【いろいろな運送サービスの実例と運送事業(タクシー業)への該当性】

1 運送サービスの実例とタクシー業該当性(総論)
2 会員制とタクシー業該当性(概要)
3 間接依頼と運送サービス該当性
4 無許可業者への運送の発注(事案)
5 運送事業の主体の判断基準
6 運送を発注した業者の主体性判断
7 運送の発注と旅行業法違反(概要)
8 旅客or貨物事件

1 運送サービスの実例とタクシー業該当性(総論)

自動車の運送を有料で提供するとタクシー業として法規制の対象となります。
許可が必要となるなど,多くの具体的な規制が適用されます。
詳しくはこちら|旅客自動車運送事業(タクシーなど)の規制の全体像
サービス内容によっては,ストレートにタクシー業に該当するとはいいきれないものもあります。
実際に,多くの方がサービスモデルを工夫してタクシー業の規制にチャレンジしてきました。
本記事では,いろいろな運送サービスの形態とタクシー業の規制の関係を紹介します。

2 会員制とタクシー業該当性(概要)

自動車での運送サービスを『会員制』にすると,解釈が違っています。
『旅客自動車運送事業』に該当しない,という方向性になるのです。
ただし,最終的に該当しないことになるとは限りません。
これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|会員制・組合方式運送サービス×タクシー業該当性|判断基準=実質的独立性

3 間接依頼と運送サービス該当性

ドライバーと集客を別の事業者が分担した,というケースもあります。
ここでドライバーの視点では『需要に応じた運送』をしていないように感じます。
ユーザーの発注=需要に,直接的には対応していないからです。
しかし,裁判所は運送事業として規制が適用されると判断しました。
要するに集客が間接的だったというだけでは許可制を逃れられないのです。

<間接依頼と運送サービス該当性>

あ 『運送事業』否定方向の事情

A運輸株式会社の下請として,荷物を運んでいた
他の顧客・発注者の荷物の輸送はしていなかった

い 『運送事業』肯定方向の事情

貨物運送ルートは不定であった
例;大阪から東京・東京から長野・仙台から名古屋
支払額はA運輸が荷主から受領する運送賃のおおよそ9割であった
=約1割の天引
従業員の雇用・自動車の所有・管理・経費負担は下請業者であった

う 裁判所の判断

『事業者が利用者(荷主)から直接依頼を受けてはいない』という場合でも
『需要に応じた運送』に該当する
→『一般区域貨物自動車運送事業』に該当する
※仙台高裁昭和52年1月28日

4 無許可業者への運送の発注(事案)

ちょっと変わったケースとして『無許可の運送サービス業者』への下請けというケースがあります。
無許可で運送サービスを行った業者が違法になるのは当然です。
これとは別に『運送を発注した業者』の違法性が審理されました。
まずは事案を整理します。

<無許可業者への運送の発注(事案)>

あ 当事者

A=互助会法人
冠婚葬祭事業者である
B=下請業者
冠婚葬祭の参列者の運送についての専属的下請業者
運送に関する許可を得ていない

い 運送の委託

AがBにマイクロバスによる有償の旅客運送を委託した
※大阪地裁平成2年9月14日

5 運送事業の主体の判断基準

運送を発注した業者も『運送事業を行った』といえるかどうかを裁判所が判断することになります。
ここで,裁判所は判断基準を示します。

<運送事業の主体の判断基準(※1)

あ 構成要件

運送事業を経営する
→つまり『事業主』が行為主体・処罰対象である

い 『事業主』の解釈

自己の計算においてその事業を経営する者

う 『事業主』の判断要素|例

ア 収支の帰属イ 運行管理ウ 労務管理 ※大阪地裁平成2年9月14日

6 運送を発注した業者の主体性判断

裁判所は,前記の判断基準に沿って,事案を評価して判断しました。

<運送を発注した業者の主体性判断>

あ 裁判所の用いた判断基準

前記※1の判断基準を用いた

い 事案の評価

ア 資本上の関係はなかったイ 下請業者の管理が広く及んでいた ・車両の所有・管理
・従業員の雇用
・経費の支出
・交通事故の事後処理
・冠婚葬祭業者が顧客から自社サービス費用とは別に『旅費』を徴収していた

う 裁判所の判断(結論)

冠婚葬祭業者は『事業主』ではない→無罪
※大阪地裁平成2年9月14日

結論として『冠婚葬祭業者』は『運送事業を行った』とは言えない,ということになりました。
なお『幇助や教唆』という間接的な関与による犯罪,が成り立つかどうかは審査されていません。
詳しくはこちら|幇助犯・教唆犯|犯罪の手助け・そそのかしだけでも犯罪になる
実際にビジネスモデルを構築する際は注意が必要です。

7 運送の発注と旅行業法違反(概要)

前記の判例は運送事業に該当するかどうかが審理されました。
これとは別に運送の発注をすることが旅業法違反となることもあります。
運送サービスの代理・媒介・取次は手配旅行として旅行業法の規制対象なのです。
詳しくはこちら|旅行業法の基本(旅行業の定義・登録の要否)
実例として,ボランティアバスの手配が旅行業法違反として指摘された事例があります。
詳しくはこちら|NPOや自治体のツアーやバス手配は旅行業法違反の可能性あり(実例)

8 旅客or貨物事件

風変わりな理論の闘いを紹介します。
自動車で運んだものはかまぼこであり,人はオマケだったというような主張です。
奇襲作戦として分類されます。
結果として,高裁まで進みましたが,作戦失敗で終わりました。

<旅客or貨物事件>

あ 1回目の『運送』

旅客1名+手持ちの紙袋2個
かまぼこ約7本入りの紙袋+みかん三斤入りの紙袋

い 2回目の『運送』

旅客2名+手持ちの紙袋1個
重さ約3.5斤(2.1kgw)程度の物が入つた紙袋

う 営業中のターゲット

運転者は,町の中を流して営業中いつも上記程度の荷物を持った人を運送していた

え 裁判所の判断

『あ〜う』の行為について
いずれも『旅客』の運送に該当する
※福岡高裁昭和50年12月17日

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【自動車での運送サービスと法規制(全体)】
【旅客自動車運送事業(タクシー業)の規制の合憲性】

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