1 不動産流通業界の暗黙の販売促進費用
2 販促の金銭の名目あれこれ
3 管理会社・オーナーの立場から見たAD
4 仲介業者の立場から見たAD
5 仲介業者にとってのADの功罪
6 成約アップの方法あれこれ
7 『広告料』名目で『礼金』横取り事件

1 不動産流通業界の暗黙の販売促進費用

不動産の流通業界ではある種の『販売促進費用』が蔓延しています。法律の規制と食い違うようなものでありながら,表面化していません。
行政の肥大化に伴うありがちな現象です。
詳しくはこちら|行政の肥大化・官僚統治|コスト・ブロック現象|小規模事業・大企業
まずは販売促進費用の正体を特定します。

<不動産流通業界の暗黙の販売促進費用>

あ 厳しい上限規定(前提)

仲介手数料は上限が規定されている
詳しくはこちら|不動産売買・賃貸の仲介手数料(報酬額)の上限(基本)
 例外的な上乗せ費用も認められるが厳しく限定されている
詳しくはこちら|不動産売買・賃貸の仲介手数料(報酬額)の上限の例外

い 業界の実情

流通業界では実質的な違反行為も存在する模様である

う 仕組み

管理会社(オーナー)が仲介業者に販売促進の金銭を支払う
仲介業者の営業マン個人が受け取ることもある
販売促進の費用の形式・名目にはバラエティーがある(後記※1)
営業マンは,意欲的に熱意を持って,この物件の成約を目指す
『なりぎまり』を理想とする

え なりぎまり(業界用語)

1つ目の候補物件の内見だけで成約すること

お 成約アップの方法

古典的なものがいくつか存在する(後記※3)

2 販促の金銭の名目あれこれ

販売促進の金銭は,本来,宅建業法で禁止されているものです。そこで,表面的な名目には工夫がほどこされています。業界用語のバラエティーを紹介します。

<販促の金銭の名目あれこれ(※1)>

あ タンボー

『担当者ボーナス』を略した業界用語である
販売促進のための『心付け』という趣旨である

い AD(エーディー)

次のようなデリケートなニュアンスが込められている
ア 本来の広告費とは違うものである
イ 『適法な追加費用』である広告費を名目だけ流用する

う 特別営業費

ややストレートな名称

以下,主に,言いやすい『AD』という言葉を使います。

3 管理会社・オーナーの立場から見たAD

ADという慣習の存在からいろいろなことが見えてきます。流通業界のプレイヤーごとの立場におけるADの意味合いをまとめます。
最初に,管理会社・オーナーのサイドにおけるADの意味を考えてみましょう。

<管理会社・オーナーの立場から見たAD>

あ ADの意味合い

物件の魅力が低いとADに頼ることになる
=高いADで選んでもらうしかない
物件の魅力を高める施策が足りない場合
→ADが跳ね上がっていく

い ADの功罪

賃貸サービスの共有者間の競争
=『物件の魅力=入居者への提供価値』のアップ
ADはこれ(魅力アップ)を止めてしまう

4 仲介業者の立場から見たAD

仲介業者の立場からADを見てみましょう。もらえて良かった!という単純なものではありません。

<仲介業者の立場から見たAD>

あ 究極の選択

入居候補者へ推奨する物件の判断について
次のどちらを優先するか迷う状況が生じる
ア 物件の魅力
イ ADの高さ

い ADの功罪

AD(『イ』)を優先した場合
→いろいろな効果やリスクが生じる(後記※2)

ADが及ぼす効果・現象は内容が多いので,次にまとめます。

5 仲介業者にとってのADの功罪

ADが仲介業者に及ぼす影響という視点でまとめます。

<仲介業者にとってのADの功罪(※2)>

あ 直接的効果

その時点では利益が上がる
行政処分・損害賠償責任を負うリスクが一定程度存在する

い テナントリテンション

入居者の退去リスクが高い
テナントリテンションが最初から低い状態である

う 信用失墜

入居者・オーナー(顧客)の信用を失う
→マーケットで淘汰される方向性

え 人材的視点

営業マンが仕事へのやりがい・やる気を失う
→人材リテンションが下がる(退職が増える)

6 成約アップの方法あれこれ

不動産の仲介業では成約アップへの取り組みが行われます。これ自体は正しい方向性で使命とも言えます。しかし,中には行き過ぎ,つまり違法なものもあります。

<成約アップの方法あれこれ(※3)>

あ 詐欺タイプ=錯誤誘引

入居候補者に,他の物件よりも優良であると強調する
適正な根拠はない場合は違法となる
例;ADが高い物件(というだけの理由)

い 承認欲求充足タイプ

(仮に入居候補者が自身で指摘した物件である場合)
入居候補者が『選んだ目』を褒める
当該物件を褒める
例;『さすが,◯◯の点をよくご理解されていますね』

う 引き回し差分法

内見の順序を工夫する
例;高スペック(予算オーバー)な物件
→低スペックな物件
→本命の物件

『あ』は違法となることがあります。それ以外は一般的には適法なセールスの範囲内,と言えるでしょう。

7 『広告料』名目で『礼金』横取り事件

AD,つまり広告料という名目は違法な金銭のやりとりで流用(悪用)されることがよくあります(前記)。ここで,同じ悪用でも,ちょっと変わった悪用が問題となったケースを紹介します。仲介業者が『料金の上限規定』と闘ってきた痕跡とも言えます。アイデア・企画名人とも言える新商品でしたが裁判所に止められました。

<『広告料』名目で『礼金』横取り事件>

あ 事案

ア 礼金支払合意
賃借人が賃貸人に礼金を支払う合意
イ 礼金取得合意
賃借人から賃貸人が受領した礼金について
→仲介業者が『広告料』名目で取得する合意

い 裁判所の判断

『あ』の『ア・イ』の両方について
→宅建業法の報酬の上限・広告料の制限を潜脱するものである
→違法である
→いずれの合意も無効である
※東京地裁平成25年6月26日