【提訴前証拠収集処分制度(種類・裁判所の判断基準・申立書の記載事項)】

1 提訴前証拠収集処分の前提条件
2 提訴前証拠収集処分の内容・種類
3 証拠収集処分を認めるかどうかの判断
4 収集困難性の判断
5 提訴前証拠収集処分の申立書の記載事項
6 提訴前証拠収集処分の審理のプロセス
7 提訴前証拠収集処分の証拠化
8 提訴前証拠収集処分の回答拒否・不服申立

1 提訴前証拠収集処分の前提条件

本記事では提訴前証拠収集処分の制度について説明します。これは,平成15年の民事訴訟法改正によって作られた制度の1つです。
詳しくはこちら|提訴前照会・証拠収集処分の制度の基本と提訴予告通知
提訴前証拠収集処分を利用するにはその前に『提訴予告通知』が必要です。このような前提条件について整理します。

<提訴前証拠収集処分の前提条件>

あ 申立ができる者

ア 提訴予告通知を行った者イ 提訴前照会に対して回答をした者

い 期間

予告通知日から4か月以内

う 証拠収集処分

『あ』の者は『い』の期間内に
後記※1の証拠収集処分を地方裁判所に申し立てることができる
※民事訴訟法132条の4第1項,2項,132条の5第1項

2 提訴前証拠収集処分の内容・種類

一定の手続を行えば,提訴前証拠収集処分の申立ができます。この内容である証拠収集方法には種類があります。これをまとめます。

<提訴前証拠収集処分の内容・種類(※1)

あ 文書送付嘱託
い 調査嘱託

調査を官公署や民間の団体に嘱託する

う 専門家の意見陳述の嘱託

専門的な知識経験に基づく意見の陳述を嘱託する

え 執行官による現況調査

現況について調査を命ずる
例;物の形状,占有関係など
※民事訴訟法132条の4第1項

3 証拠収集処分を認めるかどうかの判断

証拠収集処分を申立があると,裁判所が認めるかどうかを審理・判断します。判断基準をまとめます。

<証拠収集処分を認めるかどうかの判断>

あ 証拠収集処分の判断

次のすべてに該当する証拠について
→証拠収集処分が認められる
ア 訴訟における立証に必要であることが明らかであるイ 申立人が自ら収集することが困難である(後記※2ウ 『相当でない』もの(『い』)ではない

い 『相当でない』事情の例示

ア 収集に要すべき時間が不相当となるイ 嘱託を受けた者の負担が不相当となる ※民事訴訟法132条の4第1項

4 収集困難性の判断

証拠収集処分が認められるための要件の1つが,証拠収集の困難性です(前記)。証拠収集の困難性の判断基準についてまとめます。

<収集困難性の判断(※2)

あ 『収集困難』の基本的な解釈

証拠の性質上,申立人が自ら単独で収集することが困難なもの

い 弁護士会照会との関係

弁護士照会によることが可能なものについて
→証拠収集処分を認めることに消極的である
※東京弁護士会『LIBRA Vol.8』p19;東京地裁の運用について

う 『収集困難』の疎明資料

弁護士会照会の拒否事例集
弁護士会照会を実際に行い拒否された回答書
※民事訴訟規則52条の5第2項5号,6項

弁護士会照会が可能であれば弁護士会照会を行うべきであるという考え方の傾向があります。弁護士会照会については別に説明しています。
詳しくはこちら|弁護士会照会|基本|公的性格・調査対象・手続の流れ

5 提訴前証拠収集処分の申立書の記載事項

以下,提訴前証拠収集処分を行う手続について,順に説明します。
まずは,申立書の記載事項をまとめます。

<提訴前証拠収集処分の申立書の記載事項>

あ 書面による申立

証拠収集処分は書面によって申立をする
※民事訴訟規則52条の5第1項

い 共通する記載事項

ア 相手方の氏名or名称,住所イ 求める処分の内容ウ 提訴予告通知に請求の要旨・紛争の要点エ 証拠の必要性 ・立証予定の事実
・これと求める処分によって得られる証拠との関係
オ 証拠を自ら収集することが困難である事由カ 期間制限に関連する事情 次のいずれかの事情
・提訴予告通知の日から4か月以内に申し立てたこと
・この期間経過後の申立について相手方の同意があること
※民事訴訟規則52条の5第2項

う 求める処分の種類ごとの記載事項
求める処分の種類 記載事項
文書送付嘱託 文書の所持者の居所
調査嘱託 嘱託を受ける官公署などの所在地
専門家の意見陳述の嘱託 特定物の所在地(※3)
執行官による現況調査 調査対象物の所在地

※3 特定物についての意見の陳述を嘱託する場合
※民事訴訟規則52条の5第3項

6 提訴前証拠収集処分の審理のプロセス

提訴前証拠収集処分は,裁判所が審理・判断します。判断基準は前記にて説明しました。ここでは,審理のプロセスについてまとめます。

<提訴前証拠収集処分の審理のプロセス>

あ 審理

裁判官面接が行われることもある
相手方からの意見聴取を行う
※民事訴訟法132条の4第1項
※東京弁護士会『LIBRA Vol.8』p19

い 発令

裁判所が次の2つに該当すると判断した場合
→申立の内容の処分を施行する
ア 申立ての要件を具備しているイ 必要がある

7 提訴前証拠収集処分の証拠化

証拠収集処分の結果,書面として回答がなされれば,これを証拠として使える状態になります。しかし,自動的に訴訟における証拠となるわけではありません。当事者が証拠にするために謄写などを行う必要があるのです。

<提訴前証拠収集処分の証拠化>

あ 書面による回答

証拠収集処分が施行された場合
→書面で回答がなされる
※民事訴訟法132条の6第2項

い 証拠化

当事者は,回答の書面・資料を謄写する
→これを書証として提出する
※民事訴訟法132条の7第1項

8 提訴前証拠収集処分の回答拒否・不服申立

提訴前証拠収集処分が証拠獲得まで達成するとは限りません。嘱託先が回答を拒否するとか,裁判所が認めないということもあり得ます。
また,提訴前証拠収集処分が認められた場合,申立の相手方としては,裁判所の判断に納得できないこともあります。
このような場合は,いずれも,現実的な是正手段はありません。
回答拒否の実務的扱いや不服申立についてまとめます。

<提訴前証拠収集処分の回答拒否・不服申立>

あ 嘱託先の拒絶

嘱託先など回答・開示を拒否している場合
→裁判所は申立人に取下を求めることがある

い 不服申立

提訴前証拠収集処分に関する裁判所の判断について
→当事者は不服申立をすることができない
※民事訴訟法132条の8

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【提訴前照会制度(利用場面・回答義務と除外事項・照会書の記載事項)】
【実務における遺留分権行使の方法(通知の工夫や仮差押・仮処分)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00