【ドンキーコングJrの著作権の帰属(ドンキーコングJr事件)】

1 ドンキーコングJr事件(総論)
2 ドンキーコング元祖とJrの関係
3 Jrのプログラムの著作権の帰属
4 類似ゲームの映画の著作権の帰属の判断基準
5 ゲームタイトル・ネーミングの著作物性
6 キャラクターの概念
7 キャラクターの映像
8 展開される場面
9 著作権の帰属の判断(結論)

1 ドンキーコングJr事件(総論)

ドンキーコングJr事件では,このゲームの著作権の帰属について見解が対立していました。本記事では,ドンキーコングJrの著作権の帰属に関する主張や判断について説明します。
この前提となる,ドンキーコング(元祖)の著作権の帰属については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|ドンキーコングの著作権の帰属・著作者の刻印(ドンキーコングJr事件)
また,ドンキーコングJr事件では,一般的なゲームのプログラムの著作物としての性格も判断されています。
詳しくはこちら|ソフトウェア・プログラムの著作物性(ドンキーコングJr事件)

2 ドンキーコング元祖とJrの関係

ドンキーコングJrの著作権の帰属の見解が対立した要因はドンキーコング(元祖)との関係になります。元祖とJrの関係について整理しておきます。

<ドンキーコング元祖とJrの関係>

あ シリーズ性

ドンキーコングの続編として同Jrが制作された

い プログラムの関連

ア 基本的事項 ドンキーコングJrのプログラムについて
ドンキーコングのプログラムを原型としている
イ Jrの制作プロセス ドンキーコングJrの開発に当たり
任天堂はドンキーコングのプログラムを逆アセンブルした
具体的作業は岩崎技研工業株式会社に依頼した
ウ 流用率 メインルーティンはドンキーコングのものをそのまま流用した
バイト数(情報量)における流用率は66.3%である
(池上通信機株式会社の主張)
※大阪地裁堺支部平成2年3月29日;ドンキーコングJr事件

3 Jrのプログラムの著作権の帰属

ドンキーコングJrに関する著作権の判断の枠組みとして,対象を2つに分類しています。プログラムの著作物と映画の著作物の2つです。
最初に,プログラムの著作物についての著作権の帰属に関する判断をまとめます。

<Jrのプログラムの著作権の帰属>

あ 審理の状況

ドンキーコング・同Jrのソースコードについて
詳細な証拠調べ(審査)をしていなかった

い 裁判所の判断(評価)

『ア・イ』のいずれかが判断できない
ア 全体として翻案に及ぶイ 元のプログラムのアイディアを借用したに過ぎない

う 裁判所の判断(結論)

著作権の帰属を確定できない
※大阪地裁堺支部平成2年3月29日;ドンキーコングJr事件

結果的に明確な判断ができない,という結論になっています。
実は,ドンキーコングJr事件では『映画の著作権』の判断の方がメインとなっているのです。以下説明します。

4 類似ゲームの映画の著作権の帰属の判断基準

ドンキーコングJr事件では,類似するゲームについての『映画の著作権』の帰属の判断基準を示しています。まずはこの一般的な基準をまとめます。

<類似ゲームの映画の著作権の帰属の判断基準>

あ 前提事情

ゲームAの公表後にゲームBが公表された
AとBは似ている
Aの著作権者は,Bの著作権は自己に属すると主張している

い 判断基準(基本)

A・Bの思想的,感情的表現性などを比較・検討する
『う』の事情を中心に検討する
→同一性・類似性から判断する

う 主な判断要素

ア キャラクターの概念 各ゲームに登場するキャラクターの概念の同一性
イ キャラクターの映像 その概念を視覚的に表現した映像の類似性
ウ 展開と映像 両ゲームが展開される場面の映像
エ 展開とキャラクター 各場面に登場するキャラクターの映像と運動の仕方
※大阪地裁堺支部平成2年3月29日;ドンキーコングJr事件

5 ゲームタイトル・ネーミングの著作物性

前記の判断基準を元に,ドンキーコングJrの著作権の判断の説明を続けます。最初に,タイトルやネーミングについての類似性の検討内容をまとめます。

<ゲームタイトル・ネーミングの著作物性>

あ ドンキーコングという名称の由来

有名なドンキーホーテとキングコングをすぐに想起させる
これらを連結している

い ドンキーコングという名称の効果

ドンキーコングの語について
『頓馬なゴリラ』とでもいうべき概念を言語的に巧みに表現している
ドンキーコングのゲームのイメージを極めて象徴的に表現している

う 裁判所の判断

名称自体に著作物性を認めることはできない
→同一性・類似性判断の1要素となるに過ぎない
※大阪地裁堺支部平成2年3月29日;ドンキーコングJr事件

6 キャラクターの概念

ゲームに登場する人物や動物などの『キャラクター』の概念(コンセプト)についての検討内容をまとめます。

<キャラクターの概念>

あ ドンキーコングのストーリー

ア ゴリラ 『ドンキーコング』という名である
レディを拘束(監禁)している
イ 1人の人間男性(マリオ) レディを奪い返しに行く

い ドンキーコングJrのストーリー

ア 親ゴリラ 親ゴリラが囚われの身となっている
イ 子ゴリラ=Jr 親ゴリラを奪い返すために奮闘する

う 裁判所の判断

概念上の同一性が存する
※大阪地裁堺支部平成2年3月29日;ドンキーコングJr事件

7 キャラクターの映像

登場キャラクターの見た目(ビジュアル・映像)について比較して検討した内容をまとめます。

<キャラクターの映像>

あ Jrの主人公(Jr)

子ゴリラの映像である
子ゴリラという概念を視覚的に表現している
ドンキーコングには登場しない
ドンキーコング・ジュニアのゲームの中にのみ現れる

い 裁判所の判断

Jrに独特のものである
→創造的な視覚表現である
※大阪地裁堺支部平成2年3月29日;ドンキーコングJr事件

8 展開される場面

展開される場面,つまり画面全体の風景・イメージの検討内容をまとめます。

<展開される場面>

あ ドンキーコングの場面

建物の建設工事現場を主たる場面としている

い Jrの場面

主としてジャングルor密林のような場面で展開されている

う 裁判所の判断

観念的にも映像的にも全く別個のものである
※大阪地裁堺支部平成2年3月29日;ドンキーコングJr事件

9 著作権の帰属の判断(結論)

以上の検討結果をまとめて,ドンキーコングJrの映画の著作物としての著作権は任天堂に帰属すると判断されています。

<著作権の帰属の判断(結論)>

あ 同一であるor類似する点

『ア・イ』のキャラクターの概念・映像は同一性or類似性がある
ア 親ゴリラ=『ドンキーコング』イ 1人の人間男性=マリオ

い 異なる点

ゲームが展開される場面の映像・キャラクターの映像・運動の仕方について
→観念的にも映像的にも互いに異なっている

う 著作物としての同一性の判断

両ゲームの間には全体として同一性が認められない
→映画の著作物としては別個独立のものである
=ドンキーコングと比べてもJrは個性的な創作性を有する

え 映画の著作権の帰属

Jrの映画の著作権について
任天堂がその創作によって原始的に取得した
→任天堂に帰属する
※大阪地裁堺支部平成2年3月29日;ドンキーコングJr事件

なお,この裁判の当時,既に任天堂はドンキーコング3(初代ファミコン・ゲーム&ウオッチ)をリリースしていました。しかし,全体的に似ているところは少ないために著作権の帰属についてトラブルが具体化していないと思われます。

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