【「その他の財産権」に対する強制執行(趣旨・3要件・具体的財産の該当性)】

1 「その他の財産権」に対する強制執行(趣旨・3要件・具体的財産の該当性)
2 民事執行法167条の趣旨
3 「特別の定め」の例
4 「その他の財産権」に該当する要件(執行適格)
5 「その他の財産権」にあたる財産権の全体(概要)
6 「その他の財産権」にあたらず執行適格を欠くもの
7 特別法の物権(不動産執行による)
8 法整備未了の財(デジタル財)

1 「その他の財産権」に対する強制執行(趣旨・3要件・具体的財産の該当性)

民事執行法には,財産の種類ごとに差押(強制執行)の規定があります。最後に「その他の財産権」に対する強制執行の規定があります。
本記事では,「その他の財産権」の強制執行の規定の趣旨や,これに該当する要件,具体的財産について該当するかどうか,ということを説明します。

1 民事執行法167条の条文

最初に,民事執行法167条の条文を押さえておきます。この条文より前の規定で定めた財産権を,カッコ書きで「その他の財産権」と定義しています。このように明文規定のある財産以外の財産権をひとまとめにして,これ対する強制執行に適用されるルールを規定しています。

<民事執行法167条の条文>

(その他の財産権に対する強制執行)
第百六十七条 不動産,船舶,動産及び債権以外の財産権(以下この条において「その他の財産権」という。)に対する強制執行については,特別の定めがあるもののほか,債権執行の例による。
2 その他の財産権で権利の移転について登記等を要するものは,強制執行の管轄については,その登記等の地にあるものとする。
3 その他の財産権で第三債務者又はこれに準ずる者がないものに対する差押えの効力は,差押命令が債務者に送達された時に生ずる。
4 その他の財産権で権利の移転について登記等を要するものについて差押えの登記等が差押命令の送達前にされた場合には,差押えの効力は,差押えの登記等がされた時に生ずる。ただし,その他の財産権で権利の処分の制限について登記等をしなければその効力が生じないものに対する差押えの効力は,差押えの登記等が差押命令の送達後にされた場合においても,差押えの登記等がされた時に生ずる。
5 第四十八条,第五十四条及び第八十二条の規定は,権利の移転について登記等を要するその他の財産権の強制執行に関する登記等について準用する。

2 民事執行法167条の趣旨

もともと,財産権の種類は多く,また立法により創設されることもあります。そこで,民事執行法ですべての種類の財産権を規定する(網羅する)ことは現実的ではないので,最後に「その他」として受け皿を設定した,という経緯があります。

<民事執行法167条の趣旨>

あ 財産権の多様性(前提)

強制執行手続として規定された財産(不動産,準不動産,動産,債権)以外にも財産権は存在する
財産権は多種多様であり,社会経済の変遷に伴って,その価値が変動したり,新しい権利が出現する可能性もあるため,すべての財産権について個別具体的に強制執行の方法をあらかじめ定めることは煩雑であるのみならず,およそ不可能である。

い 包括的な規定

そのため,民事執行法167条は1項において,その他財産権に対する強制執行については債権執行の例による旨の概括的な規定をおくとともに,詳細な手続については法律や最高裁規則などの「特別の定め」に委ねるものとして,その他の財産権に対する執行を可能にしている
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1430,1431

3 「特別の定め」の例

民事執行法167条1項は,「その他の財産権」に対する強制執行に適用されるルールについて定めています。まず,「特別の定め」があればもちろんこれが適用されますが,「特別の定め」がなければ債権執行のルールが適用されます。ここで「特別の定め」としては,大きく5つのカテゴリの財産に関するものがあります。

<「特別の定め」の例>

あ 民事執行法167条2〜5項

権利の移転について登記等を要する権利について,管轄や差押えの効力の発生時期,差押えの登記嘱託についての特則

い 電話加入権関連

※民事執行規則146〜149条

う 権利移転の登記等を要する財産関連

※民事執行規則149条の2

え 振替社債等関連

※民事執行規則150条の2〜8

お 電子記録債権関連

※民事執行規則150条の9〜16

4 「その他の財産権」に該当する要件(執行適格)

「その他の財産権」とはいっても,すべての財産権がこれに該当するわけではありません。「その他の財産権」に該当するもの,つまり,強制執行(差押)ができる財産権とはどのようなものでしょうか。当然ですが,最終的に裁判所が債権の実現まで遂行できる必要があります。そこで,3つの要件を満たす必要があります。

<「その他の財産権」に該当する要件(執行適格)>

あ 独立性

それ自体単体で処分可能である

い 換価可能性

金銭的評価が可能である

う 譲渡性

譲渡が可能である
※深沢利一『民事執行の実務(中)3訂版』新日本法規p372〜
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1431(同趣旨)

5 「その他の財産権」にあたる財産権の全体(概要)

前記の3要件を満たす財産,つまり「その他の財産権」にあたり,(債権執行の手続に乗せて)強制執行をする対象となる財産権はどのようなものがあるでしょうか。
前記の明文の規定に登場する財産権はもちろん「その他の財産権」に該当します。それ以外にもいろいろな種類の財産権がこれに該当します。

<「その他の財産権」にあたる財産権の全体(概要)>

あ 明文規定のある財産権

電話加入権,振替株式を含む振替社債,電子記録債権

い 明文規定のない財産権

ア 不動産執行の対象とはならない不動産の利用権イ 知的財産権ウ 社員持分権等エ 信託受益権オ (ゴルフ)クラブ会員権カ 振替株式以外の株式 詳しくはこちら|強制執行の対象である「その他の財産権」にあたる財産権の種類

6 「その他の財産権」にあたらず執行適格を欠くもの

前記の3要件のいずれかを満たさない,つまり「その他の財産権」に該当しない財産権(権利)にもいろいろなものがあります。「その他の財産権」に該当せず,強制執行自体ができないというものをまとめます。

<「その他の財産権」にあたらず執行適格を欠くもの>

あ 独立性を欠く権利

『ア〜エ』は,独立した財産的価値がないので本条による強制執行の対象とはならないのみならず,そもそも執行適格を有しない
ア 形成権 取消権,解除権,解約告知権,選択権など
イ 財産管理権ウ 代理権エ 担保物権オ 登記請求権

い 身分法上の権利

権利を行使する前の財産分与請求権
権利を行使する前の遺留分侵害額請求権,遺留分減殺請求権

う 人格権

氏名権,肖像権など

え 一身専属権

扶養請求権
著作者人格権
※著作権法59条(一身専属性)

お 商号

商人の商号は財産権ではあるが営業とともにする場合でない限り譲渡できないために強制執行の対象とはならない

か 個人的色彩の強い財産権

雇用契約上の使用者の権利など

き 公法上の権利

国,地方公共団体その他の公法人のみが有し,かつ行使しうる一身専属的な公法上の権利は差押えの対象とはならない

く 包括的な財産権

ア 商人の営業(権) 詳しくはこちら|営業に関する差押対象物|差押対象物の要件=独立性・換価可能・譲渡性
イ 知的財産を実施する事業 ※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1435,1436

7 特別法の物権(不動産執行による)

なお,特別法により物権として認められているもの(財産権)は,不動産執行の対象となります。そこで,「その他の財産権」には該当しません。つまり債権執行のルールを適用することにはなりません。

<特別法の物権(不動産執行による)>

鉱業権,採石権,漁業権やダム使用権は,個別法によって物権とみなされ,不動産に関する規定を準用するものとされている
→民事執行法167条の財産権には該当しない
※漁業法23条1項
※鉱業法12条
※採石法4条3項
※ダム法20条
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1435

8 法整備未了の財(デジタル財)

「その他の財産権」として,あらゆる財産権を強制執行の対象から漏らさないようになっているのですが,限界はあります。
いわゆるデジタル財については,前記の3要件を満たすかどうか,また財産権に該当するかどうか,という問題もありますし,法令上の手続の規定がないと強制執行がうまく実施できないという問題もあります。

<法整備未了の財(デジタル財)>

あ 手続についての問題

電子マネーや仮想通貨などのに対する執行手続については整備がされていない
詳細な手続については解釈上または立法上の手当てが求められる
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』弘文堂2019年p1436

い 権利性の問題

仮想通貨は財産権を認める根拠を欠くと指摘されている
民事執行法167条1項の財産権には該当しないと思われる
詳しくはこちら|現行法の差押・破産・再生での仮想通貨の扱い(差押ヘイブン)

本記事では,「その他の財産権」の差押(強制執行)について全体的に説明しました。
実際には,個別的事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産の差押や強制執行に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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