【プライバシー権のまとめ|判例の基準|定義の発展】

1 プライバシー権が認められるに至った歴史
2 プライバシー侵害の基準
3 『公的事項』『有名人』はプライバシー侵害が『適法』となる傾向あり
4 『プライバシー情報』は公表を望まない広範な事項|具体例
5 プライバシー権の拡大傾向|自己情報コントロール権
6 積極的プライバシー権→個人情報保護法として成文化された
7 新しい構成|忘れられる権利・削除権|概要
8 プライバシー権・『個人情報保護』の『過剰反応問題』

1 プライバシー権が認められるに至った歴史

(1)プライバシー権誕生の経緯

『プライバシー』は非常に重要で保護すべきものです。
ところが,法律上は『プライバシー権』という規定がありません。
社会の発展とともに,判例において『権利』として認められるに至ったのです。
まずは,『プライバシー権』の内容の根幹=定義について説明します。
なお,実際の法的責任,侵害の判断基準などの現実的問題は後述します(後記『2』)。

(2)プライバシー権の『定義』

プライバシー権の定義は時代の流れとともに変化しています。

<『プライバシー権』の古典的定義>

私生活上の事柄をみだりに公開されない法的保障・権利
※『宴のあと』事件;東京地裁昭和39年9月28日

<積極的プライバシー権=自己情報コントロール権>

他者が管理している自己の情報について開示・訂正・削除を求めることができる権利
→個人情報保護法で具体化(後記『6』)

(3)プライバシー権の法的根拠と他の権利との調整

<『プライバシー権』を認める法的根拠と調整の必要>

あ 憲法13条

幸福追求権・個人の尊重→人格権

い 民法709条

プライバシーの『侵害』が『不法行為』に該当する

う 他の権利との調整

ア 表現の自由イ 報道の自由ウ 知る権利

2 プライバシー侵害の基準

(1)プライバシー権侵害の基準

現実に,一定の事項を『公表』すると,『プライバシー権侵害』となります。
このような対象となる情報を『プライバシー情報』と言います。

<プライバシー権侵害の判断基準>

あ プライバシー情報

次のすべてを満たす情報
ア 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあるイ 一般人が公開を欲しないウ 一般の人々にまだ知られていない(※1)

い 公開・公表
う 不快・不安の発生

公開・公表の結果,被害者本人に実際に不快・不安の感覚が生じた
※『宴のあと』事件;東京地裁昭和39年9月28日

※1 『民事訴訟における主張』も『まだ知られていない』にあたります(後記『3』)。

(2)プライバシー権侵害が『適法』となる基準

一方で,形式的にプライバシー権侵害,となっても,例外的に『適法』となることもあります。

<プライバシー権侵害→違法性が否定される事情>

あ 『被害者』本人の承諾
い 公的な事項+公共性

典型例は後述します(後記『3』)。

う 正当な理由

個別的に事情を総合考慮する
ア 開示目的イ 開示の必要性ウ 開示行為の態様エ 被害者が受けた不利益の程度

(3)プライバシー権侵害に対する法的責任

<違法なプライバシー権侵害となった場合の法的責任>

あ 損害賠償請求

生じた『損害』についての賠償責任

い 差止請求

ア 公開を止めさせるイ 回収させる

3 『公的事項』『有名人』はプライバシー侵害が『適法』となる傾向あり

(1)『公的』であるためにプライバシー権侵害とならない典型例

『公的なこと』『公人』についてはプライバシー侵害が否定される傾向があります。
理論については,名誉毀損罪の違法性が否定される規定の趣旨と同様です。
詳しくはこちら|名誉毀損罪(構成要件と公共の利害に関する特例)

<プライバシー侵害が否定される典型例>

議員立候補者のプライベートな事情

有権者は投票するかどうかの判断として有用

『プライバシー』よりも『公表』を優先する
=プライバシー権侵害を否定する(方向)

(2)有名人はプライバシー権侵害が否定される傾向

有名人がある店舗や場所に居た,という情報がSNSを通して拡散することがあります。
この場合は,『適法』となる基準(上記『2(2)』)のうち,『本人の承諾』や『正当な理由−不利益の程度』が重要となります。

<有名人の『目撃情報拡散』×プライバシー権>

あ 本人の承諾

有名人なので,一般人の目に触れる場所に居る以上,多くの人が興味を持つことは『想定内』である

い 不利益の程度

多くの人が『所在』に興味を持つのは『想定内』である

う 判断の方向性

『適法』という判断になりやすい

以上はあくまでも『傾向』であり,個別的判断で結論は決まります。

<有名人の『目撃情報拡散』が違法なプライバシー権侵害となる例>

あ 影響度が特に大きい場合

例;投稿者のフォロワーが膨大→拡散により実際に多くの人が店に見に来た(野次馬)

い 投稿者が店舗・施設の従業員である場合

店舗関係者が顧客の来店を公表することは『想定外』

(3)『民事訴訟における主張』は『まだ知られていない』にあたる

<民事訴訟の『訴訟記録』の情報;『まだ知られていない』の判断>

あ 民事訴訟の『主張事実』のプライバシー性

当事者両方(原告+被告)にとって知られたくない情報

プライバシー情報にあたる

い 民事訴訟の内容・情報の特殊性

ア 訴訟は公開の法廷で行われるイ 訴訟記録の閲覧が制度上認められている →『まだ知られていない』=違法性なし,という主張もある

う 裁判所の判断 

『一般の人々に知られていた』とは認められない

『違法性なし』にはならない
※東京地裁平成13年10月5日

4 『プライバシー情報』は公表を望まない広範な事項|具体例

『プライバシー権侵害』となるような『公表』の内容は多くのものがあります。
上記の『プライバシー情報』のことです。

<プライバシー情報の典型例>

ア 前科,過去の犯罪行為イ 疾病(持病・病歴)ウ 身体的特徴エ 指紋オ 日常生活・行動・住所カ 身分行為(結婚・離婚)キ 犯罪捜査としての情報(の取得)

これらについては,多くの判例で『プライバシー情報』として認められています。
別項目|プライバシー権|多くの判例や公的見解|グーグル・ストリート・ビューなど

5 プライバシー権の拡大傾向|自己情報コントロール権

(1)『自己情報コントロール権』もプライバシー権の一環となる

『プライバシー』という考え方は,社会の変化で生まれ,判例において『権利』として認められたのです。
その後,社会の情報化が進み,『プライバシー』の考え方もさらに発展しています。

<積極的プライバシー権=自己情報コントロール権>

自己に関する情報の保有者に対して,情報の訂正・削除を求める権利

(2)国際的な『プライバシー権』の保護

国際的にも,『プライバシー』の保護が重視されるようになってきました。

<経済協力開発機構(OECD)のプライバシー8原則>

あ 収集制限の原則

個人データを収集する際には,法律にのっとり,また公正な手段による
個人データの主体(本人)に通知または同意を得て収集する

い データ内容の原則

個人データの内容は,利用の目的に沿ったものであり,かつ正確・完全・最新であるべき

う 目的明確化の原則

個人データを収集する目的を明確にする
データを利用する際は収集した時の目的に合致している

え 利用制限の原則

原則として収集したデータをその目的以外のために利用しない

お 安全保護の原則

合理的な安全保護の措置によって,紛失や破壊・使用・改ざん・漏えい等から保護する

か 公開の原則

個人データの収集を実施する方針などを公開し,データの存在やその利用目的・管理者を明確に示す

き 個人参加の原則

個人データの主体が,自分に関するデータの所在やその内容を確認できる+異議を申し立てることを保証する

く 責任の原則

個人データの管理者は,これらの諸原則を実施する責任を有する
※OECD理事会が平成2年に勧告

6 積極的プライバシー権→個人情報保護法として成文化された

(1)自己情報コントロール権は個人情報保護法として成文化された

OECD勧告に応じて,日本の法律として制定されたのが『個人情報保護法』です。

<個人情報保護法の誕生経緯>

あ 法律制定の趣旨・経緯

ア OECDのプライバシー8原則の成文化イ 積極的プライバシー権の具体化

い 施行時期

平成17年4月1日全面施行

(2)個人情報保護法の対象=『個人情報』

個人情報保護法の対象とされる情報は『個人情報』です。
個人情報保護法において定義されています。
これは『プライバシー情報』よりも『広い』概念です。

<『個人情報』の定義>

あ 基準

『生存する個人に関する情報』
『特定の個人を識別できるもの』

い 典型例

氏名・生年月日など

う 注意;『プライバシー情報』との違い

『私生活上の情報』以外も含まれる
『公知の情報』も含まれる
※個人情報保護法2条1項

詳しくはこちら|既存顧客や名刺の住所へDMなどの送付×個人情報保護法

7 新しい構成|忘れられる権利・削除権|概要

プライバシー権を新しい形で構成する考え方もあります。
積極的に個人の過去が『忘れられる』ことを権利と捉えるものです。
過去のネガティブ情報の『削除を求める権利』という考え方もあります。
裁判例でこの考え方が採用されるケースも登場しています。
詳しくはこちら|プライバシー権×前科|基本|忘れられる権利|報道以外

8 プライバシー権・『個人情報保護』の『過剰反応問題』

以上の説明のように,『プライバシー』については時代の流れとともに『重視』されるようになってきました。
これ自体は良いことなのですが,『過剰に反応する』という,副作用・弊害も多く生じています。
特に『個人情報保護法』の過剰適用,というものが目立ちます。

<個人情報保護法の『過剰適用』問題>

あ 学級名簿・卒業アルバム

発行自体を控えるなど

い 医療機関への個人情報提供

緊急時の照会に対して『開示拒否』するなど

う 安否照会

例;鉄道事故で,鉄道会社が『被害者の家族からの安否照会に応じない』など

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