1 権利の帰属|証券会社名義の株式→顧客の財産である|最高裁昭和43年7月11日
2 権利の帰属|無記名式定期預金→資金負担者|最高裁昭和48年3月27日
3 権利の帰属|保険代理店の普通預金→代理店に帰属|最高裁平成15年2月21日
4 信託|請負工事の前払金→破産財団ではない|最高裁平成14年1月17日
5 信託|友人4人で積み立てた預金→差押無効|東京地裁平成24年6月15日

本記事では『倒産隔離』に関して参考となる判例をまとめました。
『権利の帰属』『信託』の2つの判断ポイントに分けて,順に紹介します。
なお,倒産隔離の基準や判断フローをまとめたものは別記事に整理してあります。
詳しくはこちら|倒産隔離|権利の帰属・信託の2段階で判断する|判例の判断フロー・基準まとめ

1 権利の帰属|証券会社名義の株式→顧客の財産である|最高裁昭和43年7月11日

<事案と争点の概要>

あ 事案

顧客が証券会社に株式購入代金を預託した
証券会社が便宜的に『証券会社名義で』株式を購入した(株式名義人となった)
証券会社が破産した

い 争点

株式が破産財団となるor顧客の財産となる

<株式の帰属→『顧客』>

あ 『問屋』に該当;商法551条

証券会社は『他人のために物品の販売・買入を業とする者=問屋』に該当する

い 『問屋』の成立論

問屋はその性質上,自己の名においてではあるが,他人のために物品の販売 または買入をなすを業としている
→問屋の債権者は,問屋が委託の実行により取得した権利についてまでも自己の一般的担保として期待すべきではない

う 問屋の委託の実行により権利を取得する者

ア 『取引の相手方に対して』
権利を取得する者は,問屋であって委託者ではない
イ 実質的権利の帰属
権利は委託者の計算において取得されたものである
→これにつき実質的利益を有するものは委託者である

え 結論

取得した財産(株式)は委託者(顧客)に帰属する

細かい明文規定・法律の解釈を排除した『裸の価値判断』という批判がなされています。

2 権利の帰属|無記名式定期預金→資金負担者|最高裁昭和48年3月27日

<判決の概要>

あ 事案

Aが資金を負担した
預金名義だけ『B』にした

預金者はAである
『B』への債権を反対債権とした相殺は無効

い 裁判所の判断

負担者を預金者とする
(判決文では 『出捐者;しゅつえんしゃ』と表記されている)

3 権利の帰属|保険代理店の普通預金→代理店に帰属|最高裁平成15年2月21日

<事案と争点の概要>

あ 事案

Y株式会社はF保険株式会社の代理店であった
保険加入者(顧客)はY社に保険料を支払った
この金銭は『F保険株式会社代理店Y株式会社』という名義の不通預金口座に預け入れられていた
Y株式会社は手形の不渡りを出した
預金の預入先金融機関はY社への債務とこの預金を相殺した

い 争点

相殺は有効or無効
=『預金者』はF社orY社

う 注意点

『顧客の代わり(に保管)』という感覚ではない
→『顧客』に帰属,という考えは出てこない

<裁判所の判断>

あ 事情の評価

・預金口座開設者=Y社
・口座名義
『F保険株式会社代理店Y株式会社』は預金者としてF社ではなくY社を表示している
・代理権授与がない
F社がY社に対し『預金契約締結の代理権授与』を行っていない
・通帳・届出印の保管・口座管理
預金口座の通帳・届出印をY社が保管していた
入金・払戻の事務をY社が行っていた→Y社が『管理者』

い 裁判所の判断(結論)

顧客から受領した保険料の所有権はいったんY社に帰属する
Y社は,同額の金銭をF社に『送金する義務』を負担する
なお,仮に『代理』だとしても,金銭は『占有=所有』なので預金は,名義人=Y社に帰属する

以下『信託』についての判断に関する判例に移ります。

4 信託|請負工事の前払金→破産財団ではない|最高裁平成14年1月17日

(1)事案の概要

<事案と争点の概要>

あ 事案

A県がN建設に建設工事を発注した
A県は『前払金』をN建設に送金し,預けた
N建設が破産した

い 争点

『前払金』は破産財団となるorA県の取戻しとなる

<工事・前払金に関する合意・契約など>

あ A県公共工事請負契約約款

『前払金を工事の必要経費以外に支出してはならない』

い 保証事業法

保証事業会社は請負者が前払金の使用の適正さについて厳正な監査を行う義務がある
※保証事業法27条

う 前払金保証約款

前払金の保管,払出しの方法
保証会社による前払金の使途についての監査
使途が適正でないときの払出し中止の措置など
※保証事業法12条1項

(2)裁判所の判断

裁判所は,以上のような細かい事情を丁寧に考慮しています。
裁判所の判断プロセスを整理しながら再現します。

<ポイント>

あ 分別管理
い 『使途』の限定の合意
う 『使途』の適正の監査

この3点を軸にすると判例の内容が理解しやすいです。
裁判所は『信託契約』の成立を認めました。

<信託契約の成立>

成立時点 前払金が預金口座に振り込まれた時点
委託者 A県(工事の発注者)
受託者 N建設(工事の受注者)
受益者 A県(工事の発注者)
信託財産 前払金
目的 前払金を工事の必要経費の支払に充てること

ここで『預金』については『信託財産であること』についての対抗要件がありません。
そこで『分別管理の状況』が重要な判断要素となります。
なお,この判断方法・基準については,別記事にまとめてあります(リンクは冒頭に記載)。

<『信託財産』であることの対抗力>

あ 対抗要件の要否

預金の性格(信託財産であること)についての登記・登録の方法がない
→対抗要件は不要

い 対抗力の条件=分別管理の内容

次の2点から対抗力を認めた
ア 一般財産からの分別管理
イ 特定性をもった保管
※信託法3条1項,16条,63条

5 信託|友人4人で積み立てた預金→差押無効|東京地裁平成24年6月15日

<事案と争点の概要>

あ 事案

A〜Dの4名は友人であった
A〜Dは,一緒に旅行に行くための費用を積み立てることにした
積み立て金の保管用の普通預金口座を『E会 代表者A』の名義で作った
『Aの債権者』がこの預金口座を差し押さえた

い 争点

預金が帰属する者は『Aだけ』or『A〜Dで4分の1ずつ』or『E会』

<裁判所の判断>

あ 事情の評価

ア 『E会』は『権利能力なき社団』『民法上の組合』には該当しない
イ 預金者はAである
ウ AとB〜Dの間に,信託契約が成立している
→預金額の4分の3は『信託財産』である

い 裁判所の判断(結論)

預金額の4分の3部分の差押は無効
ポイント;預金名義から『純粋なA個人の財産ではない』ことが明白であった