【相続債権者による相続財産清算人の選任手続と換価・配当の流れ】

1 相続債権者による相続財産清算人の選任手続と換価・配当の流れ

債権者は、債務者に売却できるような財産があれば、最終的には差押をして強制的に回収することができます。債務者が亡くなった場合は、その相続人に対して請求する、差押をする、ということになります。ここで、債務者に相続人がみあたらない場合はどうするか、という問題があります。本記事ではこのことを説明します。

2 債務者が亡くなった場合は差押ができない

設例

私(A)はBにお金を100万円貸していました。
Bは預金・不動産などの財産を多く持っていたので安心していました。
最近Bが亡くなりました。Bの子・兄弟はみな相続放棄をして、相続人が居ない状態です。
どうやってお金を返してもらえば良いのでしょうか。

財産はあっても、債務者Bは亡くなっているので、Bに対する請求や差押はできません。
この場合、債務者の財産は原則的に、相続人が承継した、つまり相続人の所有物になっているはずです。承継した相続人を相手方として差押などができます。

3 相続人が不存在、不明、という場合は相続財産清算人選任の申し立てができる

しかし、相続人が居ない場合『宙に浮いたまま』となるのです。
この点、親子などの身分関係が当事者の死後に生じることもあります。
詳しくはこちら|死後の認知|全体|認知を回避or遅らせる背景事情
そのため、戸籍上は相続人がいないように見えても、実際には相続人が存在するということもあるのです。
このように相続人の存在が不明である場合、家庭裁判所に相続財産清算人(令和3年改正前の相続財産管理人)を選任してもらうことができます

家裁による相続財産清算人選任の手続

あ 要件

次のいずれかに該当する
ア 相続人が存在しないイ 相続人が存在するかどうかが不明である

い 申立人

ア 利害関係人 典型例は『債権者』である
イ 検察官 詳しくはこちら|相続人不存在のケースで相続財産清算人の選任を請求できる者

う 家裁の決定

家庭裁判所が審理する
相続財産清算人を選任する
※民法951条、952条
別表第1事件として分類されている
詳しくはこちら|家事事件(案件)の種類の分類(別表第1/2事件・一般/特殊調停)

申立の際には、100万円程度の予納金が必要になることもあります。
詳しくはこちら|各種管理人の選任の管理人報酬(予納金)の要否や相場(相続財産清算人・不在者財産管理人)

4 相続財産清算人選任の手続の流れ

相続財産清算人が選任される手続の流れを説明します。
全体で1年程度を要します。

相続財産清算人の主な手続きフロー

あ 相続財産清算人の選任

家庭裁判所が、相続財産清算人選任の審判を行う
相続財産清算人が選任されたことを知らせるための公告をする
↓2か月経過

い 債権者・受遺者に向けた公告

相続財産清算人は、相続財産の債権者・受遺者を確認するための公告をする
↓2か月経過

う 相続人に向けた公告

家庭裁判所は、相続人を捜すため、6か月以上の期間を定めて公告をする
→期間満了までに相続人が現れなければ、相続人がいないことが確定する
特別縁故者に対する相続財産分与の申立てがされることがある
財産管理人は、裁判官の許可を得て、被相続人の不動産や株を売却し、金銭に換える
財産管理人は、債権者や受遺者への支払、特別縁故者への相続財産分与を行う
相続財産が残った場合は、共有者への持分移転や相続財産を国に引き継いで手続が終了する
詳しくはこちら|相続人不存在の国庫帰属の引き継ぎ先と権利移転タイミング

5 相続財産清算人による配当手続

債権者として、相続財産清算人の選任申立をすることがあります。
この場合の手続について説明します。

相続財産清算人を相手方として差押をする、という発想があります。
しかし、差押の必要はありません。
相続財産清算人が財産を債権者に配当することになります。

相続財産清算人は、『破産管財人』と似ている業務を行います。
財産を売却するなどして金銭に換えて、債権者に配当してくれるのです。
既に基本的な相続財産清算人の業務フローに含まれているのです。

6 相続財産清算人;配当;無剰余→按分配当

債権者が多く、相続財産で返済しきれない場合は按分配当となります。
全額は弁済されないことになります。
相続財産清算人が財産換価、債権額の集計をして、債権額の割合に応じて弁済します。
※民法957条2項、929条

7 相続財産清算人による配当→剰余金の行方

債権者への配当後、財産が余ることもあります。
この場合の行方は法律上規定されています。

相続財産清算人が行う、配当後の財産の処理

※優先順序はこのとおりです。
あ 特別縁故者への付与

被相続人との関係が濃厚であったが相続人ではない人について
例=内縁の妻
→遺産が承継されることがある
※民法958条の3

い 他の共有者への持分移転

共有物についてだけ適用される
民法255条

う 国庫帰属

最終的に遺産は国庫に帰属する
詳しくはこちら|相続人不存在では遺産は特別縁故者か共有者か国庫に帰属する
※民法959条

本記事では、相続財産清算人の選任の基本的な内容を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に相続人がみあたらない、という問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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