1 近年の不当広告と規制の進化(総論)
2 昭和42年までの法規制の状況
3 昭和42年宅建業法改正による広告規制の新設
4 昭和50年頃の不動産の不当な広告
5 悪質な開発見通し説明の拡がり
6 アドオン方式の特徴
7 昭和55年宅建業法改正による広告規制の拡充
8 昭和58年頃の不動産の不当な広告
9 不当な広告が多い原因・理由
10 昭和61年以降の囲い込み定着現象(概要)

1 近年の不当広告と規制の進化(総論)

不動産の広告や表示については,さまざまな規制・ルールが多くあります。
詳しくはこちら|不動産取引の不正な広告や表示の規制(全体)
このようなルールは必要性があったから作られました。逆に言えば,不当な広告やセールスの普及とルール作りが並行して進んできたということです。
本記事では,不動産に関する近年の広告規制が進んだ経緯について説明します。

2 昭和42年までの法規制の状況

昭和42年に宅建業法による広告規制ができます。規制が新設されるということは,不当な行為が拡がっていたはずです。時計の針を過去に戻します。

<昭和42年までの法規制の状況(※1)>

あ 宅建業法による規制なし

誇大広告などの禁止の規定がなかった

い 景品表示法

ア 基本事項
景品表示法が昭和37年に制定された
公正取引委員会による排除命令の制度があった
イ 不都合性
排除命令には次のような不都合があった
→規制の効果が実現しにくかった
・あらかじめ聴聞の手続を要する
・排除命令が確定するまでには30日を要する
・命令が確定する頃には目的物の取引が完了している

う 軽犯罪法

不正な広告の内容によっては軽犯罪法に該当する
販売に際して欺いたor誤解させるような事実を挙げて広告をした
※軽犯罪法1条34号
しかし,罰則は軽いものである
罰則の内容=勾留or科料

拘留 刑事施設への拘置1日以上30日未満 刑法16条
科料 1000円以上1万円未満 刑法17条

→規制としての実効性がなかった
※斎藤和夫『宅地建物取引業法の一部改正に伴う虚偽誇大広告禁止規定の新設について』/『捜査研究16巻11号』東京法令出版p150〜

3 昭和42年宅建業法改正による広告規制の新設

前記のような不当な広告を抑制するために,宅建業法に規制が作られます。

<昭和42年宅建業法改正による広告規制の新設>

あ 改正時期

昭和42年(第5次)改正
初めて宅建業法の中に広告の規制が制定された

い 広告規制新設の趣旨

制定前の不都合(前記※1)を解消する目的であった
※斎藤和夫『宅地建物取引業法の一部改正に伴う虚偽誇大広告禁止規定の新設について』/『捜査研究16巻11号』東京法令出版p150〜

4 昭和50年頃の不動産の不当な広告

規制ができると新たにこれを回避するようなセールス方法が開発されます。前記の法改正後にも『抜け穴』が見付けられ,横行するようになりました。

<昭和50年頃の不動産の不当な広告>

あ 社会的な状況

住宅地の開発が進んでいた
交通機関が大きく発展していた
多くのエリアで環境が大きく変わりつつあった
住宅ローンの普及・発展が進んでいた

い 誤解を招く広告の拡がり

『ア・イ』のような広告が拡がりつつあった
ア 開発の見通し・予想の過剰アピール
開発により将来値上がりが確実であることをアピールする
→投資目的での物件購入(販売)について
不当に高い値段で買わされることになる(後記※2)
イ ローン金利のアドオン方式表示
実質金利よりも有利であるという誤解を生じる(後記※3)

この時点で横行した不当な広告テクニックの内容は次に説明します。

5 悪質な開発見通し説明の拡がり

開発の見通しを説明すること自体は問題ないことです。しかし,オーバーなセールストークをしてしまう傾向は古今東西変わりません。ちょうど当時の日本全国開発ラッシュという状況が重なって被害が続出していたようです。取締強化の掛け声が記録として残っています。

<悪質な開発見通し説明の拡がり(※2)>

あ 投資物件の詐欺的セールスの拡がり

主に投資目的の不動産販売において
悪質・不当な誘引をする広告が多発していた

い 典型例

市街化調整区域・市街化区域の見直しについて
暗に表示する
真実に合致しない内容である

う 撲滅の方針

悪質なセールス・広告について
→積極的に告発手続をとる方針である
法の趣旨を徹底すべきである
※昭和55年12月1日計動発100号計画長通達

6 アドオン方式の特徴

ちょっと変わったところに『抜け穴』ができていました。金利表示で『アドオン方式』を使うと見かけ上低金利になる,というマジックのような方法です。算数的な仕組みは単純です。

<アドオン方式の特徴(※3)>

あ 基本事項

ローンの金利についての表示の方式である

い アドオン方式の内容

借入元金全額に金利率を乗じる(支払総額)
支払総額を,返済回数で除する
これを1回の支払金額とする

う 残債方式(比較)

一般的な金利の表記方式は『残債方式』である
『残債務』に一定金利を乗じた金額の利息が発生する

え アドオン方式による誤解の発生

まったく同じ内容のローンについて
『アドオン方式』と『残債方式』の金利表示を比べると
『アドオン方式』の金利は『残債方式』の約2分の1となる

7 昭和55年宅建業法改正による広告規制の拡充

前記のような不当セールス撲滅のために規制が強化されるに至ります。

<昭和55年宅建業法改正による広告規制の拡充>

あ 改正時期

昭和55年(第8次)改正
規制される広告内容が拡大された

い 改正前の表示規制の項目

ア 宅地or建物の所在
イ 規模
ウ 形質
エ 利用の制限
オ 環境
カ 交通の利便
キ 対価の金額or支払の方法
対価の内容=代金,借賃など

う 改正による表示規制の追加

ア 将来における利用の制限,環境,交通その他の利便
不当な見通しの説明(前記※2)の規制が追加された
イ 金銭の貸借のあっせん
ローン金利の表示方法(前記※3)の規制が追加された

8 昭和58年頃の不動産の不当な広告

不当行為と規制は両方が並行して発展する運命にあります。
公的な記録として,昭和58年頃の時代の不動産の広告の調査結果があります。媒体としては新聞が中心です。現代から考えると時代の変化を逆に感じるものです。

<昭和58年頃の不動産の不当な広告>

あ 調査機関と時期

総務庁行政監察局
調査実施時期
昭和58年4月〜6月

い 調査結果の概要

新聞広告・新聞折込広告について
不適切な表示内容が多い

う 数値的な結果

18都道府県の新聞折込広告について
59.4%に表示規約違反が存在した

え 主な表示不足の項目

ア 工事完了年月日
イ 道路の復員
ウ 最寄駅から物件までの交通手段別所要時間
エ 物件所在地
オ 工事の概要
※昭和59年9月『宅地建物取引に関する行政監察結果報告書』総務庁行政監察局p25

9 不当な広告が多い原因・理由

総務庁の調査では,昭和58年頃の不動産業界の不正について,その原因を分析しコメントしています。

<不当な広告が多い原因・理由>

あ モラルレベルが低い

宅建業者には法令の遵守観念が不足している者が多い

い 表示規約の周知不足

不動産公正取引協議会の会員業者間において
表示規約が周知徹底されていない
新規参入業者などが中心である

う 掲載前のチェック不足

新聞広告はチェックが徹底している
折込広告は事前に十分なチェックが行われていない
※昭和59年9月『宅地建物取引に関する行政監察結果報告書』総務庁行政監察局p31,35

10 昭和61年以降の囲い込み定着現象(概要)

以上の法改正で不正が撲滅されるわけはありませんし,実際にまだまだ健在です。現在では『広告』以外にも問題が拡がっています。代表的なものは,囲い込みという不正です。『公然の秘密』と言える状況になっています。
このような不正は不動産流通システムの構造的な要因があります。双方受託が許容されている,というのが根本的要因の1つとして挙げられています。
詳しくはこちら|仲介業者の不正・双方受託×公的提言・法整備
なお,不動産流通に関する不正や問題点の全体的な事項については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|仲介業者の不正|全体|片手と両手・両手の誘惑・ダブル両手