【年金は差押禁止,年金入金後の預金は”差押禁止範囲変更”が可能】

1 年金の差押は禁止されている
2 年金が入金された預金の差押は原則的に可能
3 預金口座に入金された年金の差押は個別的に差押禁止とされることがある;差押禁止範囲の変更
4 差押禁止範囲変更の申立は債権者が払戻を受ける時まで
5 差押禁止範囲変更の申立→給付禁止命令

1 年金の差押は禁止されている

年金というのは,その全部が日々の生活の費用として使われるという趣旨のものです。
そこで,これを差し押さえると最低限の生活費が不足するということになります。
法律上,年金の受給権は原則として差押が禁止されています。
なお,税金の滞納による差押については例外的に一定の範囲で年金受給権の差押が認められています。
※国民年金法24条,厚生年金保険法41条

2 年金が入金された預金の差押は原則的に可能

年金は,銀行預金口座で受け取るということが多いです。
この場合,振り込まれて預金口座に入っているお金,が差し押さえられることがあります。
形式的には預金債権です。
年金の受給権ではないです。
つまり,年金でも,預金口座に入金された時点で,預金債権という性質に変わっているのです。
そこで,原則的に差押が可能です。

3 預金口座に入金された年金は差押禁止とされることがある|差押禁止範囲の変更

年金が入金され,『預貯金になった』瞬間に『差押禁止』のガードが外れた状態になります。
しかし実質的には『本来差押が禁止される財産』と言えます。
このような場合,『差押を受けない』ことにできる個別的な手続があります。

<個別事情により『差押禁止の範囲』を変える手続|差押禁止範囲の変更>

あ 差押禁止範囲の変更申立

債務者側から『差押禁止範囲の変更申立』を行う

い 裁判所の判断の基準

ア 実質的に『入金された給付金』であることが『特定』できるかどうか 預貯金の残額と入金額がイコールであれば
→実質的に『全額が給付金』と言える
→差押を禁止する方向性
イ 債務者の生活状況 差押の効力を解消しないと生活に支障が生じる
→差押を禁止する方向性
※民事執行法153条
※東京高裁平成22年6月29日
※神戸地裁平成20年1月24日

4 差押禁止範囲変更の申立は債権者が払戻を受ける時まで

差押禁止範囲変更の申立は,一定の時間的な限界があります。
債権者が取り立てを完了した時点以降は,差押禁止債権の範囲の変更は認められないとされています(東京地裁民事執行センター 『民事執行の実務』債権執行編(上)(第3版)323頁)。
つまり,差押債権者が,預金の払戻を受けた後,という意味です。
この時点では,仮に理論的に差押金債権の範囲を変更したとしても,債権者への返還請求が必要になります。
手続として禁止範囲の変更というカテゴリを逸脱してしまうのです。
結局,債権者の取り立てが完了する前ではないと差押禁止債権の範囲の変更は認められません。

5 差押禁止範囲変更の申立→給付禁止命令

銀行預金の差押に対して,すぐに差押禁止債権の範囲の変更の申立を行っても,審理に一定の時間がかかります。
一方,債権者が取り立て可能なタイミングは,債務者(金銭の借主)への差押通知送達の1週間後,とされています(民事執行法155条)。
差押禁止債権の範囲の変更の審理を行っているうちに(終わらないうちに),すぐに取立可能となってしまいます。
裁判所の審査中に債権者は取り立てをしてしまうとこの申立が無駄になります。
そこで,暫定的に差押(取立)をストップする制度があります。
裁判所が職権で給付禁止命令を出せることになっています(民事執行法153条3項)。
担保を立てることを条件にするかしないか,も裁判所の裁量となっています。
無資力を保護する制度に関連する申立については,申立人(債務者)が資力がないことが大前提です。
そこで,担保不要とされることが通常です。

本記事では,年金(受給権)の差押の禁止について説明しました。
実際には,例外もありますし,また,個別的な事情によっては差押禁止の範囲を変更することが認められます。
実際に年金の差押の問題に直面されている方は,本記事の内容だけで判断せず,専門家(弁護士)の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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