【宅建業者の不動産評価額(評価根拠)の調査・説明義務】

1 宅建業者の不動産評価額(評価根拠)の調査・説明義務
2 不動産取引における評価額の重要性(前提)
3 不動産の評価に関する宅建業者の調査義務
4 宅建業者に評価額の調査義務を認めた裁判例
5 宅建業者の評価額の調査方法
6 宅建業者の評価額調査(査定)と不動産鑑定の違い
7 評価額根拠説明義務違反の効果(行政責任)
8 宅建業者の評価額の調査の不備による責任
9 会社+営業マンの責任を認めた実例
10 宅建業者の評価額の調査の不備と売買契約の解消

1 宅建業者の不動産評価額(評価根拠)の調査・説明義務

不動産売買の仲介(媒介・代理)をする宅建業者は,売買金額の妥当性についてアドバイスをする立場にあります。売買代金についての提案に不備があった場合,法的責任が発生することがあります。
本記事では,宅建業者による不動産の評価額の調査義務や説明義務について説明します。

2 不動産取引における評価額の重要性(前提)

売買契約成立後に「値段を間違えたのでやり直ししてくれ」ということは原則としてできません。たとえば後から,「3000万円で売る契約書に調印したけど,よく考えたら安すぎた。相場は5000万円だと分かった。白紙に戻してくれ。」ということは通用しません。
売買契約が成立すると,売主・買主ともに契約内容に拘束されるのです。
なお,一定の範囲内で,手付放棄手付倍返しによって解除するという方法が使えることはあります。
別項目;履行の着手までは,手付解除により無条件に契約を解消できる
このように,不動産取引の当事者(売主や買主)は,契約締結前に,売買金額が適切・妥当であるかをしっかりと判断する必要があるのです。不動産の評価額は非常に重要なのです。

3 不動産の評価に関する宅建業者の調査義務

前述のように,不動産の取引(売買)では,売主,買主のどちらにとっても売買代金額は非常に重要です。そこで,プロとして取引に関与する宅建業者は,依頼者に対して金額についてアドバイスをします。
しかし,原則として,宅建業者が負う調査義務の中に不動産の評価額は含まれません。一方で,事情によっては調査義務が認められる,つまり,宅建業者が行った調査や説明によって法的責任が認められる実例もあります。
また,宅建業者が依頼者に評価額についてアドバイスをする時には,なぜその金額が妥当だと判断できるのか,という根拠も示すことが必要とされています。

<不動産の評価に関する宅建業者の調査義務>

あ 原則

宅建業者(仲介業者)が負う調査義務の調査範囲には,原則として不動産の評価(額)は含まれない
詳しくはこちら|不動産売買における調査・説明義務の基本(一般的基準)

い 例外

個別的事情によっては,宅建業者が評価額の調査・説明義務が認められることもある(後記※1

う 宅建業法上の評価額根拠説明義務

宅建業者が依頼者に売買価格や評価額について意見を述べる時根拠を明らかにする
※宅建業法34条の2第1項2号,2項

4 宅建業者に評価額の調査義務を認めた裁判例

前述のように,一般的には宅建業者は評価額の調査義務を負いません。しかし,調査義務を認めた裁判例もあります。
このケースでは,宅建業者が所有者に対して強く売却を提案していて,所有者がそのような強いセールスに押し切られるように売却するに至ったという事情がありました。このような経緯も影響しているとも思えます。

<宅建業者に評価額の調査義務を認めた裁判例(※1)

有償で不動産売買を仲介する者は,あらかじめ依頼者により指値を指示されて仲介を委任された場合などにはその内容に差異があろうが,そのような場合を除き,原則として,善良な管理者としての注意義務をもって,取引相場価格の調査をなし,依頼者の利益となるような売買条件の策定に向けて努力する義務を負うものと解するのが相当である。
※東京地判平成元年3月29日

5 宅建業者の評価額の調査方法

宅建業者が不動産の評価額を計算する際に使う,価格調査マニュアルがあります。ただし,機械的に計算式にあてはめると評価額が算出される,という単純なものではありません。
実際には,近隣の取引事例も使います。対象となる不動産から距離的に近い・時間的に近い(最近)という売買事例を参考にするのです。
取引事例のデータは,レインズ(REINS;指定流通機構;宅建業法50条の3等)というネットワークに蓄積されています。レインズのデータは宅建業者が共有しています。一般の方に公開されてはいません。
複数の取引事例から,個々の取引の特殊事情による影響を差し引いて,平均的な条件における価格(坪単価)を算定するという方法を用います。

<宅建業者の評価額の調査方法(※2)

意見の根拠としては,価格査定マニュアル(財団法人不動産流通近代化センタ
ーが作成した価格査定マニュアル又はこれに準じた価格査定マニュアル)や,同種の取引事例等他に合理的な説明がつくものであることとする。
※国土交通省『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』令和3年4月23日改正−第34条の2関係−4(1)

6 宅建業者の評価額調査(査定)と不動産鑑定の違い

不動産の評価について資格を持っている不動産鑑定士は,正式な鑑定を業務にしています。正式な鑑定の書面を鑑定書とか鑑定評価書と呼んでいます。もっと正確に言えば不動産鑑定評価法に基づく鑑定評価書です。
当然,評価自体が業務(依頼)内容なので,鑑定費用が必要です。
一方,宅建業者が依頼者への情報提供・説明の一環として行う評価は,このような正式なものではありません。
そこで,宅建業者が評価について書面を作成する場合,鑑定書鑑定評価書ではないことを明記することとされています。
評価という用語を用いると紛らわしいので査定(書)というタイトルを付けることもよくあります。
そして,宅建業者が行う調査は仲介(媒介や代理)業務の一環です。仲介手数料に含まれるので,別に調査の費用を請求すると宅建業法違反となることがあります。

<宅建業者の評価額調査(査定)と不動産鑑定の違い>

あ 調査方法の違い(前提)

不動産鑑定は不動産鑑定士が行い,不動産鑑定評価法を用いる
宅建業者の評価額調査(査定)では,価格査定マニュアルを用いる(前記※2

い 混同防止措置

根拠の明示は,口頭でも書面を用いてもよいが,”書面を用いるときは,不動
産の鑑定評価に関する法律に基づく鑑定評価書でないことを明記する”とともに,・・・
※国土交通省『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』令和3年4月23日改正−第34条の2関係−4(1)②

う 査定の費用(否定)

ア 基本 根拠の明示は,法律上の義務であるので,そのために行った価額の査定等に要した費用は,依頼者に請求できないものであること。
※国土交通省『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』令和3年4月23日改正−第34条の2関係−4(1)③
イ 宅建業者の報酬額の規制(前提) 宅建業者は仲介手数料(報酬)とは別に別の名目で報酬を請求することが制限されている
詳しくはこちら|不動産売買・賃貸の仲介手数料(報酬額)の上限(基本)

7 評価額根拠説明義務違反の効果(行政責任)

売買価格,評価額の根拠説明義務の違反については,罰金などのストレートな罰則は規定がありません。
都道府県知事や国土交通省大臣による監督処分の対象となります。
具体的内容としては,指示処分業務停止処分が規定されています(宅建業法65条)。
詳しくはこちら|宅建業者に対する監督処分の基本(種類・対象行為)
実際にこれらの処分が発動されるかどうかは,個別的な事情によって判断されます。
なお,極端なケース,例えば騙したと言える程悪質な場合は,刑法上の詐欺罪に該当することもあります。

8 宅建業者の評価額の調査の不備による責任

宅建業者の提案した評価額で不動産を売却した後,相場より安かったことが分かった場合,売主は損失を被ったといえます。買主が相場よりも高い金額を相場金額であると説明されてこの金額で買ってしまった場合も同様です。
状況によっては,不法行為として損害賠償責任が認められることもあります。また,宅建業者の報酬請求が認められない,ということもあります。

9 会社+営業マンの責任を認めた実例

不当な勧誘した仲介業者(会社)とその代表者個人に連帯責任を認めた裁判例もあります。現実の相場の約10倍の評価額を示したセールスについての裁判例を紹介します。

<会社+営業マンの責任を認めた実例>

あ 取引の背景

別荘用に適する土地の売却
直ちに利用することは目的としていない

い セールストーク

開発計画・工場の進出・交通の利便により
→近い将来の土地の値上りが確実である
大幅に値上がりするかの如く断定的な説明をした
1年後の転売を確約した
→出資分の回収が容易であるかのように誤信させた

う 現実

近い将来,土地の価格に影響を及ぼす事情・可能性は全くない
売買代金以上に値上がりすることは到底考えられない

え 異常な高値

ア 実際の評価 1坪約7300円(全体で22万円)イ 説明内容(虚偽) 1坪14〜15万円ウ 成約代金 1坪7万5000円(全体で225万円)

お セクシャル勧誘

ターゲット(買主)は若い独身男性である
若い女子従業員を使って関心を引いた
現地案内と同時に,現地に近い旅館で勧誘説得をくり返した
→十分な考慮の余裕を与えなかった

か 裁判所の判断

顧客獲得のための正常な宣伝,勧誘行為の範囲を著しく逸脱する
→違法なものというべきである。
他の多数の者にも同様の勧誘を行っていた
→会社は把握していた
→会社にも責任がある
※大阪地裁昭和63年2月24日

10 宅建業者の評価額の調査の不備と売買契約の解消

仮に仲介業者が不当な評価額をアドヴァイスしたために,不本意な金額で売買契約を締結してしまった場合には,当事者としては売買契約自体を解消(解除)したいところでしょう。
確かに,仲介業者による一種の詐欺に近い状態です。しかし,ストレートに売買契約が解消できるわけではありません。
まず,仲介業者(宅建業者)の義務違反売買契約の効力は別問題とされているからです。実質的に考えても,売主自信が騙したというわけではないからです。
逆に言えば,売主が仲介業者の詐欺に関連していた場合は,事情によっては,契約を解消することが可能になります。

本記事では,宅建業者による不動産の評価額の調査義務や説明義務について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産の取引に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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