【『業』『営業』の解釈論(判例・行政見解・文献)の集約】

1 『業』『営業』解釈論|はじめに
2 独占禁止法の『事業』の条文と解釈(文献)
3 医師法の『医業』の解釈(判例)
4 貸金業法の『業』の解釈(概要)
5 銀行法の『営業』の解釈(文献)
6 金融商品取引法(金商法)の『業』の解釈(概要)
7 金融商品販売法の『業』の解釈(文献)
8 古物営業法の『営業』の解釈(判例)
9 資金決済法の『業として』の解釈(概要)
10 司法書士法の『業務』の解釈(判例)
11 出資法の『業として』の解釈(概要)
12 税理士法の『業』の解釈(概要)
13 宅建業法の『業』の解釈(概要)
14 旧たばこ専売法の『小売人』の解釈(判例)
15 動物愛護法の『業』の解釈(概要)
16 廃棄物処理法の『業』の解釈(文献)
17 旧薬事法の『業』の解釈(文献)
18 旅館業法の『営業』の解釈(概要)
19 旅行業法の事業性の解釈(通達)
20 商法の『業とする』の解釈(文献・参考)

1 『業』『営業』解釈論|はじめに

いろいろな法規制で『業』『営業』という定義が登場します。
詳しくはこちら|業法一般|『業』解釈論|基本|反復継続意思・事業規模・不特定多数
本記事では判例・通達・文献などの見解を集約・整理します。

2 独占禁止法の『事業』の条文と解釈(文献)

多くの事業の種類ごとの業法とは別に,一般的な事業の意味で『事業』という用語を使っている法律があります。それは独占禁止法です。そこで,最初に独占禁止法の『事業』の解釈について紹介します。
他の多くの業法の『業』や『事業』や『営業』と似ていますが,経済的取引という広い態様以外にはほとんど制限がありません。他の一般的な業法の『事業』よりも広い概念といえます。

<独占禁止法の『事業』の条文と解釈(文献)>

あ 条文規定

この法律において『事業者』とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。(以下略)
※独占禁止法2条1項

い 『事業』の解釈

『事業』とは
対価を得て,反復継続して商品の供給または役務の提供を行うこと(経済的取引を行う)をいう

う 営利性の要否(否定)

『事業』は,営利事業に限定されない
※村上政博ほか編『条解 独占禁止法』弘文堂2014年p3

以下,個別的な事業を対象とする個々の業法の中の『業』や『事業』の解釈を,基本的に法律名の50音順で並べます。

3 医師法の『医業』の解釈(判例)

医師法の『医業』の解釈を示した判例を紹介します。

<医師法の『医業』の解釈(判例)>

あ 解釈対象文言

『医業』
※医師法17条

い 解釈内容

反覆継続の意思で医行為に従事すること
※仙台高裁昭和27年7月4日;医師法違反・無免許営業
※名古屋高裁昭和26年1月29日;医師法違反・無免許営業

4 貸金業法の『業』の解釈(概要)

貸金業法における『貸金業』の定義をまとめます。

<貸金業法の『業』の解釈(概要)>

あ 『貸金業』の定義

金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介で『業として行う』もの
※貸金業法2条1項

い 『業として行う』の解釈

金銭の貸付け又は金銭の貸付けの媒介を反復継続し,社会通念上,『事業の遂行』とみることができる程度のものをいう
報酬・利益を得る意思や貸付の相手が不特定多数の者であることを要しない
※最高裁昭和30年7月22日など
詳しくはこちら|『貸金業』の定義と登録制・無登録営業への罰則(付随的サービスの適用除外)

判例上,取引の相手が不特定多数の者である,という基準が積極的に排除されています。
ただ,実務的には事業的規模の判断において,貸付け相手が不特定多数かどうかも影響すると思われます。
対公衆性も,事業的規模の判断要素の1つと言うことができるでしょう。

5 銀行法の『営業』の解釈(文献)

銀行法における『銀行業』の解釈論を紹介します。

<銀行法の『営業』の解釈(文献)>

あ 『銀行業』の定義

預金又は定期積金の受入れと資金の貸付け若しくは手形の割引とを併せ行い,又は,為替取引を行う『営業』をいう
※銀行法2条2項

い 『営業』の解釈

営利の目的をもって同種の行為を組織的・集団的に反復継続して行うことを言う
行為の相手方は特定の者ではなく不特定多数でなければならない
※小山嘉昭『詳解銀行法』金融財政事情研究会p63

6 金融商品取引法(金商法)の『業』の解釈(概要)

金融商品取引法における『金融商品取引業』の解釈論をまとめます。

<金融商品取引法(金商法)の『業』の解釈(概要)>

あ 『金融商品取引業』の定義

次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう
(各号は省略する)
※金商法2条8項

い 『業として』の解釈

対公衆性のある行為で反復継続して行われるものである
※鈴木竹雄ほか『証券取引法 法律学全集53』有斐閣1968年p235,236
※松尾直彦稿『金融商品取引法における業規制』/『ジュリスト1368号』有斐閣2008年12月p15

う 従前の法律からの変化と趣旨(概要)

金商法の制定前の同種の法律では『営業』という用語も使われていた
金商法の制定の際,営利性を要件から外すために『業』という用語が選択された
詳しくはこちら|金融商品取引法の『業』の解釈(従前の法律の『営業』からの変化や違い)

7 金融商品販売法の『業』の解釈(文献)

金融商品販売法における『金融商品販売業』の解釈論をまとめます。
この解釈では『不特定多数』が独立した基準として登場していません。

<金融商品販売法の『業』の解釈(文献)>

あ 『金融商品販売業』の定義

金融商品の販売等を『業として』行うこと
※金融商品販売法2条3項

い 『業として』の解釈

同種の行為を反復継続して行うことが,社会通念上,『事業の遂行』とみることができる程度のものであることをいう
※松尾直彦『逐条解説新金融商品販売法』金融財政事情研究会p106

う 参考|公的見解|中間整理

外部サイト|金融法委員会|金融商品取引業における『業』の概念についての中間論点整理|平成24年9月15日

8 古物営業法の『営業』の解釈(判例)

古物営業法における『営業』の解釈論を紹介します。

<古物営業法の『営業』の解釈(判例)>

あ 解釈対象

『営業』
※旧古物商営業法6条

い 解釈内容

営利の目的で所定の行為を反復継続することを営む意思をもってなすこと
実際の行為は1回でも認定できる
※最高裁昭和31年3月29日

9 資金決済法の『業として』の解釈(概要)

資金決済法の『業として』の解釈は,事務ガイドラインで,対公衆性と反復継続性があることと示されています。

<資金決済法の『業として』の解釈(概要)>

『業として行うこと』とは
『対公衆性』のある行為で『反復継続性』をもって行うことをいうものと解される
『対公衆性』や『反復継続性』が想定されている場合も『業として行う』に含まれる
現実に『対公衆性』のある行為が反復継続して行われている場合に限らない
※資金決済法2条2項
※仮想通貨交換業ガイドライン『Ⅰ−1−2(注1)』・p5
詳しくはこちら|仮想通貨交換業の定義と判断の方法(資金決済法とガイドライン)

10 司法書士法の『業務』の解釈(判例)

司法書士法における『業務』について,判例は反復継続の意思だけで足りる,報酬を得る目的は不要であると判断しています。

<司法書士法の『業務』の解釈(判例)>

あ 禁止行為(条文規定)

司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は,第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行つてはならない。ただし,他の法律に別段の定めがある場合は,この限りでない。
※司法書士法73条1項

い 解釈

司法書士法19条1項(注:当時の条文)の解釈につき,司法書士でない者が継続反覆の意思をもつて同法1条1項所定の書類を作成するときは,報酬を得る目的の有無にかかわりなく同条に規定する司法書士の業務を行つたものというべきである旨判示したことは正当であ(る)
※最高裁昭和39年12月11日

11 出資法の『業として』の解釈(概要)

出資法における『業』の解釈論の概要をまとめます。
この解釈の中には『営業』と使い分ける見解もあります。
なお『預り金』の定義の中に『不特定かつ多数』が相手であることが含まれています。
このような細かい規定・解釈は別に説明しています(後記)。

<出資法の『業として』の解釈(概要)>

あ 預り金禁止の構成要件

業として預り金をする
他の法律に特別の規定のある者を除く
※出資法2条1項

い 『業として』の解釈

反復継続の意思をもって預り金をすることをいう
『反復継続して預り金をする意図の下に』
※東京高裁昭和35年11月21日

う 営利目的の要否

営利の目的について
→構成要件には含まれない
=不要である
※津田実『出資の受入,預り金及び金利等の取締等に関する法律』曹時6巻7号p31

これは概要をまとめたものです。詳しい内容は別に説明しています。
詳しくはこちら|出資法の『預り金』規制の『業として』の解釈論

12 税理士法の『業』の解釈(概要)

税理士法の『業』の解釈については,最高裁判例と,これを踏襲する通達があります。

<税理士法の『業』の解釈(概要)>

『業(として)』の意味について
(税理士業務の対象業務を)反復継続して行いor反復継続して行う意思をもって行うことである
※税理士法2条1項
※税理士法基本通達2−1
※最高裁昭和41年3月31日
詳しくはこちら|『税理士業務』の定義(税務代理・税務署類の作成・税務相談)

13 宅建業法の『業』の解釈(概要)

宅建業法も『業』としての一定の行為・取引が規制されています。
この解釈論については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|宅建業法『業』解釈論|基本|業として/業を営む|判例

14 旧たばこ専売法の『小売人』の解釈(判例)

『業』の解釈論に関する古い判例もあります。
既に廃止されている『たばこ専売法』の解釈を示すものです。
条文上『業』という言葉はありません。
『小売人』という言葉の解釈です。
実質的には『業』と同様の解釈論が用いられています。

<旧たばこ専売法の『小売人』の解釈(判例)>

あ 解釈対象

『製造たばこの小売人』
※たばこ専売法29条;既に廃止されている

い 解釈内容

反復継続してする意思の下に,これを他に販売する(こと)
※最高裁昭和32年7月9日

15 動物愛護法の『業』の解釈(概要)

動物愛護法の『業』の文献による解釈論を紹介します。

<動物愛護法の『業』の解釈(概要)>

あ 『第1種動物取扱業』の定義

動物の販売,保管,貸出し,訓練,展示を『業として』行うこと
※動物愛護法10条1項

い 『業として』の解釈

次の態様で営利をもって扱うこと
ア 社会性 特定かつ少数の者を対象としたものでないこと
イ 反復継続的にor多数の動物ウ 有償・無償の別を問わない

う 頻度・取扱量の目安(文献)

年間2回以上or2頭以上
※動物愛護論研究会『改正動物愛護管理法Q&A』大成出版会p37
詳しくはこちら|第1種/第2種動物取扱業の定義と参入規制(登録/届出制)

16 廃棄物処理法の『業』の解釈(文献)

廃棄物処理法の要許可事項の規定をまとめます。

<廃棄物処理法の『業』の解釈(文献)>

あ 一般廃棄物処理業の要許可事項

一般廃棄物の収集又は運搬を『業として』行う者
→市町村長の許可を受けなければならない
※廃棄物処理法7条1項

い 『業』の解釈

廃棄物の収集又は運搬を特定又は不特定の人を対象に社会性をもって反復継続して行うことを意味する
有償・無償を問わない
※廃棄物処理法編集委員会編『廃棄物処理法の解説 平成21年度版』日本環境衛生センターp85

17 旧薬事法の『業』の解釈(文献)

薬事法の『業』の解釈論を紹介します。

<旧薬事法の『業』の解釈(文献)>

あ 医薬品製造販売の要許可事項

医薬品等について一定の許可を受けたものでなければ、『業として』製造販売してはならない
※薬事法12条1項

い 『業として』の解釈1

反復継続して不特定多数の人 に供給する目的をもって製造販売を行うことをいう
研究や治験のために製造し供給する場合や,病院の製剤室でその病院の患者(特定人)用に製剤し供給する場合には該当しない
※青柳健太郎『薬事法・薬剤師法・毒物及び劇物取締法解説第20版』薬事日報社p86

う 『業として』の解釈2

ある者の同種の行為の反復継続的遂行が社会通念上事業の遂行とみることができる程度のものである場合を言う
具体的事情から,社会通念上,『事業の遂行とみられる程度の社会的地位を形成するかどうか』によって決定する
※薬事法規研究会編『逐条解説 薬事法4訂版』ぎょうせいp231

なお『薬事法』は平成26年に法律の名称自体が変更されています。
現在は『薬機法』という名称となっています。

18 旅館業法の『営業』の解釈(概要)

旅館業法では『旅館業』という定義があります。
この定義に『営業』という用語が使われています。
厚生労働省の見解がいくつかあります。
ちょっと複雑です。
詳しくはこちら|旅館業の定義|『営業』解釈論

19 旅行業法の事業性の解釈(通達)

旅行業法について通達で解釈が示されています。

<旅行業法の事業性の解釈(通達)>

あ 基本的事項

次に該当するような場合
→行為の反復継続の意思が認められる
→事業性が認められる

い 事業性認定要素

ア 宣伝・広告 旅行の手配を行う旨宣伝,広告をしている
イ 店舗・看板 店を構え,旅行業務を行う旨看板を掲げている
※平成17年2月28日国総旅振386号旅行業法施行要領『第1 1 7)』

20 商法の『業とする』の解釈(文献・参考)

商法でも『業とする』という規定があります。
他の業法による規制とはちょっとニュアンスが異なります。
参考として解釈論を紹介します。

<商法の『業とする』の解釈(文献・参考)>

あ 商法|条文・規定

商人とは,自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう
※商法4条1項

い 解釈内容

『営業とする』と同義である
利益を得る目的をもって同種の行為を反復継続することをいう
※田邊光政『商法総則商行為第2版』新世社p32
※服部栄三『商法総則第2版』青林書院p174
※関俊彦『商法総論総則』有斐閣p108

本記事では,多くの法律の中の『業』『事業』『営業』という用語の解釈を集約して紹介しました。
実際には,個別的なサービスの提供の仕組みによって『業』などに該当するかどうかの判断は違ってきます。
実際にサービスの設計やすでに行っているサービスと業法の適用の有無の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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