【刑事事件記録=捜査資料→民事手続での利用|開示手続|運用の傾向】

1 傷害・死亡事件×刑事事件記録開示手続|法整備
2 刑事事件の記録・証拠の種類|供述調書・実況見分調書など
3 傷害・死亡事件×刑事事件記録の開示範囲|傾向
4 傷害・死亡事件×刑事事件記録開示制度
5 少年事件×記録開示手続
6 物損事故の刑事事件記録開示手続
7 交通事故×刑事事件の記録取得プロセス
8 民事訴訟上の開示手続=文書提出命令・証拠保全
9 刑事手続×被害者の情報の秘匿

1 傷害・死亡事件×刑事事件記録開示手続|法整備

例えば暴行,傷害などの刑事事件の被害者が,加害者に対して損害賠償を請求することがあります。
この場合,警察が捜査した資料が,民事手続でも重要な証拠になります。
警察などの捜査機関が保有する資料=刑事事件記録,を入手する方法について説明します。

<刑事事件記録の民事手続での利用|過去の扱い>

あ 手続・制度

刑事事件の資料の閲覧・謄写の制度が整備されていなかった

い 背景にある考え方

ア 捜査資料は捜査・公判(刑事裁判)が目的であるイ 捜査資料は民事的手続のためのものではない

う 資料収集のハードル

民事手続において,刑事手続の資料の活用はほとんどできなかった
→独自に調査するなどして資料(証拠)を揃えないといけない状態だった

このように,損害賠償・慰謝料請求等の手続には大きなハードルが存在していたのです。
しかし,近年,徐々にこのハードルは解消されてきています。
資料の開示について,各種の法整備がなされてきているのです。
一定の範囲で刑事事件記録の閲覧や謄写が認められています。
順に説明します。

2 刑事事件の記録・証拠の種類|供述調書・実況見分調書など

刑事事件の手続で作成・収集される証拠にはいろいろなものがあります。
主なものは供述調書や実況見分調書です。
このような刑事事件の記録については別記事で説明しています。
(別記事『刑事事件の記録』;リンクは末尾に表示)

3 傷害・死亡事件×刑事事件記録の開示範囲|傾向

傷害や死亡事件・事故について,刑事事件記録の開示を受けられる範囲を説明します。

刑事事件の記録(資料)の開示請求については,その段階によって,制度(法律)が異なります。
開示の範囲も,法律上や運用上,一定の基準があります。
ただ,この基準は単純なものではありません。
個別的な事情によって,変わってきます。
運用上の裁量も大きいです。
大まかな傾向は次のとおりです。

<傷害・死亡事件×刑事事件記録の開示範囲|傾向>

あ 捜査中

原則として開示は認められない

い 起訴後〜刑事事件係属中

ア 原則論 被害者救済の一環として,弊害のない範囲で認められる
イ 促進的解釈|通達 第1回公判期日前でも弾力的に閲覧謄写に応じるべきである
※平成20年9月5日最高検通達

う 不起訴処分後

ア 客観的証拠 例;実況見分調書など
弊害のない範囲で認められる
イ 供述証拠 例;供述調書など
プライバシー,今後の捜査へのケアから,原則的に認められない

え 起訴→刑確定後

原則的に認められる

それぞれの開示手続の制度・法律については次に説明します。

4 傷害・死亡事件×刑事事件記録開示制度

傷害や死亡事件・事故の刑事事件記録の開示を受ける手続について説明します。

刑事事件記録の開示については,近年,法整備がされてきました。
状況によって,適用される(活用すべき)法律・制度が異なります。
また,開示申請(請求)の先も異なります。

<刑事事件×記録開示制度|法律>

あ 起訴後〜刑事事件係属中

開示請求先=刑事事件が係属する裁判所
※犯罪被害者保護法3条
※弁護士法23条;弁護士による照会

い 不起訴処分後

開示請求先=検察庁
※刑事訴訟法47条;趣旨

う 起訴→刑確定後

開示請求先=検察庁
※刑事訴訟法53条

5 少年事件×記録開示手続

『少年事件』の捜査の資料を入手する方法を説明します。
一般の『刑事事件』とは手続や開示を受けられる範囲が異なるのです。

少年事件の被害者については,少年法5条の2で,閲覧・開示の制度が規定されています。
弊害のない範囲で開示が認められます。
成年の場合(一般事件)よりも『少年の保護』という観点がある分,開示が否定される傾向があります。

<少年事件記録開示制度>

開示請求先=家庭裁判所
※少年法5条の2

6 物損事故の刑事事件記録開示手続

被害が『物損』にとどまる事故の場合,刑事事件記録開示の手続,範囲が異なります。

物損事故にとどまっている場合,事件の規模,つまり,損害の大きさが,一般的に人身事故よりも小さいです。
そこで,プライバシーとは関係ない客観的な資料の範囲で開示が認められることが多いです。
具体的には,物件事故報告書(物件見取図)という書面です。

<物損事故刑事記録開示制度>

開示請求先=警察署
※弁護士法23条の2;弁護士による照会

7 交通事故×刑事事件の記録取得プロセス

交通事故に関する刑事手続の記録の取得プロセスをまとめます。

<交通事故×刑事事件の記録取得プロセス>

あ 事故証明書に記載されている警察署への問い合わせ

ア 刑事記録が警察から検察庁に送致されたかどうかイ 送致された検察庁ウ 送致年月日エ 検番 検察庁内での管理番号

い 検察庁への問い合わせ

検察庁に電話をして『検番』を元に検索してもらう
ア 加害者の処分結果 終局処分=起訴されたor不起訴とされた
イ 裁判の結果 起訴された場合→裁判が確定したかどうか

弁護士からの照会に対しては,すぐに教えてくれることもあります。
あるいは,弁護士が依頼者(事故の当事者)からの委任状を提示した後に開示する,ということもあります。
交通事故について,警察への届出など,他の手続きは別に説明しています。
別項目;交通事故発生時の警察への届出義務;事故証明書

8 民事訴訟上の開示手続=文書提出命令・証拠保全

以上の方法で刑事事件記録開示を求めても,拒否されることがあります。
必要性が小さいプライバシーの保護を理由とした拒否は多いのです。
このような場合,裁判所を通した手続で開示を実現する方法があります。
民事裁判の裁判所を通して,警察や検察に開示請求をする方法です。

<文書送付嘱託申立>

あ 概要

民事訴訟の裁判所が,証拠を持つ者・機関に対して開示を請求する

い 発令の判断

裁判所が必要性の有無を判断する
具体的事情をもとにする
個別的に『審理(判断)のために必要か否か』を判断する

う 事前の開示手続とは別

例;民事訴訟の係属前は,必要性が明らかでなかった
→他の手段での開示請求が拒否された
→民事訴訟提起後に文書提出命令を申し立てた
→この時点では証拠が増えている
→刑事手続の記録の必要性・重要性がアップした
+『他には有力な証拠がない』
→文書送付嘱託が発令される
※民事訴訟法226条

<証拠保全>

あ 制度概要

訴訟提起前に,例外的に証拠の獲得だけを先行させる手続
※民事訴所法234条

い 警察や検察庁が保管している資料の場合

資料の改竄や隠滅などのおそれが認められない
→証拠保全は却下,となる傾向が強い

9 刑事手続×被害者の情報の秘匿

刑事手続の情報を開示することは『被害者保護』の一環とも言えます。
一方,情報の開示が被害者の不利益になることもあります。
被害者の氏名・住所などの個人情報です。
そこで,被害者に関する情報は『秘匿』するルールもあります。

<刑事手続×被害者の情報の秘匿>

あ 公開阻止=秘匿

一定の重大事件の場合
→『被害者特定事項』の公開を阻止=秘匿できる
平成19年刑事訴訟法改正により制度化された

い 被害者特定事項

被害者を特定できる情報
例;氏名・住所など
※刑事訴訟法290条の2

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