1 ソフトウェア不正使用の法的責任(概要)
2 事案内容
3 当事者の主張
4 裁判所の判断
5 全体的な経済的負担の状況

1 ソフトウェア不正使用の法的責任(概要)

ソフトウェアは一般的に著作物であり,著作権の対象となります。当然,不正な使用は著作権侵害となり,いくつかの法的責任が生じます。
詳しくはこちら|著作権・著作者隣接権の侵害の法的責任(全体)と提案内容
本記事では,ソフトウェアの不正使用に対する民事責任,具体的には損害賠償に関する裁判例を紹介します。
損害額の算定について見解の対立が生じて,裁判所が判断を示したものです。
法律系の資格の予備校LECが不正にソフトウェアをインストールしたという事例です。そこでLECインストール事件などと呼ばれています。

2 事案内容

まずは事案の主要な内容をまとめます。

<事案内容>

あ 不正使用者=被告

資格試験予備校LEC
本記事では『L』と称する

い 主要な対象ソフト・著作者
著作者=原告 ソフトウェア 名称
マイクロソフト 表計算ソフト Excel
アップル 画像処理ソフト MacDraw
アドビ 編集ソフト PageMaker

※略称を用いている

う 不正使用と事後対応

Lはソフトウェアを違法にインストールして使用した
Lは訴訟係属後にソフトウェアの正規品を購入した
※東京地裁平成13年5月16日;LECインスコ事件

3 当事者の主張

当事者の見解が対立したからこそ裁判となったわけです。それぞれの当事者の主張はいずれも考え方としては理解できるものです。

<当事者の主張>

あ 原告の主張

損害額の算定には懲罰的な趣旨を含めるべきである
損害額は正規品小売価格の2倍相当額である

い 被告の主張

ア 事後的な料金支払
正規品の購入を済ませている
→過去の違法であった使用分も遡ってカバーされる
→賠償すべき損害額はゼロである
イ 類似ケースとの不均衡
損害額をゼロとしないと次のケースと比べて不均衡が生じる
・当初から正規品を購入したケース
・最後まで正規品を購入しなかったケース
※東京地裁平成13年5月16日;LECインスコ事件

4 裁判所の判断

当事者の主張を前提として,最終的に裁判所が判断を示します。

<裁判所の判断>

あ 損害額確定時期

違法にプログラムをインストールして複製した時点において
→損害額が確定する
その後に正規品を購入しても損害額は変動しない

い 不均衡の有無

他のケースとの違いは結果的に生じるものである
不均衡とはいえない

う 懲罰的損害賠償の可否

損害額は正規品の販売価格相当額である
懲罰的な趣旨でこれより増額することはできない
※著作権法114条3項

え 結論

正規品の販売価格相当額の賠償請求を認めた
=約8500万円である
※東京地裁平成13年5月16日;LECインスコ事件

5 全体的な経済的負担の状況

前記の判決内容だけでは全体の結論・状況がうまく理解しにくいです。経済的な負担という視点でまとめてみます。

<全体的な経済的負担の状況>

あ 判決内容

Lは原告に対して正規料金約8500万円を支払う

い 判決以外の負担

Lは『あ』以外に正規料金約8500万円を負担していた

う 結論

Lは正規料金の2倍を負担する結果となった
※東京地裁平成13年5月16日;LECインスコ事件

判決では懲罰的なペナルティは否定されています。しかし,経済的にはLECは正規料金の2倍を支払った結果となりました。
逆に,一般論として『著作権侵害では法的な責任は料金の2倍』というわけではありません。ここの部分は誤解が生じやすいところです。