が受け取ることになり,結果的に優先弁済を受けたのと同じ状況になることがあります。
詳しくはこちら|詐害行為取消による取消の範囲・取戻しの方法と相殺による実質的優先弁済
そのため,複数の債権者が先を争って詐害行為取消権を行使する状況もあります。この場合,法的扱いには複雑なところもあります。
詳しくはこちら|複数の債権者による詐害行為取消権の行使(訴訟の併合・取戻しの執行)

8 詐害行為取消に関する処分禁止の仮処分(概要)

実務では,詐害行為取消権の行使(提訴)をする前に,取り戻す目的物を保全するために処分禁止の仮処分を利用することが多いです。
仮処分の手続は,他の債権者の動きも関係してくるので複雑になる傾向があります。
詳しくはこちら|詐害行為取消権のための保全(処分禁止の仮処分や仮差押)の基本

9 詐害信託の取消権の強化(概要)

信託契約を行うことが詐害行為となることもあります。この場合は,通常の詐害行為取消権よりも債権者が保護されています。つまり,詐害行為取消権の要件が緩和され,効果としても,効率的な取戻しの方法が認められているのです。
詳しくはこちら|詐害信託の取消権の強化(主観要件・取消対象・自己信託の特例)

本記事では,詐害行為取消権の基本的な内容を説明しました。
実際には,詐害性の基準にあてはまるかどうかの判断がはっきりしないケースも多いです。主張や立証次第で結果が大きく変わってきます。
実際に詐害行為(取消権)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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