1 財産を預けた者vs預かった者の債権者の優劣問題|倒産隔離
2 倒産隔離|判断フローの全体像のまとめ
3 倒産隔離|『権利の帰属』の判断基準のまとめ
4 倒産隔離|『信託』に該当すると特別扱い→差押・換価を回避できる
5 倒産隔離|『信託』の判断基準のまとめ
6 倒産隔離|弁護士業務の預り金は原則的に『信託』となる
7 倒産隔離|例外的な救済的な措置は別問題
8 信託は『預けた者の債権者』からの差押も回避できる|参考判例
9 弁護士が業務で顧客から預かった金銭の保護|まとめ|参考

本記事では『倒産隔離』の基本的な考え方,判断基準を説明します。
判例については別記事にまとめてあります。
詳しくはこちら|倒産隔離|判例の事例の整理

1 財産を預けた者vs預かった者の債権者の優劣問題|倒産隔離

財産を『預けた』という場合に『預かった者』が倒産すると,法的な扱いの問題が生じます。
『預けた財産』が『倒産』に巻き込まれないようにすることを『倒産隔離』と呼んでいます。
具体的な典型例をまずはまとめておきます。

<倒産隔離|具体的状況>

あ 財産を預ける

Aが,財産(金銭など)をBに預けた

い 倒産や差押

ア Bが破産した→この財産を売却・換価
イ Bの債権者がこの財産を差し押さえた

う 切実な問題

『Aは預けた財産を取り返せる』
or
『Bの債権者が優先』

2 倒産隔離|判断フローの全体像のまとめ

『倒産隔離』となるのかならないのか,については多くの判例があります(リンクは冒頭に記載)。
判例は一見チグハグに見えます。
しかし,詳細に考察すると再現可能な基準が『あぶり出せる』のです。
以下『倒産隔離の判断方法・基準』を説明します。
まず最初に『総まとめ』とも言える判断フローを整理したものを挙げます。

<倒産隔離|判断フローの全体像>

あ 『権利の帰属』がどちらか

ア 預けた者→差押・換価NG
イ 預かった者
↓次へ

い 『信託財産』に該当するかどうか

・特定性
・対抗要件
ア この2つを満たす→差押・換価NG
イ 満たさない

差押・換価OK

このように大きく分けると判断ポイントは2点です。
『権利の帰属』と『信託』の判断です。
これらについて以下,説明を続けます。

3 倒産隔離|『権利の帰属』の判断基準のまとめ

倒産隔離の問題の結論を出すために,第1段階として『権利の帰属』を判断します。
要するに次のうちどちらの所有物か,ということです。

<『預けた財産』の『権利の帰属者』選択肢>

ア 預けた者=『負担者』
イ 預かった者=『名義人』

この判断基準は,多くの判例を集約すると次の3要素でカバーできます。

<『権利の帰属』は『名義人』or『負担者』|まとめ>

あ 純粋な名義貸し借り

→『負担者』が権利者となる
《具体的な状況》
『形式的名義人』は直接的な利害関係がない・『スルー』の状態

い 各当事者が利害関係を持つ・名義が不明確

→実質的な『管理者』が権利者となる
例;預金の場合は通帳・届出印の保管者

う 『代理方式』が明確

→『名義人』ではなく『負担者』が権利者となる
典型例=『資産運用・財産の購入・管理』そのものを引き受けた

これ以上具体的な事例については,判例の説明の記事をご覧ください(リンクは冒頭に記載)。
『権利の帰属』が『負担者=預けた者』であれば,当然『名義人=預かった者』の債権者は差し押えることはできません。
破産の場合も『破産財団』には入りません。
売却・換価がなされない,ということです。

4 倒産隔離|『信託』に該当すると特別扱い→差押・換価を回避できる

前述の『権利の帰属』が『名義人=預かった者』となった場合については,さらに続きがあります。
まず通常『財産を預かった人』の所有物,であれば『預かった人の債権者』が差押をすることができます。
しかし『信託財産』に該当した場合は『差押はできない』という特別扱いになります。
『信託』の判断に入る前に『信託による特別扱い』をまとめます。

<『信託財産』の特殊な扱い>

あ 信託財産の『所有者』は『受託者』

『信託財産』は『受託者に帰属』する
※信託法2条3項

い 『受託者固有の財産』ではない

信託財産は,一般の『差押』ができない
『受託者の破産・民事再生』でも『受託者固有の財産』としては扱われない
※信託法23条1項,25条1項,4項

う 対抗要件

『信託財産に属すること』の主張は第三者と対抗関係になることがある
『第三者』の例=受託者の債権者・受託者の破産管財人
『登記・登録』は第三者対抗要件となる
※信託法14条

関連コンテンツ|信託財産の分別管理|受託者個人が責任を負うリスク|回避方法=限定責任信託
信託財産は『受託者の所有物』ですが『受託者の債権者は差し押さえられない』という状態になります。
『預けた者』としては,なんとか『信託』として認められれば差押・売却換価を回避できるということです。
では2段階目の『信託』の判断,についてまとめます。

5 倒産隔離|『信託』の判断基準のまとめ

(1)『信託』該当性の基本的事項

『信託』の判断はちょっと複雑です。
最初に基本的なものだけをまとめます。

<『信託』該当性の判断|基本>

あ 『信託』という契約書・タイトルで決まるわけではない

次のような場合でも『信託』として認められることはある
ア 『財産を預かる』ことの契約書がない場合
イ 契約書はあるが『信託』の用語を使っていない

い 『財産を預かっている状態』で判断する

財産を預かっている条件・預かった状況などで『信託』にあたるかどうかを判断する

(2)『信託』の判断|分別管理の程度

判断材料となる『財産を預かっている状態』は『分別管理義務』と直結しています。
まずは,受託者が負う『分別管理義務』を整理します。

<分別管理の方法;信託法34条>

あ 信託の登記・登録ができる財産

信託の登記・登録

い 信託の登記・登録ができない財産
動産(金銭を除く) 外形上区別することができる状態で保管する
金銭・その他 『その計算を明らかにする方法』

(3)特定性=『その計算を明らかにする方法』の内容

この『分別管理義務の内容』が『信託』の判断にそのまま使われる,という状況です。
分別管理の内容のうち『金銭』については『その計算を明らかにする方法』となっています。
これを『特定性』と呼んでいます。
『特定性』の内容を整理します。

<『計算を明らかにする方法』=『特定性』>

あ 原則論

個々の特定の財産について『信託財産に属すること』を証明できることが必要
※高田賢治『譲渡担保権者の破産と受託者の破産』大阪市立大学法学雑誌57巻4号p14

い 『金銭の特定性』

ア ベスト
信託財産専用の預金口座を設けて,口座の入出金として管理する
預金口座名義に『信託口(しんたくぐち)』を付けるとパーフェクト
→最近はこの名義を認める金融機関が増えつつある
※遠藤英嗣『新しい家族信託』日本加除出版p98
イ ミニマム
受託者の帳簿において『信託財産に属する金銭の収支・現在残高』を明確にしておく
※信託法34条1項2号ロ

以上の基準により『信託(財産)』に該当するかどうか,を判断できます。
具体的な判断の事例は別記事で判例を説明しています(リンクは冒頭に記載)。

6 倒産隔離|弁護士業務の預り金は原則的に『信託』となる

弁護士は業務の中で顧客から『金銭を預かる』という頻度が高いです。
これに関して法律上『弁護士の預り金』に関する規定があります。

<弁護士・弁護士法人の『顧客からの預り金』の扱い>

あ 原則的扱い

『信託財産』となる
※信託業法2条1項,施行令1条の2第1号(が前提としてる)

い 前提

『分別管理』をしっかりと行っている
→預金口座に『預り口(あずかりぐち)』を付けるのが通常である

信託業法・施行令で『信託業の免許などを不要』としている規定があるのです。
これは逆に『信託であること』を前提としている,と言えます。
なお,実際には『分別管理』がしっかりしていないと『特定性』が否定される可能性はあります。
特定性が欠ければ,結論としては『信託』として認められない,ということになります。

7 倒産隔離|例外的な救済的な措置は別問題

以上は基本的な枠組みの説明でした。
これとはまったく別に『個別的な特殊事情による救済措置』もあります。
ここでは制度のみまとめておきます。

<倒産隔離に関する個別的救済措置規定>

あ 債権の準占有者への弁済

※民法478条

い 無権代理人の責任

※民法108条〜

う 詐害行為

ア 詐害信託
※信託法11条
イ 詐害行為取消権
民法424条

詳しくはこちら|詐害行為取消権・否認権|要件・類型・詐害性判断基準

8 信託は『預けた者の債権者』からの差押も回避できる|参考判例

ここまで説明した倒産隔離とは『逆方向』の事例があるので,参考として紹介します。
『預けた金銭』について『預けた者の債権者』が差押をした,という事例です。

<判決の概要|最高裁平成15年6月12日>

あ 事案

依頼を受けた弁護士が依頼者から金銭を預かった
この金銭は『弁護士名義の預金口座』に保管されていた
依頼者の債権者(国)がこの預金口座を差し押さえた

い 裁判所の判断

預金は受任した弁護士に帰属する
差押は無効
※信託法23条1項

要するに『所有権=弁護士』であるため『依頼者の財産ではない』ということです。
『差押回避エリア』ができた状態です。
もちろん悪用など,個別的な特殊事情によっては別の結論となることもあります。

9 弁護士が業務で顧客から預かった金銭の保護|まとめ|参考

以上の法律・判例の説明の中で『弁護士が預かった金銭』が登場しました。
ここで『弁護士の預り金』についてだけを整理してみます。

<弁護士の『預り金』の保護|まとめ>

あ 自動的に信託となる

※信託業法2条1項,施行令1条の2第1号(が前提としている)

い 『弁護士の債権者』からの差押を回避

適切な『分別管理』が当然の前提となる
※信託法23条1項,25条1項,4項

う 『依頼者の債権者』からの差押を回避

※信託法23条1項
※最高裁平成15年6月12日