1 手形の不渡|残高不足→支払(決済)不能=取引停止
2 手形の不渡に対する異議申立制度|異議事由は限定されている
3 手形不渡異議の際は『異議申立預託金』が必要である|法的性格
4 手形所持人=債権者は『異議申立預託金』を差し押さえないと回収できない
5 不渡異議申立預託金の差押の弱点|他の債権者との競合・銀行による相殺

1 手形の不渡|残高不足→支払(決済)不能=取引停止

手形は企業間の『決済・支払』の手段として使われています。
振出人は,期限までに口座に手形金の金額以上の残高を維持しておく必要があります。
『残高不足』となることは『倒産』を意味するのです。
手形の用語として『不渡』と呼んでいます。

<手形の『不渡』>

手形が決済されないこと=支払銀行が支払に応じられないと認めること
原則的に『取引停止処分』がなされる
一般的に振出人の『倒産』として扱われる

2 手形の不渡に対する異議申立制度|異議事由は限定されている

単なる資金調達の失敗による不渡は,本来的な『倒産』です。
しかし,イレギュラーな事態がある場合は『倒産』とは言えない場合もあります。
一定の事情がある場合は『不渡=倒産』を回避する方法があります。

<不渡に対する異議申立制度>

あ 異議申立

振出人が『不払いの正当性』を主張する手続
一定の『不渡事由』が前提(後述)
不渡異議預託金の提供が必要

い 手続

振出人が『異議申立預託金』を支払銀行に預ける
支払銀行が手形交換所に『異議申立提供金』と『申立書』を提出する

い 異議の対象となる『不渡事由』

ア 契約不履行
手形振出の原因関係上の契約に関する債務不履行
イ 詐取
手形振出が『詐欺』による
ウ 紛失・盗難
手形が紛失・盗難に遭ったものである

当然ですが『本来的な資金不足』以外の事情が前提となっています。

3 手形不渡異議の際は『異議申立預託金』が必要である|法的性格

『不渡異議』の際は手形金と同額の現金が必要です。
『異議申立預託金』についてまとめます。

<異議申立預託金>

あ 法的性格

振出人が不渡処分を免れるため,支払銀行→手形交換所に提供する金銭
手形金と同額の金額である
『手形所持人』のための『手形金支払を担保する目的』ではない

い 手形債権と同一ではない

『手形所持人』が『手形金請求権』の債務名義を持っている
→当然に異議申立預託金から優先弁済を受けられない
※最高裁昭和45年10月23日

略して『(不渡)異議預託金』と呼ぶこともあります。

4 手形所持人=債権者は『異議申立預託金』を差し押さえないと回収できない

『不渡異議申立』がなされた状態では『手形所持人=債権者』は『手形金を回収できない』状態にあります。
『残高不足で決済できない』という状態です。
そこで『異議申立預託金』をターゲットにするのが通常です。

<手形不渡の異議申立→『手形所持人』の対応>

あ 暫定措置

『異議申立預託金返還請求権』を仮差押する

い 回収実現

債務名義を得る
→(本)差押=換価する
※大阪地裁昭和58年9月26日

『異議申立』を取り下げれば,振出人の手元に『異議申立預託金』が戻ります。
これを防ぐために,まずは仮差押を行います。
これで『ストレートに振出人が異議申立預託金を取り戻す』ことができなくなります。
その上で訴訟→判決獲得(債務名義)などにより,(本)差押をするのです。
これで回収が実現します。
逆に言えば,債権者は不渡異議に対して,迅速に対応しないと『回収失敗』となります。
この点,回収を受任した弁護士のミスの責任を審理した判例もあるくらいです。
詳しくはこちら|不渡異議預託金への仮差押を怠った→依頼者の悪質性により弁護士の責任なし

5 不渡異議申立預託金の差押の弱点|他の債権者との競合・銀行による相殺

『異議申立預託金』を債権回収のターゲットとするのは王道的方法です。
ところが,一定の弱点もあります。

<不渡異議申立預託金の換価の弱点>

あ 他の債権者とのコンフリクト

『仮差押』は優先弁済の効力はない
『差押』の手続で『仮差押債権者以外の債権者』が配当要求できる
→債権額で按分される
※民事執行法154条1項

い 支払銀行による『相殺』

『第三債務者=支払銀行』は『仮差押命令送達前』から有している反対債権で相殺できる
※最高裁昭和45年6月18日

このようなリスクも含めて最初の段階で方針を検討・決定することが重要です。