【資金受入れの対象者の限定と『不特定多数』の判断に関する事例】

1 『不特定多数』と親族の混在(事案)
2 『不特定多数』と親族の混在(解釈)
3 退職公務員連盟と『特定』判断(事案)
4 退職公務員連盟と『特定』判断(解釈)
5 商品展示テナントと『特定』判断(事案)
6 商品展示テナントと『特定』判断(認定)
7 株主相互金融方式と『特定』判断(概要)

1 『不特定多数』と親族の混在(事案)

資金提供者が不特定多数の者である場合に限って『預り金』の規制が適用されます。この点,親族は『特定』の者の典型です。ここで,資金提供者の中に親族以外の者と親族が混ざっていたケースがあります。判例は,親族も含めた資金提供者全体について,預り金禁止の違反に該当すると認めました。
まずは事案の内容をまとめます。

<『不特定多数』と親族の混在(事案・※1)>

あ 被告人A

A単独による預り金の受入行為
資金受入をしていた期間=約1年10か月間
資金受入をした場所=91箇所
資金提供者=133名
受入額=合計2287万3720円
約定利率=月利3〜30%

い 被告人A・B

A・B共謀による預り金の受入行為
資金受入をしていた期間=約1年11か月間
資金受入をした場所=77箇所
資金提供者=112名
この中に次の親族が含まれていた
Bの弟の妻・従弟・従妹・妹・甥・母
受入額=合計2101万4400円
約定利率=月利3〜10%
※最高裁昭和36年4月26日

2 『不特定多数』と親族の混在(解釈)

前記の事案について,裁判所は『預り金』と認めました。

<『不特定多数』と親族の混在(解釈)>

あ 事案の概要

『不特定かつ多数の者』から預り金を受け入れた
資金提供者の中に,集金者の親族が少数含まれていた(前記※1

い 解釈論

たまたま資金提供者の中に少数の親族を含んでいた場合
→敢えてこれを除外すべきではない

う 結論

親族を含む全員からの集金について
→『預り金の受入れ』行為に該当する
※最高裁昭和36年4月26日

3 退職公務員連盟と『特定』判断(事案)

退職公務員連盟という団体の会員限定で金銭の受入れが行われたケースがあります。受入れの対象者が限定しているので『不特定』ではないという主張がなされました。
判例は最終的に『不特定かつ多数』に該当すると判断しています。
まずは,事案の内容を詳しくまとめます。

<退職公務員連盟と『特定』判断(事案)>

あ 預り金の規制施行前

『産業経済会』の名義で預り金をしていた
資金提供者=佐賀県退職公務員連盟の会員
連盟の会員数=約3500名

い 預り金の規制施行後

産経株式会社Aを設立した
Aの借入金名義で約束手形と引き換えに金銭を受け入れた
連盟会員を対象に預り金を受け入れた

う 連盟の会員の状況

連盟への加入・脱退について
→制限はない=自由である
→会員は必ずしも固定していない

え 資金提供者の範囲

資金提供者は,連盟会員が主体であった
しかし,会員の親族・知人なども含まれていた
※最高裁昭和37年12月18日;佐賀県退職公務員連盟事件

4 退職公務員連盟と『特定』判断(解釈)

上記事案についての判例の判断内容をまとめます。形式的に『会員限定』でも,規模が大きく,メンバーが流動的であったことが『不特定』という判断につながっています。

<退職公務員連盟と『特定』判断(解釈)>

あ 『不特定かつ多数』の判断

会員数約3500名は多数である
集金者と資金提供者の間に格別の個人的つながりなどはない
=個別的な認識を持つ関係になかった
→『不特定かつ多数の者』と言える

い 『預り金』の判断

集金者はミシン販売の事業を行っていた
しかし資金受入の目的はミシン販売事業ではなかった
受け入れた金銭の利殖方法としてこの事業を行ったのである
→『出資金』ではなく『預り金』である
※最高裁昭和37年12月18日;佐賀県退職公務員連盟事件

5 商品展示テナントと『特定』判断(事案)

資金提供者が『テナント』に限定されていたというケースがあります。テナントとは,商品展示サービスの顧客のことでした。まずは事案の内容をまとめます。

<商品展示テナントと『特定』判断(事案)>

あ 商品展示・販売サービス

Aは次の内容の商品展示場を運営していた
ア カプセルボックスをテナントに賃貸するイ カプセルボックスにテナントの商品を展示するウ テナントの商品の販売委託を受ける

い 出資制度の運用

Aは以下の内容の『出資制度』を始めた

う 出資勧誘の対象者

ア テナントとなっていた者イ 来店した一般客多数

え 出資と配当の仕組み

期限=1年間
資金提供者が資金を出資する
事業者が資金を運用する
利益を資金提供者に配当する

お 集金者の説明内容

Aは資金提供者に次のような説明をしていた
ア 1年後に間違いなく元金を返還するイ 中途解約も自由にできる・元金は保証するウ 利益配当の予測は月15%程度である

か 集金実績

資金提供者=51名
受入額=合計8798万円
※東京高裁昭和55年9月11日;スペース・スリーナイン渋谷店テナント事件

6 商品展示テナントと『特定』判断(認定)

上記事案について,裁判所は『不特定多数』に該当すると判断しました。誰でも会員となることができる,というように『限定』がほとんどないことが大きく影響しています。

<商品展示テナントと『特定』判断(認定)>

あ 資金提供者の範囲

資金提供者はテナントに限られていた

い テナントの属性の判断

テナントとなった者について
→宣伝に応募した家庭の主婦やOLなど
例;新聞広告など
→一般大衆である
→『不特定かつ多数の者』に該当する

う その後の上告

最高裁は上告を棄却した
→控訴審の判断が維持された
※東京高裁昭和55年9月11日;スペース・スリーナイン渋谷店テナント事件

7 株主相互金融方式と『特定』判断(概要)

『株主相互金融方式』という金銭授受のシステムについて預り金禁止違反が判断されたケースがあります。形式的には資金受入れの対象者が限定されています。しかし,会員の流動性が高いことから『不特定多数』に該当すると判断されました。

<株主相互金融方式と『特定』判断(概要)>

一定の会員に限定される
会員限定で金銭の授受が行われる
金銭の支払の名目にはバラエティーがある
『会員』自体が流動性が高い
→『不特定』が否定された
=預り金禁止違反が成立した
※東京高裁昭和30年7月14日;旧貸金業取締法について
※東京高裁昭和42年6月7日;旧貸金業取締法について
詳しくはこちら|資金受入れの名目と『預り金』判断に関する事例

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