【ロケット・人工衛星プロジェクトに関する公的規制・法的問題】

1 ロケット,人工衛星のビジネス化
2 ロケットや人工衛星のプロジェクトに関しては多くの法規をクリアする必要がある
3 ロケット打上の民事的問題の具体例
4 JAXA・H2Bロケット打上差止請求訴訟
5 他国の領空の侵害(領空と宇宙空間の境界・概要)
6 宇宙活動のミスによる損害賠償の問題(概要)
7 宇宙開発の発展に伴う国際問題

1 ロケット,人工衛星のビジネス化

一般の会社や個人が通信用その他の人工衛星をロケットで打ち上げることは法律上可能です。
ロケットを打ち上げることそのものが法律上,明文的に禁止されていることはありません。

ただし,航空機の運行に支障を及ぼすおそれのある行為,として航空法上,通報が必要になる,など,いくつかの法律上の手続きが必要になります。
航空法以外の規制にも,該当するものがいくつかあります。

逆に,それらの手続きをクリアすれば,法律上の規制を受けない状態になります。
ロケットの打ち上げや人工衛星の運用は事業として民間で遂行することが可能なのです。
技術の進歩によって,運用自体のみならず,かつ,組み合わせるサービス(撮影した画像の提供など)のコスト削減・効率アップが革新的に進んでいます。
今後,ロケットの打ち上げ,人工衛星運用という事業は世界でポピュラーとなっていくと思われます。
その場合は,規制(法律)自体がロケット・人工衛星に関するものを集約させるような法改正(制定)されることが望まれます。
次のような悪影響を徹底して排除すべきだと思います。

<法律×科学 の悪い関係>

規制の複雑化・手続きの煩雑化

(日本での)技術開発へのブレーキ

科学の進歩へのブレーキ

(技術(者)の海外流出)

2 ロケットや人工衛星のプロジェクトに関しては多くの法規をクリアする必要がある

ロケット打ち上げ,人工衛星の運用,というプロジェクトについて該当する法律は,次のようなものになります。

(1)航空法の規制

<航空法の規制>

航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのあるロケットの打上げその他の行為に該当する
※航空法99条の2
地表または水面から150メートル,または250メートル以上の空域を飛行する
→国土交通大臣への通報が必要になる
※航空法施行規則209条の3,209条の4

(2)消防法の規制

<消防法の規制>

危険物の貯蔵,取り扱いに該当する
→消防長(消防署長)の承認が必要になる
※消防法10条

(3)火薬取締法の規制

<火薬取締法の規制>

あ 原則=許可必要

火薬類燃焼,爆発(消費)に該当する
※火薬取締法25条
→知事の許可(消費許可)が必要になる

い 火薬に該当しない例外=許可不要

火薬に該当しない推進剤を使用する場合は許可は不要である
例=液体燃料など
※火薬取締法2条(定義)

う 公益目的による例外=許可不要

理化学上の実験などの公益目的に該当する場合は許可は不要である
※火薬取締役法25条1項但書
ただし,現在の運用では,民間による事業についてはこの例外を適用しない傾向にある
民間でも,科学・技術推進に寄与することが明らかなので,この例外の適用をもっと拡げるべきである

(4)電波法の規制

<電波法の規制>

あ 原則=免許必要

(電波を用いる)無線局の開設(電波法4条)に該当する
→総務大臣の免許が必要になる

い 例外=免許不要

電波を用いないものでは免許は不要である
例=人工衛星ではなく,ロケット打ち上げのみ(実験)など

う 必要な機能

電波の発射(発信)を直ちに停止できることが必要である
※電波法36条の2

(5)その他の法規制

<その他該当する可能性がある規制類>

・高圧ガス保安法(昭和26年法律第204号)
・毒物及び劇物取締法(昭和25年法律第303号)
・労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)
・電気事業法(昭和39年法律第170号)
・船舶安全法(昭和8年法律第11号)
・大気汚染防止法
・水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)
・騒音規制法(昭和43年法律第98号)

(6)その他の手続(参考)

以上のような通常の規制とは別に,宇宙物体としての登録が必要になります。
また,民事的に差止請求を受けるリスクも挙げられます。

<その他の手続(参考)>

あ 宇宙物体登録条約に基づく登録

民間の人工衛星運用について
総務省・国土交通省・経済産業省が登録の業務を行っている
※宇宙物体登録条約1条,2条

い 民事的な差止請求

ロケット打ち上げの差止請求(仮処分)がなされた実例がある
騒音,危険性などを理由として主張された事例である(後記※1

3 ロケット打上の民事的問題の具体例

ロケットを打ち上げるプロジェクトについては,公的な規制以外に,民事的なケアも必要です。

<ロケット打上の民事的問題の具体例>

あ 差止請求

騒音や危険性を理由とするものです。
仮処分も含みます。

い 損害賠償請求

損害が生じたことを理由とするものです。

具体的な損害が生じなければ,最終的に訴訟に至ったとしても,当然,棄却されることになります。
ただし,差止の仮処分については,事前に損害が生じる可能性だけで発令されることがあります。
プロジェクト遂行における,一種の不意打ち伏兵となります。

4 JAXA・H2Bロケット打上差止請求訴訟

ではない差止請求訴訟が提起されたの実例を紹介しておきます。

<JAXA・H2Bロケット打上差止請求訴訟(※1)

原告 鹿児島県内でホテル・バス事業を行う企業
被告 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)
裁判所 鹿児島地方裁判所
請求内容 H2Bロケットの打ち上げ差止・損害賠償
主張概要 ホテルの所有権・営業権の侵害
※西日本新聞経済電子版平成25年1月12日

提訴は行われたようですが,認容されたという情報は見当たりません。
いずれにしても,一般的なリスクとして挙げました。
ロケット打ち上げプロジェクトの際は,当初より一定の配慮をしておくと良いでしょう。

5 他国の領空の侵害(領空と宇宙空間の境界・概要)

打ち上げたロケットは当然,上空を飛びます。
ここで,他の国の領空に入るとその国の主権を侵害したことになります。
ところで,領空は無限の高さまで続くわけではなく,一定の高さまでに限られます。つまり一定の高さより上は宇宙空間となり,各国の主権が及ばないのです。この境界(高さ)については,明確な国際法上のルールはありません。
一般的には地上から100キロメートル離れたエリアは領空ではなく宇宙空間として扱われます。
詳しくはこちら|領空(各国の主権)と宇宙空間の国際法上の扱いと境界の基準

6 宇宙活動のミスによる損害賠償の問題(概要)

打ち上げたロケットやそれ以外の宇宙活動でミスがあると,他の国に物体が落下してその国の国民(個人)や法人が損害を受けることもあります。
この場合の損害賠償責任については,特別な国際法上のルールがあります。
まず,ロケットを打ち上げたのが民間企業であっても,その企業が属する国の政府が賠償責任を負います。
損害賠償を請求する手続(交渉)は,被害者と加害者(の企業)がそれぞれ属する国同士の外交ルートを使って進められます。他の一般的な損害賠償の手続とは大きくことなる特別なルールがあるのです。
詳しくはこちら|宇宙活動による損害の賠償責任(国家への責任集中の原則・外交ルート)

7 宇宙開発の発展に伴う国際問題

現時点では,各国による宇宙開発によって熾烈な利害対立が生じることはあまりありません。
しかし,科学・技術が大きく進歩しています。
宇宙開発も飛躍的に進むと予想されます。
次のような利害対立,問題発生が想定されます。
宇宙開発の進度に応じて,国際的協議→明確なルール(条約)制定,という整備も進める必要があります。

<宇宙開発の発展に伴う国際問題>

あ 占有,専用

・静止衛星軌道を特定の国が占拠
→他国の利用が制限される
ラグランジュ点を特定の国が占拠
→他国の利用が制限される

い 危険発生

・スペースデブリの発生
→宇宙空間(静止衛星軌道)の利用が制約される

う 太陽光の照射妨害

・宇宙太陽光発電,太陽光の進路コントロール(地上の太陽光発電パネルに向けた反射)による太陽光横取り

え 地球以外の天体の利用(利益分配)

・例えば,月のヘリウム3をエネルギー源として利用する技術が確立した場合,その運用方法とエネルギー分配方法で利害対立が生じる

お プライバシー侵害,機密侵害

・キャメラの性能(解像度)が躍進的に高度化
→人工衛星から極度に鮮明な地上の画像が撮影できるようになる

本記事では,ロケットや人工衛星の打上や運用のような宇宙活動に関する全体的な法規制や法律問題を説明しました。
実際には個別的なプロジェクトの内容によって対応すべき法律問題は違ってきます。
実際のプロジェクトに関する問題については,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律問題をご利用くださることをお勧めします。

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