1 おとり捜査|定義
2 おとり捜査×特別法
3 おとり捜査|解釈論|二分説|分類
4 犯意誘発型|解釈論
5 捜査の違法性→違法収集証拠排除
6 機会提供型|解釈論
7 平成16年最高裁|機会提供型→捜査は適法
8 昭和28年最高裁|機会提供型→捜査は適法
9 昭和29年最高裁|犯意誘発型→捜査は適法

1 おとり捜査|定義

捜査の方法として『おとり捜査』と呼ばれる手法があります。
本記事では『おとり捜査』の基本的事項を説明します。
まずは『おとり捜査』の定義を紹介します。

<おとり捜査|定義>

次のような捜査方法を『おとり捜査』と呼ぶ
捜査機関or捜査協力者が,犯罪を実行するように働き掛ける
身分や意図を相手方には隠す
相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで検挙する
※最高裁平成16年7月12日

『おとり』の表記として漢字=『囮』を用いることもあります。
『囚』=とらわれる,と並んで絵文字的要素が強い超象形文字です。
却って読みにくいと思いますの。
そこで,本記事では『おとり(捜査)』と表記します。

2 おとり捜査×特別法

おとり捜査は捜査の適法性が問題となります。
この点,特別法で一定の条件で『適法』と規定されているものもあります。
これについては別に説明しています。
(別記事『おとり捜査|特別法』;リンクは末尾に表示)
本記事ではおとり捜査の一般的な解釈論を説明します。

3 おとり捜査|解釈論|二分説|分類

おとり捜査の法的解釈は『二分説』が有力です。
文字どおり『おとり捜査』を2つに分類します。
まずは分類についてまとめます。

<おとり捜査|解釈論|二分説|分類>

あ 分類

犯意誘発型と機会提供型とに分類する

い 犯意誘発型

もともと相手方は犯罪意思がなかった
働きかけによって相手方に犯意を生じさせる

う 機会提供型

既に相手方は犯意を有している
働きかけによってその犯意が現実化する
※東京高裁昭和57年10月15日
※学説;多数説というわけではない
※山上佳子『新実例刑事訴訟法1・おとり捜査』p5〜

4 犯意誘発型|解釈論

二分説による『犯意誘発型』の解釈論をまとめます。

<犯意誘発型|解釈論>

あ 基本的評価

国家の干渉がなければ犯罪を行わなかった
→国家が犯罪を創り出したことになる
→操作は違法である

い 法的扱い|免訴

実体的訴訟要件が欠ける
→『免訴』すべきである
※刑事訴訟法337条類推
※団藤重光『新刑事訴訟法要綱』p159
※鈴木茂嗣『刑事訴訟法』p63

う 法的扱い|刑事手続の違法性

人格的自律権を侵害する
→捜査は刑事手続上違法である
※三井誠『刑事手続(1)』p89

5 捜査の違法性→違法収集証拠排除

捜査が違法である場合『証拠の扱い』にも影響があります。
『違法収集証拠』として『証拠能力』が否定される,という理論です。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|違法収集証拠|理論|判断基準・刑事と民事の違い

6 機会提供型|解釈論

二分説による『機会提供型』の解釈論をまとめます。

<機会提供型|解釈論>

あ 評価

『犯行の機会を与える』という作用にとどまる

い 法的扱い

捜査は刑事手続上適法である
犯罪成立については影響を受けない

こちらは大幅に『軽い』つまり適法な性格として扱われるのです。
次に,具体的事例における判例を紹介します。

7 平成16年最高裁|機会提供型→捜査は適法

機会提供型に相当する捜査が適法とされた判例を紹介します。

<平成16年最高裁|機会提供型→捜査は適法>

あ 事案

被告人が大麻の売却を意図していると思われる状況であった
捜査機関が取引の場所を準備した
捜査機関が大麻を買い受ける意向を被告人に伝えた
被告人がこれに応じて大麻を持参し,譲渡・交付した

い 裁判所の判断

捜査機関は犯行の機会を提供したに過ぎない
任意捜査として許容される
刑事手続上の違法はない
証拠能力も肯定される
※刑事訴訟法197条1項
※最高裁平成16年7月12日

8 昭和28年最高裁|機会提供型→捜査は適法

機会提供型に相当する捜査が適法とされた判例をもう1つ紹介します。

<昭和28年最高裁|機会提供型→捜査は適法>

あ 事案

被告人は大麻樹脂の譲渡を行った
被告人は当初より犯罪を実行する決意をしていた

い 裁判所の判断

捜査機関は犯罪実行の機会を与えたにとどまる
刑事手続上の違法はない
犯罪は成立する
麻薬取締法の規定とは関係ない
※最高裁昭和28年3月5日

9 昭和29年最高裁|犯意誘発型→捜査は適法

犯意誘発型に近い捜査方法についての判例です。

<昭和29年最高裁|犯意誘発型→捜査は適法>

あ 事案

捜査機関が一般人に協力を要請した
協力者は被告人に生阿片の取引斡旋を申し入れた
その後に被告人は取引に対する熱意が揺らいだ
捜査機関は協力者に再度取引を申し入れるよう要請した
協力者は被告人に『他の麻薬でもよい』などと言って申し入れた
被告人はこれに応じ,協力者に麻薬を譲渡・交付した

い 裁判所の判断

おとり捜査によって犯意を誘発された
犯罪は成立する
※最高裁昭和29年11月5日
※甲斐行夫『刑事訴訟法判例百選(第8版)・判批』p26

捜査は適法と判断されました。
裁判所は『二分説』を採用しなかったということです。