1 債権回収での財産開示手続の活用の実例(総論)
2 過料の制裁発動後の再度の財産開示手続申立
3 過料制裁+役員責任追及訴訟提起(基本)
4 過料制裁+役員責任追及訴訟提起の実例
5 財産開示後の預金差押の実例
6 実質マイナスの預金の差押の実例
7 サラリーマン債務者への財産開示手続の活用

1 債権回収での財産開示手続の活用の実例(総論)

財産開示手続は実効性が弱いという印象を持つ方が多いです。
詳しくはこちら|財産開示手続の過料の制裁と債権回収としての実効性
しかし,一定の工夫や努力によっては,債権回収の実現につなげることもできます。
本記事では,実務の傾向や実例を紹介します。

2 過料の制裁発動後の再度の財産開示手続申立

過料の制裁を発動させても,そのままでは回収の実現にはつながらないでしょう。ここで再度財産開示手続を申し立てる,という手法があります。

<過料の制裁発動後の再度の財産開示手続申立>

あ 前提事情

債権者が財産開示手続を申し立てた
債務者は開示に応じなかった
債権者は過料の制裁発動の意見書を裁判所に提出した
裁判所が過料の制裁を発動した
詳しくはこちら|財産開示手続の過料の制裁と債権回収としての実効性

い 再度の財産開示手続申立

すぐに同一の財産開示手続を申し立てる
債務者が応じない場合の期間の制限はない
※民事執行法197条3項

う 債務者の対応の傾向

20万円程度の過料が延々と続くことを嫌う
→債務者によっては支払に応じる傾向がある
例;貸金業者について
→債務全額の支払に応じることがよくある
※『月報司法書士2016年11月』p26

3 過料制裁+役員責任追及訴訟提起(基本)

債務者が会社である場合は,役員個人に対する訴訟提起という手法もあります。まずは,この方法の理論的な基本的部分をまとめます。

<過料制裁+役員責任追及訴訟提起(基本)>

あ 前提事情

債権者が財産開示手続を申し立てた
債務者が財産開示手続を無視をした
=期日への出席・開示のいずれもしない
裁判所は過料の制裁を発動した

い 役員責任追及訴訟の提起

ア 基本的事項
債権者は役員責任追及訴訟を提起した
被告=株式会社の代表取締役(個人)
イ 訴訟の主張内容
代表取締役が民事執行法199条の規定に違反した
取締役の任務懈怠となる
その結果,債権者が債権を回収できなくなった
=損害の発生である
取締役は第三者(債権者)に対して損害賠償義務を負う
※会社法429条1項

4 過料制裁+役員責任追及訴訟提起の実例

過料の制裁の後に役員個人への提訴をする手法の実例を紹介します。うまくこれが影響して回収の実現につながったケースもあります。一方,判決までもつれ込み,理論的に認められない,つまり債務者が防衛に成功したというケースもあります。

<過料制裁+役員責任追及訴訟提起の実例>

あ 共通事項

会社の債務者について財産開示手続を申し立てた
債務者が財産開示手続を無視した
裁判所は過料の制裁を発動した
債権者は,債務者の代表者の役員責任追及訴訟を提起した

い 貸金業者の対応の傾向

代表者個人への訴状送達の直後において
次の提示がなされることがある
提示内容=訴訟取下を条件に債権全額を支払う

う ゴルフクラブの預託金返還請求の実例

代表者個人は弁護士に依頼し応訴してきた
次の内容で訴外和解が成立した
和解内容=債権額から若干譲歩した金額の返還を受ける
※『月報司法書士2016年11月』p27

え 役員の責任を否定する判決

役員責任追及訴訟について裁判所は次のような判断をした
債務者の代表者は,執行裁判所に対して,執行手続上,財産開示義務を負う
しかし取締役として会社に対して,職務上財産開示義務を負うわけではない
→請求を棄却した
※『月報司法書士2016年11月』p29

5 財産開示後の預金差押の実例

以上の事例はいずれも債務者が財産を開示しない,というものでした。実務では,債務者が開示に応じることもあります。そして,開示した財産に差し押さえるような財産がないということで行き詰まることが多いのです。
この行き詰まりを打開した事例を紹介します。まずは,行き詰まったところまでをまとめます。実際にここまではよくある状況です。

<財産開示後の預金差押の実例>

あ 財産開示手続の利用

債権者は財産開示手続を申し立てた
債務者(貸金業者)は財産内容を開示(陳述)した

い 開示された内容

債務者は数十億円の預金債権を保有している
債務者は金融機関に対して預金額を上回る負債がある
それ以外の客観的な資料,情報はない

う トライアル差押

債権者は主要取引銀行と思われる銀行の預金の差押を申し立てた
銀行(第三債務者)から『え』の陳述(回答)がなされた

え 銀行の回答内容

反対債権あり・将来相殺する予定がある
相殺した場合は弁済しない
※『月報司法書士2016年11月』p28

6 実質マイナスの預金の差押の実例

前記の事案において,その後,債権者側の工夫で回収の実現につながりました。

<実質マイナスの預金の差押の実例>

あ トライアル取立訴訟

債権者は,敢えて銀行への請求をしてみた
=取立訴訟提起である
※民事執行法157条

い 債務者と銀行の状況

債務者と銀行の関係は『ア・イ』の事情があった
ア 預金・反対債権の規模が大きい
イ 差押債権額が比較的小さい

う 銀行の判断

銀行は従来の取引状況を維持したいという意向であった
→相殺しないという判断をした

え 債務者の対応

債務者は次の内容を提示した
提示内容=取立訴訟の取下を条件に債務全額を支払う
※『月報司法書士2016年11月』p28

7 サラリーマン債務者への財産開示手続の活用

以上の事案は基本的に,会社である債務者が想定される手法でした。次に,債務者がサラリーマンである場合の活用事例を紹介します。

<サラリーマン債務者への財産開示手続の活用>

あ 事案

個人間の金銭の貸し借りがあった
返済が滞った

い 訴訟と財産開示手続き

債権者は貸金返還請求訴訟を提起した
認容判決を獲得した
債権者は財産開示手続を申し立てた
債務者は勤務先を開示した
他の資産はほぼゼロであった

う 給与差押

債権者は,給与債権を差し押さえた
一定の範囲内の回収が継続することになった
※『月報司法書士2016年11月』p28